#34七色
この世から色が消えた。
「この世界に生まれて、私は何を遺しただろうか…」
地図にも載らない、陽の光も届かないような小さな村の小さなボロ小屋のなかで、彼はそう言って私の手の中で自ら息を引き取った。
あの時の光景が、
徐々に冷たくなっていく彼の体温が
…生々しく思い出される。
そのことを思い出すたびに私は何も考えられず、頭の中が真っ白になり見える世界も黒くなり、まるで夢の中をさまよっているかのような感覚に襲われる。
「アカネ!ねぇ!大丈夫?」
聞き馴染みのある声がした。
「ミ…ミオ?」
「また思い出しちゃったの?大丈夫?」
「大丈夫…慣れてきた…わけじゃないけど…」
「…そっか。よし、では。気を取り直して!今日さ、
中央平原で面白いものが見つかったんだけど一緒に行ってみない?」
「なんでまたそんな遠い所へ?」
「いいからいいから、なんでもこの国をひっくり返せるかもしれない''なにか''って言うんだよ!」
「国をひっくり返せるねぇ…」
この国を束ねる王様は「民の為」と言いつつも、やっていることは所詮自分の為。娯楽施設を建てたり、軍隊を育て上げて隣国に戦争を仕掛けたり。洗脳まがいのことまでしている。ただの自己満足にしか過ぎない。たとえこんな外れた村の住人がひとり居なくなったとて、王様にとっては大木の葉っぱが1枚飛んで行ったようなもの。民になんて目もくれない。
そしてまた今日もまたどこかでひとつの光が失われていっている。
「だってさ、前に彼と話してたよね。『このままだと、みんな同じ色。同じ人間になってしまうよ』って」
…そういえばそうだった。
「せっかくだから行くしかないじゃん?この世界ひっくり返そうよ!」
彼の言葉を思い出した。
こんな時に限って___
『そんなに考え込んでても仕方ないよ。行動しないと始まらない。生まれちゃったんだから。人生楽しもうよ。せっかくだから自分の色を遺してこ』
…行動しないと、ね。
「そうだね、出かけよう」
未来が七色で溢れますように…。
しぐれ
3/26/2025, 12:01:14 PM