窓から外を見遣ると、空はもう黄昏れている。はー、やってしまったなー。やんなきゃだよなー。頭の中では文字だけがぐるぐる回っているが、体はずっと外を眺めてたそがれている。
あー、今日の夕ご飯、私が担当じゃん。ダメだ、絶対買い物行けない。この部屋では在宅ワークの人が夕飯を作るルールになっている。パートナーに謝罪のメッセージを送り、買い物を頼むことにした。
コルトレーンを聴きながら描いたイラストは上司の意見とは全く別のデザインになり、とりあえず提出してみたらあえなく却下を食らった。
ですよねー、さすがにあれだけ細かく指示もらってて、全然反映されてなかったら、そりゃ怒りますよねー。こう見えてもプロとしてちゃんと反省はしている。
落ち着け。設計図はもらっているようなもの。私のセンスなら1時間もあれば片はつく。今度は音楽も聴かず、集中して一気に仕上げる。ワタシ、ヤレバデキルコ。
クラウドに上げて上司に電話をかける。会社のコアタイムはもう過ぎている。私の不手際で上司を待たせるのも申し訳ない。
「おう、おつかれさま、もう仕上げたのか?」
電話に出た上司は上機嫌だった。
「はい!遅くなりました、クラウドにアップしてます」
「了解、明日確認するよ、遅くまでありがとうな」
今日中に、とは言われたけど、今日確認する、とは言われてない。まあ、そうだよね。
「はい、おつかれさまでした」
「あ、ちゃんと退勤押しとけよ」
急いでがんばったのに、ちょっと拍子抜けした。この緩さに助けられてもいるからなぁ。電話を切った画面を見つめたまま、勤怠アプリを起動して退勤ボタンを押す。
椅子にどんと深く腰を落とし、PC画面を見つめる。外は暗くなったが、いま作ったイラストの背景は黄昏ていた。
そのとき、カチッと部屋の鍵を開ける音がした。パートナーが帰ってきた。
10/2/2024, 12:46:00 AM