ハイル

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【たそがれ】

 日がゆっくりと沈み始める。夕焼けは徐々に夜空へと移り変わり、昼と夜の境界が淡くぼんやりとしていた。
 太陽がその身を隠すと、それに合わせるようにひょっこりと姿を現す者たちがいる。
 逢魔時が始まるのだ。人間らは黄昏時とも呼ぶらしい。

 どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。
 どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。

 ほら、賑やかな音が聞こえてきた。
 そいつらは何も二、三匹で現れるわけではない。百鬼夜行、おどろおどろしい異形たちの行進だ。
 鼓や三味線、琵琶の付喪神たちは自ら音を奏でている。
 その一歩後ろをがらがらと進むのは、どでかい顔が貼りついた牛車の妖怪。そいつの中から何者かが声を出し、どでかい顔と何かを話していた。

「おぅい朧車、もう少し早くできんかぇ」
「なにを言う取りますか。轢いちまったらとんでもねぇ」
「そうかいそうかい。であれば、あっしはゆったり外の景色でも見ていようか」
「おお、おお、それは良いご身分ですなぁ」
「なんとでも言っておけ」

 会話が終わったのか、朧車と呼ばれた牛車の物見から、ぎょろりとした二つの目玉が外界を覗く。そこには、目玉の他に真っ赤な複眼が備わっていた。そいつはまたも牛車の中に姿を隠すと、今度は朧車の背中についた簾を上げ、その全身を晒した。
 そいつは、妖艶な雰囲気を纏った美しい女だった。人間の四肢の他に背面から四本の、毛の生えた昆虫のような脚が生えており、蜘蛛を彷彿とさせる。その脚は節をうねうねとさせ、まるで別の生き物かのように蠢いていた。

「絡新婦(じょろうぐも)や。後ろの景色はどうですかな」
「行列のケツはどこにあるやら。果てしなく遠くにも灯りが見えるぞ」
「かっかっか。さすがは百鬼夜行、愉快ですなぁ」

 どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。
 どんからどんから、しゃんしゃんしゃん。

 賑やかな御囃子を奏でる異形の行列は、今日もまた、この国のどこかの通りを練り歩くのだった。

10/1/2023, 12:44:32 PM