日見しぐれ

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#37 物語の始まり

新鮮な血の匂いがした。

大地をひっくり返したように騒がしかった世界が、

一瞬で静まり返った。

荒れ果てたこの街や空には巨大なカラクリが動き廻っており、生きている人の姿は見えず、
少年がただひとり立ち尽くしていた。

「いつからだろう、この世界がカラクリに支配されたのは…」

目の前が謎の光に包まれていく。
___

たくさんの本がしまわれた森の中の書庫で、 鳥のさえずりとともに朝日が部屋を照らす。

私は机に伏せて眠っていたようで、慌てて顔を上げた。不思議な夢を見ていた気がしてどうにも寝覚めが悪い。

「サク、ようやく目覚めおったか」

部屋の奥から長くたくましい髭を生やした老人が私の方に向かってきた。

「また、遅くまで調べものをしておったのじゃな。何かわかったことはあったのか?」

『調べもの?…そうか』

机の上に散らばっているたくさんの書物を見て、自分が''何か''を調べていたのだと思い出した。

「いえ、まだ何も…」

何かわかるどころか、記憶が無い。思い出せない。

「まぁ、そんなに気を詰めていても仕方がない。そういえば最近『中央平原』で面白いものが見つかったそうじゃよ。気晴らしに行ってみてはどうだ?」

老人は散らばった本を本棚に戻しながらサクに話しかけてきた。

「面白いもの?」

気になる。と言うよりも。
行かないと行けない気がする不思議な感覚に陥っていた。

「わかりました、少し行ってみようと思います!」


しぐれ

4/18/2025, 11:57:55 AM