#32 どうすればいいの?
近日更新予定
#31 はなればなれ
私には両親がいない。
不仲だった両親は私に影響が出ないようにと幼い頃に私を祖母に預けた。だから正直母親の顔も覚えていない。
祖母は心配性で門限も厳しく、いつも私の帰りを玄関先で待っていた。
正直しつこいなとは思っていた。
でもようやく今年、高校を卒業した。
へんぴな場所だから小学校から高校まで顔ぶれは変わらなかった。
学友というか家族みたいな存在だった。
高校を卒業後はみんな進学してこの村を出ていく。
私もその中の1人だった。
実家を離れ、住み慣れた村を離れ、家族のような友達とも離れ。
いざ上京して憧れの一人暮らしすることになった。
夢のような大学生活、東京暮らしで毎日が楽しかった。実家にいた頃には出来なかった終電まで遊ぶことだって出来た。
もうあんな田舎はまっぴらだ…と思っていた時
1本の電話が入ってきた。
「もしもし?𓏸𓏸ちゃんの電話かな?いきなりかけてごめんね、隣の家の田代です。これだけは伝えないとと思ってさ」
落ち着いたようでどこか焦っているようなそんな雰囲気が電話越しに感じ取れた。
「昨日、おばあちゃん倒れて…」
一瞬何を言われているのか理解出来なくてそれ以降の言葉は覚えていない。
気づけば私は電車に駆け込んでいた。
しぐれ
#30 また会いましょう
仕事終わりの金曜日、久しぶりにあの人と会う
初めて会った時は友達の紹介で半ば無理やり。
半信半疑で会ってみたけど、写真で見たよりもずっと良い人だった
その後何回かメッセージをやり取りして結構仲良くなってきたんじゃないか?と思った矢先の出来事だった
今日は何日か前から計画をして、あの人と食事に行くことになった日
あの人と会えるのが楽しみで仕事のモチベーションもググッと上がっていくのがわかる
メッセージでも「早く会いたいね!」なんて会話を交わすぐらいの仲だ。あわよくばこのままゴールイン?なんて妄想もしていた
いつもお互いの仕事の都合上休みは合わず、
必ずどちらかが仕事終わりになってしまうのは仕方ないと思っていた
仕事が終わり家に帰る。
あの人に会うために準備をして「今から家出る!」
と送ろうとした。
そう、送ろうとしたのだ。
いざLINEを開いてみると
「ごめん💦自分から誘っといて本当に申し訳ないんだけど、急用ができちゃってこのままだと約束の時間に間に合わないし、夜遅くなっちゃうから今回はキャンセルでいいかな…?」
一瞬にして時が止まった
何を言われているのかさっぱりで
頭で理解するまで何回も何回も見返した
この日を楽しみにしていたのに。
この人の為に1週間頑張ってきたのに。
仕事なんだからそんなネガティブなことも考えてられない。仕事なんだから。
「わかった!仕事なら仕方ない!頑張って🔥💪」
心にもない言葉を並べてあの人を励ました
「ありがとう😭本当にごめんね?」
「またチャンスをください!」
数分もしないうちにそんな言葉が返ってきた
「いつもならもっと遅いのに…」
何かがプツンと切れた気がした
そんな違和感を胸に残したまま…
「予定合わせて、また会いましょう!」
数分後…あの人から既読がついた
しぐれ
#29 もう一つの物語
「はい!ありがとうございます!勉強になります!」
木曜日。週の終わりが近づいてきた。
あと1日会社に行けば三連休だ。
「冴木さんはいつも笑顔だし、仕事も早いし素晴らしいね。人当たりも良いしお客様の評価も最高だよ。」
「いやいや、そんな!とんでもないです!
ありがとうございます」
"人前では''いい人でいられる。
愛嬌を振りまいて、めんどくさい仕事もただただこなして、どんなクレームにも笑顔で対応する。
タスクをこなす毎日。
「彼氏いるのー?」
上司からのセクハラじみたプライベートな質問にも
「いないんですー」
笑顔でかわす。
彼氏なんて欲しくてもそんな簡単に出来るもの
じゃない。学生時代に学んだんだ。
毎回クズな男にばかりに引っかかる。
でも、心のどこかで
「もしあの時別れていなかったら
別の人生歩めてたのかな」
そんなことを考えている自分がいる。
学生時代。漫画で呼んだ青春に憧れて
元カレのことも自分のステータスのように感じていた。今思えば自分もクズだったんだな。
ー誰も知らない。ホントの私ー
面倒くさがりで、他人になんて興味無い。
友達からの誘いだって平気で断るから
嫌な奴って思われてるだろうな。
「友達…友達かぁ…、しばらく会ってないなぁ」
SNSを開くと現れる充実した人生の人たち。
毎日会社と家を往復している私とは程遠い世界の物語を歩いている人たち。
「羨ましい…」
そうは思わない。
でも、こんな私でも毎日こなすタスクは他にある。
「創造ノート」
そう名付けられたこのノートは、学生時代から
私の思いや考えを書き綴ってきたノート。
創造するだけで充実出来るんだから。
今日もペンを手に取り、お気に入りのお茶を用意して
私の、私だけのもう一つの物語を書いていく。
しぐれ
#28 涙の理由
「もうやめよう…」
一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。
「もう、会うことも話すこともやめよう。きっと今じゃないんだと思う。というか君と僕は釣り合わないんだと思う」
彼とは友人の紹介で出会った。
しばらく彼氏を作らない私に呆れた友人に
「いい人いるから」と彼を紹介された。
初見はタイプじゃないし、オドオドしてるし何考えてるかわかったもんじゃない。でも、自分の好きな物には真っ直ぐで素直で時々見せるその笑顔と優しさにいつしか心を奪われていた。
そんなある日勢い余って私から告白してしまった。
彼は一瞬戸惑ったが、決心したように
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
と何故か堅苦しい返事で返してきた。
それからというものの旅行に行ったり食事に行ったり、休みがあった日には一緒に出かけるようになって早1年。
記念日はお互い仕事で忙しくて会えなかったけど、
日程を少しずらして会うことが出来た。
そんな日の出来事だ。
「別れる…ってこと?」
きっとそうだろう。聞くまでもない言葉。
「そう」
彼は小声でそう言った。
「え、なんで?記念日だよ?
ちょっと待ってよ、今じゃなくない?理由は?」
彼の言葉はいつも含みがあり、遠回りだ。
だけど必ず答えはあるし自分の考えは持っている。
「そういう所!そう、今じゃないんだよ。理由はさっきも言ったよね。何回も聞き返さないでよ。
自分が少し上に立った気分になって、人の事バカにして…耐えられなかったんだ…じゃあね。
僕よりいい人はいっぱいいるでしょ」
そう言って席を立った彼はお金だけ置いて店を出ていった。
「僕よりいい人って…何よ…」
窓の外を歩く彼を見て目から水が溢れ出した。
自分のこれまでの行動が許せなくて…。
彼との別れが悲しくて…。
心の炎が吹き消され、なにも感じなくなった。
しぐれ