『たそがれ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
夕暮れの空を見つめて
ボーっとする一時
きれいだなぁ
ずっとこうしていたいな
こんな一時に
心が洗われていくような気がします
たそがれ時
のんびりね
ゆっくりね
こんな時間も
人生に必要なのかな
【たそがれ】#6
【たそがれ】
夕焼け空よりも日没直後の薄暗さが好き、と以前彼女は言っていた。何故と問い掛けても彼女は「秘密」と寂し気に微笑むだけで、俺に教えてはくれなかった。
今も丁度いつかの様に日が沈んで、水平線に微かに残るオレンジ色の空が徐々に濃紺の夜で覆われていく。
そんな西の空を彼女は黙って俺の隣で眺めているが、ふとその横顔に浮かぶ翳りが気になった。
彼女は時々そんな表情をする事があるのだ。
「寒くないか?」
そんな時でもこうして、物判りの良い上司の顔で彼女の側に居ながら、結局俺はいつも自分の気持ちを持て余している。
「……はい。大丈夫です」
他に何と声を掛けて良いのか判らず、俺はもう一度、日没後の空が好きな理由を尋ねてみる事にした。また秘密だとはぐらかされるだろうかと思ったが、彼女は少し逡巡した後、独り言の様な小さな声で呟いた。
「理由は3つあります。だけど、1つだけなら良いですよ」
「1つだけか。なら一番の理由が聞きたい」
彼女は俯きながら、涙を隠してくれるからですと答えた。
「なるほどな。でも、それなら夜の闇の方が都合良い気がするんだが」
「涙って、街灯や車のライトで結構光るんですよ。だから、灯りが点く前の暗さが良いんです」
俯いたまま、彼女はこちらを見ようとしない。
今まさに彼女が泣いているのではないか? そんな気がして俺が恐る恐る声を掛けようとした時―――
「済みません、変な事言って」
努めて明るい声で言うと、彼女は顔を上げた。
俺の心配は幸い杞憂だったが、薄闇のせいか彼女の表情が無理した泣き笑いの様で、痛々しく見えてしまう。
「別にいい、気にするな。そろそろデスクに戻ろう、霧が出てきた」
「霧……」
何かに気付いたように、彼女が瞠目する。
「ん? 俺何か変な事言ったか?」
「あ、いえ! ただ―――」
霧なら涙だけじゃなくて色々なものが隠れますよね。
消え入る様な声で、だが確かに彼女はそう呟いたのだ。
「そうだなあ……確かに」
同意はしたものの、普段朗らかで基本的にはポジティブ思考の彼女らしくない発言に、俺は驚いていた。
「けどそれじゃ、見たいものも隠れちゃうから駄目ですね」
彼女に何があったのか、俺には判らない。
力なく、でも懸命に堪えて強がる彼女を見ると、俺は何とも言えない切ない気持ちに苛まれた。
泣いてどうなるものではなくとも、気持ちを切り替える意味で泣く事が有効な場合もあるだろうに。
こんな時、わっと泣いて誰かに甘える事の出来ない彼女が焦れったい。
側に居るのに甘え先になれない自分も。
********************
※俺=2023/7/9 お題【街の明かり】の『課長』
【たそがれ】
日がゆっくりと沈み始める。夕焼けは徐々に夜空へと移り変わり、昼と夜の境界が淡くぼんやりとしていた。
太陽がその身を隠すと、それに合わせるようにひょっこりと姿を現す者たちがいる。
逢魔時が始まるのだ。人間らは黄昏時とも呼ぶらしい。
どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。
どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。
ほら、賑やかな音が聞こえてきた。
そいつらは何も二、三匹で現れるわけではない。百鬼夜行、おどろおどろしい異形たちの行進だ。
鼓や三味線、琵琶の付喪神たちは自ら音を奏でている。
その一歩後ろをがらがらと進むのは、どでかい顔が貼りついた牛車の妖怪。そいつの中から何者かが声を出し、どでかい顔と何かを話していた。
「おぅい朧車、もう少し早くできんかぇ」
「なにを言う取りますか。轢いちまったらとんでもねぇ」
「そうかいそうかい。であれば、あっしはゆったり外の景色でも見ていようか」
「おお、おお、それは良いご身分ですなぁ」
「なんとでも言っておけ」
会話が終わったのか、朧車と呼ばれた牛車の物見から、ぎょろりとした二つの目玉が外界を覗く。そこには、目玉の他に真っ赤な複眼が備わっていた。そいつはまたも牛車の中に姿を隠すと、今度は朧車の背中についた簾を上げ、その全身を晒した。
そいつは、妖艶な雰囲気を纏った美しい女だった。人間の四肢の他に背面から四本の、毛の生えた昆虫のような脚が生えており、蜘蛛を彷彿とさせる。その脚は節をうねうねとさせ、まるで別の生き物かのように蠢いていた。
「絡新婦(じょろうぐも)や。後ろの景色はどうですかな」
「行列のケツはどこにあるやら。果てしなく遠くにも灯りが見えるぞ」
「かっかっか。さすがは百鬼夜行、愉快ですなぁ」
どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。
どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。
賑やかな御囃子を奏でる異形の行列は、今日もまた、この国のどこかの通りを練り歩くのだった。
〘たそがれ〙
かわたれも漢字があると嬉しかろう暁明はどう? 曙暁はどう?
黄昏時、それはーーな時間。
「さーて、今日もお仕事頑張りますか!」
「頼むから無理はしすぎないでくれよ…」
黄昏時に幽世と現世を彷徨う魂たちを正しいところに導くのが俺たちの仕事。迷える魂がいればその魂を悪い方へ連れて行こうという輩もいる。そんな奴らから迷える彼らを守るのも仕事のうちだ。
「…守〜?なんで今日は制服できてんだ?あぶねーから隊服で来いって言ってるよな」
「ごめーん隼さん!今日ガッコが長引いちゃって着替える時間なかったんだよね!」
「嘘つけお前!どうせ寝坊して忘れてただけだろ!」
「……。(なんでバレんの)」
ーーこんな軽いやり取りができることが嬉しい。
隼さんと俺が出会ったのはまさに俺が悪い魂にあっちに連れてかれそうになっていた時。
現世の人間と幽世の魂を引き離すには力がいる。それも特別な力、大きな力。大きな力を使うということはそれなりのリスクを負うということ。
それが、記憶。隊員は小さな記憶のかけらを消費して人間と魂を引き離す引力を召喚する。
隼さんが俺を見つけてくれたのが運悪く俺が幽世に連れていかれる直前で、彼は力を召喚するために多くのかけらを使いすぎた。
彼は半年分の記憶を失った。失う記憶は選択できない。新しい記憶から失うのではなく、無作為に記憶のかけらを失う。大切な記憶だろうが、何気ない記憶だろうが。関係なく。
悲劇、彼は数週間前に結婚したばかりだった。家族との大切な、本当に大切な約束の記憶のかけらを消費してしまった。
俺のせいで。命の恩人の人生を俺が壊してしまった。
彼が、また取りこぼしてしまわないように、彼と同じ思いをしてしまう人を作らないために、俺は今日も精一杯仕事に励むのだ。
「今日も俺が迷い人をお守りするぞ!」
「ったく、俺もいるっつぅのに…。」
/たそがれ/
河川敷の原っぱに横になってみた。漫画とかではよく見る光景だけど、実際のところこの場所でくつろいでいる人はそんなに見かけない。単純に、汚れてしまうからだ。
だけど今日の俺は、髪に、服に、土が付着することを気にもしなかったから関係の無いことだった。むしろ、こうしていたかったような気がする。
オレンジ色を帯びた雲達を眺めながら考える。
ハッキリとはしないけど、何故か俺は俺の事が嫌いだった。自分を傷つけたいのに、実行が出来ない。
そうして逃げ込んでここに来て、髪や服を汚した。なんというか、全体的に小さい人間なのかもしれない。
たそがれ時はもう終わる。夕暮れは暖かい。眩しくて嫌になるのに、どこか安心している自分がいるのも分かって、どうすれば良いか分からなかった。ただ、今ここに来たのは紛れもない自分の選択だった。
たそがれ
「きれいだね」
そう言った君は、どんな顔をしていたんだっけ?
黄昏時の踏切。遮断機を挟んで。
誰そ彼の君は、笑っていたようだった。
もうその顔も忘れてしまった君に、もう一度会いたい。
あの踏切で、黄昏時の中、君を待っていた。
憶えていたいこと。
忘れたかったこと。
夕暮れ時、夜と昼の境が曖昧になる時間。
黄昏のなかに溶けていきたいと、
自分の存在さえも曖昧だと、
あたしはそう思います。
夜は寂しい。
昼はどうにも眩しいですね。
息をするのは得意ですが、
生きることは苦手です。
寂しさも、後悔も、愛も、あたしには分かりません。
浮遊して、曖昧になって、
そうしてあたしは生き抜いていくの。
さようなら、
誰そ彼のあなた。
夕焼けに照らされたあいつの姿が
今にも崩れ去りそうなくらい、儚く、脆いものに見えたから
俺は繋いだあいつの手を強く握りしめたんだ
#たそがれ
75作目
たそがれどきは逢魔が時
道化が腰を折りその正体突き付ける
貴女は願望が生み出す夢幻
存在怪うく極めて危険
たそがれどきは逢魔が時
幼く柔かな声が応える
いずれ必要が無くなるまで今少し
ほんの少しだけ見逃して
道化は夢幻を喰らうつもりが心奪われ
約束を交わしてしまう
いずれかのその日に 同じ時間同じこの場所で
今一度貴女と私はお話ししましょう
その日にはどうか私のこの手を取ってください
共に幻想の間を渡り行く旅へ出ましょう
黄昏時は逢魔が時に
道化と夢幻は約束に従って結ばれる
2つの結びから真紘が生じ
間の旅は継がれ続いている
夕暮れ時に"さよなら"も"バイバイ"も
言いたくなかった
続きのない"終わり"を感じてしまうからだ
「またね」
終わらせないための約束を
恐々と繋ぐ毎日だった
でも
今日からはもう繋げない
「ごめん。気持ちに応えることはできない…」
うっかり言葉にしてしまった"好き"は
美しいたそがれの空に、溶けてしまった
#たそがれ
【たそがれ】
娘は欲の無い健気な少女でした
物欲も無く、出された物を文句も言わず素直に食べ、
私の言うことに従う本当に良い子でした
しかし、14の頃でしょうか
娘は色気づいて炭水化物を減らしたいと言い出し、
美容院に行きたい、流行りの音楽を聞きたい、と
日に日にわがままで汚い娘になっていきました
もちろん、私の教育が悪かったことは分かっています
ですから、私は娘の再教育を試みました
勉学にも専念して欲しいですが、
男と会う環境は悪なので、中学を数ヶ月休ませ、
スマホは没収して部屋に閉じ込め、
食事の有難みを教えようと食事を与えませんでした
最初はスマホを返せと反抗していた娘ですが、
数日で食事を必死にせがむようになりました
欲を剥き出しにする娘に嫌気が差しましたが
親として真剣に娘に向き合い続けました
1ヶ月も経たない内には娘は瞬きもせずに
たそがれ始めました
欲を忘れ、たそがれる娘に私は安心しました
娘はきっと私に感謝し、親孝行してくれるでしょう
日が暮れるのが早くなったね
あなたもこの空を見ているかな
あの時帰りたくないって言えなかったことを
今でも後悔しているよ
たそがれ
一歩先は、未知の世界。
こちらとあちらの境界線。
暮れた先にあるのは、どっちだろう?
そんな好奇心と恐怖が交錯する”たそがれ”
でも、こっちだと信じていた世界が正しいなんて、誰も知らないんだよね。
たそがれ
たそがれ
私「ねぇ、見て空がすごく綺麗」
親友「ホントだ、うちみたいに綺麗」
私「それはない(笑)」
親友「なにれそ〜、ひどい」
私親友「アハハハ」
親友「やっぱりアンタといるとなんでも話せる気がする。
私「もう〜、急に何〜(笑)」
と言う会話をよくしていた
でも、
親友は先に行ってしまった
もうそんな会話は
二度とできない
「ねぇ、空が綺麗だよ(泣)」
また、まえみたいにさ、
「うちみたい」って
くだらない会話しようよ、、、
うちにはなんでも話せるって言ったじゃん((泣))
【65,お題:たそがれ】
人生の黄昏時がこんなに早く来るなんて思わなかった
なんの変哲もない普通の家庭に生まれて、学校行って友達作って、いっぱい羽目を外したな
大学卒業した後は広告会社に入ったんだっけ、そこで彼女と出会った
彼女はよく笑う人で、一緒にいろんな所にいったなぁ
沖縄、北海道、いつか海外旅行もしたいって君は言ってたっけ
子供ができて、この子が大人になるまではしばらく旅行は行けないねって約束したな
俺は旅行好きだったからちょっとつまんなかったけど、君が側にいるならなんでもよかった
子供が育って家を出てからすぐだったかな、俺の親父が死んだのは
猫を助けようとしたんだと、まったくお人好しの親父らしいよな
その後流れるように母も死んだ、ガンだった
歳だし、もう長くないとはわかってたけど...親が死ぬってこういう感じなんだな
悲しさもあるけど、どこかで「ああ、人ってこんな呆気なく死ぬんだ」って達観してる自分がいて
次はきっと自分の番なんだって、不思議な感覚で眠りについたのを覚えている
だが意外にも、次は私ではなかったようだ
彼女だった、心不全でいきなりポックリ逝ってしまった
最近体調がすぐれないようだったのはそのせいか、私が留守にしている間に倒れているところを救急搬送されたのだ
そうして、何年も連れ添った最愛の妻は私を置いて先に逝ってしまった
それからは子供が嫁と孫を連れてよく顔を見せてくれるようになった
きっと1人になった私の、身を案じての事だろう
家族との思い出が沢山詰まった家をゆっくりと歩きながら、物思いにふける
私もきっともう長くない
世界は怖く冷たい場所だと、信頼できる者など居ないと、全てを拒絶した時が私にもあった
しかし、なんということだろう
私は今、こんなにも幸せだ
私は、生まれ変わるならば同じく人間が良い
良いところも悪いところも全部知っている、その上でこの世界を愛している
木で出来た椅子に腰かけ、ふと目を閉じる
うとうとと船を漕ぐ感覚に身を委ねた
そろそろ迎えが来る頃だ
柔らかく微睡んだ景色の向こうに、最愛の彼らの姿が見えた。
予定の空いた日曜日のたそがれ。
空いた、というより断られたんだけど。
誘ったのは君なのに。
なんとなく勉強をして、暇になったこの時間。
公園では子供たちが楽しそうに遊んでいる。
よそ行きの服に着替えて玄関を出た。
夕日が綺麗に映っていた。
ドタキャンされたのもよかったかもしれない。
たそがれ
誰そ彼時。
人の顔が見分けにくい、日の落ちた頃。
彼女の部活が終わるのは大体この時間だ。
校門のそばで待っていると、昇降口から歩いてくる人は確かによく見えない。離れているからなおさらだ。
でも、君の姿だけはよく分かるよ。
ほら、テニスのラケットを下げて、大きく手を振ってくれてる。振り返すと、ぱぁっと笑って走って来てくれる。
暗くなったのに、君は真昼みたいだから。
スポットライトが当たっているように、君だけが輝いて見えるんだ。
この社会は
色々な情報にまみれている
その情報が耳に嫌でも入るときも
無理やり耳に入れ
情報を使わないといけないときもある
そんな世の中だ
だからこそ
綺麗に空に広がる
この夕暮れを
何も考えずに
ただただ眺めていたい
お題「たそがれ」
これから死んでいくんだろうな。って人を前にして言えることなんてないよ。帰りたいなって思っていた。ここではないところへ。
夜らしい闇に染まり始めた街がバスの窓から見えた。重そうな暗雲が血を流すみたいに夕暮れの赤をちらつかせている。足は疲れていたけど、バスは踏切を静かに待っていた。踏切の中だけはやけに明るくて、そこを通っていく人は光を通り過ぎていった。闇から来た人の頭が、一度光を通って、また向こうに歩いていった。
バスが進みだした。光は簡単に私の上を通って、向こう側に消えていった。また一つ、時間を通り過ぎた気がした。