#27 たそがれ
清々しい青空が次第に茜色に染まっていく。
黄昏時だ。
金木犀香るこの時期の夕焼けはどこか懐かしく儚い気持ちになる。
仕事でも休日でもやることもなくダラダラと過ごした1日を忘れられるこの時間。
窓の外を見て1人想いに浸っていた。
「**君。またたそがれているのか」
太く低い落ち着きのある声。
「部長」
片手はポケットに手を入れて、もう一方の手にはコーヒーを持って立っていた。
「この時間になると何もかもがどうでも良くなってしまうんですよね…」
この人だけには本音を話せる。そんな人だった。
「どうでもいい…か…。君は今の人生をどう思っている?」
「どうって…?」
「私は必死に生きてきた。嫌いな先輩がいてね。その人には負けたくないと必死に足掻いてここまで来たんだ。もうその先輩は辞めていってしまったけどね。見返すことはできたんじゃないかな?」
「部長にもそんなことがあったんですね…」
「そうなんだ…でもどうだろう。その先輩を見返すために必死になって働いてきたけど、部長になった今は守るものも背負うものも多くなっただけで、あの頃のように必死になることは出来ない」
そう言って部長は持っていたコーヒーをゆっくりとひとくち飲み込んだ。
「だから**君。君には必死になれる何かを見つけて欲しいんだ。人生が黄昏れる前にね」
しぐれ
10/2/2024, 1:20:03 AM