日見しぐれ

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4/18/2025, 11:57:55 AM

#37 物語の始まり

新鮮な血の匂いがした。

大地をひっくり返したように騒がしかった世界が、

一瞬で静まり返った。

荒れ果てたこの街や空には巨大なカラクリが動き廻っており、生きている人の姿は見えず、
少年がただひとり立ち尽くしていた。

「いつからだろう、この世界がカラクリに支配されたのは…」

目の前が謎の光に包まれていく。
___

たくさんの本がしまわれた森の中の書庫で、 鳥のさえずりとともに朝日が部屋を照らす。

私は机に伏せて眠っていたようで、慌てて顔を上げた。不思議な夢を見ていた気がしてどうにも寝覚めが悪い。

「サク、ようやく目覚めおったか」

部屋の奥から長くたくましい髭を生やした老人が私の方に向かってきた。

「また、遅くまで調べものをしておったのじゃな。何かわかったことはあったのか?」

『調べもの?…そうか』

机の上に散らばっているたくさんの書物を見て、自分が''何か''を調べていたのだと思い出した。

「いえ、まだ何も…」

何かわかるどころか、記憶が無い。思い出せない。

「まぁ、そんなに気を詰めていても仕方がない。そういえば最近『中央平原』で面白いものが見つかったそうじゃよ。気晴らしに行ってみてはどうだ?」

老人は散らばった本を本棚に戻しながらサクに話しかけてきた。

「面白いもの?」

気になる。と言うよりも。
行かないと行けない気がする不思議な感覚に陥っていた。

「わかりました、少し行ってみようと思います!」


しぐれ

4/7/2025, 11:33:32 AM

#36 フラワー

誰にも目を向けられず

毎日踏み潰されながらも耐えてきた

輝かしい未来を思い描いて

ただひたすらに

光を求めて伸びてきた

「僕はここだよ」

そうやって主張して明るく振舞っても

ヒトには僕の良さが分からないみたい

僕が咲くべきところはここじゃなかったのかもな

咲く場所が違えば輝ける場所も変わってくる

次はどこで花を咲かせよう

しぐれ

4/4/2025, 11:04:08 AM

#35 桜

今年も日本に桜が咲いた。

この時期になると思い出すことがある

小学校の入学式にあの頃は広かった校庭で
新品のランドセルを背負って両親と並んで撮った
あの大きな桜の木

数年前に廃校になっていて
今は桜の木だけが残っている

あの木の下で友達と交わした約束が、
未だ叶えられずにいた。

「元気にしてるかな…」

しぐれ

3/26/2025, 12:01:14 PM

#34七色

この世から色が消えた。

「この世界に生まれて、私は何を遺しただろうか…」
地図にも載らない、陽の光も届かないような小さな村の小さなボロ小屋のなかで、彼はそう言って私の手の中で自ら息を引き取った。

あの時の光景が、
徐々に冷たくなっていく彼の体温が
…生々しく思い出される。

そのことを思い出すたびに私は何も考えられず、頭の中が真っ白になり見える世界も黒くなり、まるで夢の中をさまよっているかのような感覚に襲われる。

「アカネ!ねぇ!大丈夫?」
聞き馴染みのある声がした。

「ミ…ミオ?」

「また思い出しちゃったの?大丈夫?」

「大丈夫…慣れてきた…わけじゃないけど…」

「…そっか。よし、では。気を取り直して!今日さ、
中央平原で面白いものが見つかったんだけど一緒に行ってみない?」

「なんでまたそんな遠い所へ?」

「いいからいいから、なんでもこの国をひっくり返せるかもしれない''なにか''って言うんだよ!」

「国をひっくり返せるねぇ…」

この国を束ねる王様は「民の為」と言いつつも、やっていることは所詮自分の為。娯楽施設を建てたり、軍隊を育て上げて隣国に戦争を仕掛けたり。洗脳まがいのことまでしている。ただの自己満足にしか過ぎない。たとえこんな外れた村の住人がひとり居なくなったとて、王様にとっては大木の葉っぱが1枚飛んで行ったようなもの。民になんて目もくれない。
そしてまた今日もまたどこかでひとつの光が失われていっている。

「だってさ、前に彼と話してたよね。『このままだと、みんな同じ色。同じ人間になってしまうよ』って」

…そういえばそうだった。

「せっかくだから行くしかないじゃん?この世界ひっくり返そうよ!」


彼の言葉を思い出した。


こんな時に限って___


『そんなに考え込んでても仕方ないよ。行動しないと始まらない。生まれちゃったんだから。人生楽しもうよ。せっかくだから自分の色を遺してこ』

…行動しないと、ね。

「そうだね、出かけよう」
未来が七色で溢れますように…。


しぐれ

2/4/2025, 1:43:28 AM

#33 やさしくしないで

私には好きな人がいた。

…近日公開。

しぐれ

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