『ずっとこのまま』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
《ずっとこのまま》
書きたい気持ちはすごくある!!
2026.1.13《ずっとこのまま》
ずっとこのままではいけない。変わらなくては。変わらずにずっとそう思い続けてきた。自分が焦っていないということに焦り、気付いていないということに気付いた。一生これを続けるのか?変わらずに一歩も踏み出さないまま、ただ前向きな焦りを希望に?それとも何だ?小さくとも一歩を刻み続けていると?私はもはや悩むことすらできない。こんな小さなものは悩みですらない。救いの手はきっと来ない。じゃあ、どうする?少なくとも、ずっとこのままではいけない。
読経が聞こえる。
鼻腔を掠める線香の香りに目を開けた。
目の前には、花に囲まれた数名の見知らぬ人々の遺影。振り返れば喪服に身を包んだ人々が、皆一様に俯き死者を悼んでいた。
啜り泣く声が聞こえる。ひそひそと囁く声が、この葬式が雪崩に巻き込まれ亡くなった人々のものだと告げていた。
「お姉さん」
「睦月《むつき》ちゃん」
呼ばれて視線を向ければ、喪服姿の睦月がいた。感情の抜け落ちた顔で、右端にある遺影を指差した。
「わたしのお父さんとお母さんはね、麓に続く道路で雪崩にあって死んじゃったの」
表情と同じく、語る声音も淡々としている。
「わたしね、お葬式で泣けなかったの。お父さんもお母さんも大好きで、とっても悲しいはずなのに泣けなかった……今も泣けない。悲しいのかも分からなくなっちゃった」
遺影を見つめるその目には、確かに涙はない。けれどもその目の奥で揺れている感情は、紛れもない悲しみだった。
悲しみが深過ぎて泣けないのだろう。そしておそらくは、彼女には泣ける相手もいないのだ。
手を伸ばし、そっと睦月の頭を抱いた。頭を撫でると彼女は目を閉じ、微かに震える吐息を溢す。
「お葬式の後から、夢を見るようになったの。夢の中でヒガタについていった人もね、わたしと同じだった。泣けなくて、段々何も感じなくなって……ここにいられないって思った。ヒガタの導く所に行かないとって、感じたの」
「睦月ちゃん」
「でも、咲子さんはちょっと違うかな。あの人の中にはヒガタがいたから、一緒にいるべきだって感じたんだと思う……わたしたちが行かないといけないって思うのは、もしかしたらあの人の記憶が伝わるからなのかもね」
目を閉じたまま抑揚なく語られる言葉の悲しさに、思わず唇を噛み締める。こうして頭を撫でることしかできないのが歯痒い。彼女の泣ける場所になれないことが、苦しかった。
「ねぇ、お姉さん」
額を擦り寄せ、睦月が呼ぶ。
「お姉さんは、どうして泣けるの?」
小さく息を呑んだ。
泣ける理由であるただ一人を思い浮かべ、けれども何も言えずに睦月から視線を逸らす。
泣いても受け止めてくれる大切な人がいるからと、理由を告げるのは簡単だ。しかしそれを一人きりの彼女に告げることは、どうしてもできなかった。
――しゃん。
不意に鈴のような音が聞こえた。
「――っ」
視線を向け、硬直する。
青い異形の面。ひび割れたその隙間から。
ないはずの目がこちらを見据えている。そんな気がした。
腕の中に感じる温もりに、燈里《あかり》は目を覚ました。
そっと布団を捲ると、そこには穏やかな顔をして眠る睦月の姿。時折甘えたように擦り寄る彼女の頭を撫でながら、燈里は小さく息を吐いた。
「あまり、そいつに心を砕くな。これ以上縁《えにし》が強くなれば、引き摺られるぞ」
先に起きていた冬玄《かずとら》が低く告げる。その警告に曖昧に頷きを返しながらも、燈里は睦月から離れようとはしない。冬玄もそれ以上は何も言わず、言葉の代わりに燈里の頭を強めに撫でた。
「昨日のあんちゃんはいるべか?」
源護《げんご》が睦月の家を訪ねたのは、昼時を過ぎた頃だった。
「何だ突然。何か用か?」
眉を顰めつつ応対する冬玄に、源護は苦笑しつつ手にした鍵を鳴らす。その鍵を見て、様子を伺っていた睦月は首を傾げて源護に近づいた。
「それって確か、集会所の鍵だよね?」
「んだ。このあんちゃんに、ヒガタの衣装さ見せっかと思ってな」
「じゃあ、皆で行けばいいよ!」
睦月のはしゃいだ声に、源護は眉を寄せ居間を覗く。囲炉裏端に座る燈里と楓《かえで》を見て、驚いたように目を見張った。
「こんな時期に客人か?悪ぃこと言わねから、小正月さ来る前に村さ出た方がいい……睦月、おめぇもだぞ。モドキに連れてかれっちまう前に、ここさ出ろ」
「え?でもね、おじさん……」
今年はわたしの番。
そう言いかけた睦月の手を引き、燈里は首を振る。口を噤んだ睦月の頭を撫で、燈里は源護に対して頭を下げる。
「私たちなら大丈夫です。ご心配して頂きありがとうございます」
「そうかい?無理にとは言わねぇが、気ぃつけんだぞ」
「それなら、気をつけるためにも早く行こうよ」
頭を撫でる燈里の手を取り、睦月は笑顔でその手を揺する。早く早くと急かされて、燈里は苦笑しながら出かける準備のため、睦月と共に部屋へと向かっていった。
「――相変わらずだな、睦月は」
居間を出ていく二人の背を見送り、源護はぽつりと呟いた。視線を向ける冬玄に力なく笑い、手にした鍵に視線を落としながら問いかける。
「睦月の両親のことは知ってっか?」
「あぁ」
燈里や楓から聞いた夢の話を思い返しながら、冬玄は頷く。そうか、と小さく呟き、源護は重苦しい溜息を吐いた。
「睦月はなぁ、両親が死んでからずっと泣いてねんだ。悲しみが深過ぎて、一人じゃ泣けね。だけんど、睦月には安心して泣ける場所がねぇ。久子《ひさこ》ばぁちゃんは、あいつにとって支える存在だからな……今まで、睦月みてぇなのは何人かいた。そいつらのほとんどは、モドキに連れてかれちまったよ」
手の中の鍵を握り締め、源護は冬玄に視線を向ける。
「今年は睦月が連れてかれちまうのかもしれんな」
その目は悲しんでいるようにも、どこか諦めているようにも見えた。
集会所の倉庫の奥。
隠し封じるようにしてしまわれていたヒガタの衣装を見て、燈里は悲しげに眉を潜めた。
いくつかある面の一つを手に取る。黒く角や牙の生えた面は、燈里が見た夢のヒガタの面とは異なる恐ろしさが伝わる。恐ろしい何か、を表しているのだろう。
「ヒガタの祭りをやってる時はこの集会所から家さ回り、最後にこの集会所に戻って大人だけで宴会を開いたって聞いてる」
ヒガタの衣装と共に出てきた箱を開け、源護は言う。
箱の中には額に入った何枚かの写真が収められており、ヒガタと村の大人たちが笑いあう姿が写されていた。
「そういや、最初はヒガタでねかったって、おらいのじいさまが言ってたな。名前なんてねがったはずだって
「名前が、なかったんですか?」
「んだ。多分正月の神さんとか、鬼とか呼んでたんでねぇべか。そこまでは聞いてねぇけんども……いつの間にヒガタになったんかは分からんが、モドキが出た時にはヒガタのモドキだっていう認識だったはずだ」
源護の言葉に燈里だけでなく、冬玄や楓も眉を寄せる。ただ一人、睦月だけは興味深げに写真やヒガタの衣装を眺め、首を傾げて呟いた。
「ずっとこのままなのは、何だか寂しいかも。写真に写ってる皆、とっても楽しそうだし……またできればいいのにね」
「モドキさいる内は無理だべ。連れてかれちまったら、たまんねぇ」
睦月の無邪気な様子に、源護は呆れたように溜息を吐く。緩く頭を振り、冬玄に鍵を手渡した。
「好きなだけ見てけばいい。終わったら鍵さかけて、戻してくれ」
そう告げて、源護は倉庫を出ていく。その背を一瞥し、楓は燈里の手の中の面を覗き込む。
「名前のなかった来訪神、か。随分と適当だ。どこでヒガタになったんだろうね」
「元の来訪神からきてるんじゃなかったのかな。火班《ひがた》を削ぐから、ヒガタだと思ってたけど」
「多分違うと思うよ」
燈里と楓の話を、睦月は蓑藁に触れながら否定する。
「ヒガタはね、ヒガタなんだよ。ヒガタを表した言葉なんだよ」
「どういう意味だ?」
「だからヒガタなんだってば……えっとね、すっとこのままの形で残さないといけないもの。継いでいくものとか、そういう感じ」
睦月の言葉は酷く抽象的だ。理解しきれないながらも、燈里は必死に伝えようとする睦月の頭を撫でる。
「ごめんね。ちょっと難し過ぎて、私にはちゃんと分からなかった。でも教えてくれてありがとう」
頭を撫でる手の優しさに、睦月は一瞬だけ顔を歪めた。
泣きそうな、幼い子供の顔。だがそれはすぐに凪ぎ、睦月は頭を撫でる手を取り、頬を擦り寄せた。
「お姉さん」
「なあに?睦月ちゃん」
首を傾げる燈里に睦月は笑いかけ、手を離す。
「ううん、何でもない」
「睦月ちゃん」
「ちょっとだけね。ずっとこのままならいいのにって、そう思っちゃっただけ」
小さな呟きに。燈里は何かを言いかけ、何も言えずに口を噤む。
笑っているのに泣いているように見えるその表情に、言葉の代わりにその小さな体を抱きしめた。
20260112 『ずっとこのまま』
「もうやだ!!」
壊れたスピーカーの様な悲鳴が、暗い浜辺に広がった。
『どん』という物理音と共に、一人の男性が、一人の女性に突き飛ばされた。
二人の表情も、眼と髪の色も、服装も、全てが月の無い夜に呑まれ、誰にも分からない。
突き飛ばされた男は、ヘラヘラと笑いながら喋る。
「『もうやだ』ねぇ。言い出したのは、キミじゃないか。『一緒に生きたい』と言ったのは…ね?」
「あんたが、こんなキチガイだって知ってたら、そんな事言ってなかったわよ!お願い、もう終わりにしましょう。愛情も友情も、全部この海に捨てるの。良い!?」
スピーカーを直す様子も無く、女性が叫び続ける。
痺れを切らしたのか、笑った顔を見て怒ったのか。
女性はもう一度、先程よりも強く、男性の胸を押した。
男性は踏ん張ることもせず、そのまま、海に落ちた。
重い成人男性の全体重が、水飛沫と共に大きな音を立てて、暗い、黒い海に落ちる。
数秒経っても、男性の姿は現れず、手も、脚も、衣服も見えなかった。
女性は、その様子を見て、恐れたのか、スッキリしたのか、そのまま砂浜に足を囚われながら、その場を去ってしまった。
女性の姿が見えなくなり、一連の出来事が、暗い海と、砂浜しか覚えていなくなった頃。
ぷかりと、一つの物体が水面に浮き上がった。
それはクラゲだった。
水族館で見る、ベニクラゲ。
「あーあ、嫌われちゃった。」
ベニクラゲが、そう喋った。
発声器官など無いのに。感情など無いはずなのに。
「うーん。目の前で腕が再生したのが、ダメだったのかな。そっか、人間って、出来ないのか。」
当たり前なことを、ぶつぶつと、ぷかぷかと、呟き続ける。
暗い海が、砂浜が、恐怖で震えた。
ずっとこのまま、ここに居るのかと。
お題『ずっとこのまま』×『不老不死』
毎日自分に問いてる言葉がある。
私はそれを毎日毎日見て見ぬふりをする。
答えなんて持っていないし考えたくもない。
けれどその言葉は誰なのかわからぬ声で
ふと外で歩いてるとき
眠ろうと目を閉じたとき
料理を作っているとき
文字を追っているときでさえ
同じ声色、言葉で問いかけてくる。
ああ今日もだ。
聞かない、聞こえないふりをする。
「 」外の騒がしささえもかき消し
「 」布団のなかでは余計に響き
「 」目の前のキャベツの青々しさに吐き気を覚え
「 」文章の意味さえ理解できなくなっていく
必死に聞こえないふりをするんだ
なにも、なにも聞こえないよ
はやく過ぎ去れ、終われ、終わってくれ
夢を見ていた
暖かい陽だまりの中で
かつて冒険を共にした貴方と
一緒に旅をする夢だった
それが現実ではないことはわかっていた
刹那の幻想に迷い込んで
二度と叶わない願いが届いたみたいで
ずっとこのまま覚めなければいいのにって
また叶わない願いを抱いてしまう
でも、もう終止符を打たなければ
もう二度と貴方に会うことはできないのだから
びーえる?
作りものの期間限定のこの恋は。
おれの願いも虚しくどんどん終わりに向かっていく。
幸せすぎる作りものの毎日。
最後には決まってるハッピーエンド。
その物語りをなぞってる限り幸せに包まれている。
何の疑問も持たずに彼のそばに居れる。
何の理由も持たずに彼の近くで笑っていられる。
普通に、恋していられる。
この撮影の3ヶ月間は。
残りの日数を数えるのが。
進む物語りが怖い。
密かにひとり怯えてそれを隠すように一際明るく振る舞うようになった。
たまに彼が物言いたげに見つめるその視線をまともに見ることができない。
俺らは画面で恋をする。
それはそれは素敵でドラマチックな恋。
この物語りの主人公が羨ましくて仕方ないんだ。
撮影が終わってしまったらどうしよう。
もう意味もなくじゃれたり愛を囁き合ったり触れ合ったり簡単には出来ない。
距離感が分からない。
この想いがただの錯覚ならいい。
いつか消えてくただの仲間としての情なら。
抱えてしまったこの想いは。
消えて溶けて欲しい。
それまでは眩しく笑う彼のそばで笑って幸せでいられますように。
(ずっとこのまま)
「ずっとこのまま」
私の太ももの間でで眠る小さな家族、年老いて尚可愛い。お世辞抜きで。
安心して寝てるだけでいいから、ずっとこのまま、ずっと、このまま。
ありがとうって満面の笑みであなたが抱きついてきて、腕のやり場ってやつにあたしは初めて困り切ってしまった。鼻先に香る慣れたコロンが頭の芯を痺れさせる。親が子どもにするよりも軽いハグ。ひとりになったあたしが多分いく日も反芻するだろうハグ。
心の中で願ってから思い知る。到底そうできない時にだけ、唱える言葉じゃないかと。コートの上からあたしはあなたを抱き締め返す。可笑しなあきらめみたいなものをこの腕にぎゅっと籠めた。
『ずっとこのまま』
ずっとこのままでいて欲しい
若さは保てれない
美容院、美容液、乳液、メイク
そして何より笑顔が大切だ
今日は美容院に行き
カラー染とカットした
さっぱりとした仕上がり
私はラベンダー色を付けることが多い
やっぱりカラー染とカットしたら
印象が変わる
「ずっとこのまま」
「ずっとこのまま一緒にいたい」
そう言いながら、君は僕の肩にもたれかかった。
「ずっとこのまま」
ずっとこのままなんて有り得ないし、何もしなくても時は過ぎて行くけれど、それだけではダメな事も知っている。
何かと繋がっていないとヒトのカタチを保てないのも事実。
あぁ、それでも。
どうか神様、お許しくだい。
もう少しだけ、このままの空白を漂っていたいのです。
ゆっくりとを溶ける時間を、この心の為に。
散り散りになってしまった、わたしを取り戻す為に。
※閲覧注意※
幼馴染シリーズ。
オトナの時間、継続中です。
【ずっとこのまま】
その人は、理性的で真面目。
自分自身を律する事が出来る賢い人。
そんな人でも、人間である。
人よりは少し薄いらしいけれど、きちんと欲も望みもある。
夜と言う、惑いの時間の力を借りて、その人の願いをそっと叶える。
そんな風に言い訳をして、抑えきれない自己中心的な欲望を、相手に宥めてもらうばかりで。
自分が情けないやら、涼しい顔ですましている相手が憎らしいやらで、内情はグチャグチャなのだ。
「カズ…。も、少しだけ、このまま。」
熱で潤んだ色素の薄い瞳が、籠もる熱を吐き出す紅い唇が、ひたりと吸い付く肌が熱を伝えてくる。
「…かっちゃん?ずるいよ、そう言うトコ。」
日頃、我慢できるせいなのか、まとめて請われたりするものだから、ついつい歯止めが利かなくなる。
「オレは、ずっとこのままが良い。」
首を傾げるあなたが愛おしくも憎らしくて、力いっぱい抱き締めた。
ずっとこのまま
「幸せだね」
休日、キミとのんびりティータイムと称してコーヒーを飲んでいると、キミが笑顔で僕を見つめる。
「そうだね。キミと一緒にいられるだけで、僕は幸せだよ」
急にどうしたの?とは問わず、キミの手を握り、僕は応える。
「ずっとこのまま、一緒にいようね」
お互いに、1人の時間を淋しいと感じた僕たちだから、一緒にいられる時間が大切で愛しくて幸せで。
「うん。ずっとこのまま一緒にいよう」
微笑むと、キミも微笑み返してくれるのだった。
ずっとこのまま
ずっとこのまま、話すことなく卒業するなんて嫌だ。
変わろう、自分のために。これからのために。
明日はまず、彼に挨拶をしてみようか。
ずっとこのまま
しばらく投稿せずにすみません!
今回もお休みさせていただきます。
時間ができたら一気に書きます。
豆を食べていた
どこで貰ったのかも忘れた
コメダの豆菓子を
答えを求めるように食べていた
食べながら答え探した
終わりたくなくて
一つずつゆっくり食べていた
食べ終わる頃には
答え見つかるように
願いながら食べた
ずっとこのまま
完
〈ずっとこのまま〉
俺は背が高い。一八六センチ。
それ自体は悪いことじゃない。けれど、服を買うときはいつもサイズが微妙に合わないし、教室では自然と目立つから、授業でもすぐ当てられる。
なるべく目立たないようにしているつもりでも、そうはいかない。
小川さんは小さい。
一五〇センチ弱だろうか。ゼミで隣に座ると、頭一つ分以上違う。
この間の帰りの電車で、人混みに流されそうになった彼女を助けた。
とっさにつかんだ、小さな手の感触。
そのあと並んで座って話をした。彼女が自分の手にコンプレックスを持っていること。
あれから一週間。
小川さんのことを考えない日はない。
ゼミの教室に入ると、彼女はいつもの席に座っていた。資料を広げ、ペンを走らせている。その横顔を見ただけで、心拍数が上がる。
隣に座ろうとして、足が止まった。
今日も隣でいいのか。
毎回同じだと意識されないか。でも離れるのも不自然で——。
「大田、何してんの」
背中から声をかけられて、びくっとした。杉谷が呆れた顔で立っている。
「入口で固まってたぞ」 「……別に」
肩を叩かれて、我に返る。結局、俺はいつもの席に座った。
「おはよう」 「おはよう、大田くん」
彼女が笑う。それだけで、少し肩の力が抜けた。
ゼミが始まる。
先生の話を聞きながら、つい横目で彼女を見てしまう。ノートをとる小さな手。整った文字。
「大田くん、どう思う?」
名前を呼ばれて、我に返った。
「え、あ……」
頭が真っ白になる。
こういうとき、背が高いことまで目立っている気がして、余計に落ち着かない。
「じゃあ、小川さん」 「はい」
彼女は落ち着いて答えた。ちゃんと集中している。
俺は何をやってるんだ。
ゼミが終わると、逃げるように教室を出た。
廊下のベンチで頭を抱えていると、杉谷が缶コーヒーを差し出してくる。
「小川さんのこと、好きなんだろ」
否定できなかった。
「どうすればいいかわかんない」 「まずは普通に仲良くなれよ。変に構えすぎ」
その言葉が、すっと胸に落ちた。
「この前の打ち上げでさ。『大田くんって親切だよね』って言ってたぞ」
胸が熱くなる。
「次のゼミ、頑張れよ」
杉谷はそう言って去っていった。
三日後のゼミ。
俺は深呼吸して教室に入った。
「おはよう」 「おはよう。今日も寒いね」 「自販機のホット、全部売り切れてた」 「え、じゃあ帰りにコンビニ寄らなきゃ」
気づけば、会話が続いていた。
今日は小川さんの発表だった。
丁寧で、わかりやすい説明。質疑応答で、俺も手を挙げた。
「この部分、もう少し詳しく聞きたい」
彼女は嬉しそうに答えてくれた。
ゼミが終わって、並んで廊下を歩く。
「今日の発表、すごくよかった」 「ありがとう。大田くんの質問、助かった」
照れくさくて、頭をかく。
「あのさ」
小川さんが立ち止まった。
「次のゼミの準備、一緒にやらない?」
はね上がる心拍数を抑えて、言葉にする。でも、慌てなかった。
「うん、いいよ」 「じゃあ、明後日の放課後、図書館で」
夕日が廊下に差し込んで、彼女の横顔を照らしている。
こうして隣を歩いて、他愛もない話をして、笑う。
特別なことは何もない。
──ずっとこのまま、この時間が続けばいい。
背が高いとか、小さいとか。
そういうことを気にしなくていい、この距離が心地いい。
夕焼けの中、俺たちの影が廊下に長く伸びていた。
──────
「手のひらの贈り物」続編です。大きな大田君と小さな小川さんのお話。
この先、進展はあるんですかねぇ笑
ぼけーっと
1日が
過ぎていけばいいのに。
あなたと
わたしと
子供と。
仕事もなく
やることもなく
ぼんやり
のほほんと
毎日が
過ぎ去っていく。
今日が
何日で
何曜日かも
だんだん分からなくなってきた。
そのうち
この毎日に
飽きる日も来るのかな。
本調子じゃないからか
ずっと
頭に
靄がかかっているよう。
でも、
こののんびり感が
幸せ。
#ずっとこのまま
視界が突然、明るくなる。
瞼を開けたから、目に光が入ってきたのだ。しばらくの間、瞼の裏を移していたせいでその眩しさに目が眩む。眩しくて、目を細めて。そのまま再び、瞼を閉じた。
まだ、微睡みから抜け出せていないようで、欠伸のような深い呼吸をひとつ。酸素が身体を巡って、少しずつ意識が覚醒していく。
「んんー............」
重たい瞼を持ち上げたら、身体をぐいーっと伸ばして、また、欠伸。すると膝の上でも、小さな欠伸が聞こえて視線を移す。そいつは、欠伸の後に身体をうんと伸ばして、太ももに柔く爪を立てた。
目の前にある机には、飲みかけのココアと閉じられた本。栞が挟まれていないそれは、眠気に勝てなかった証拠だった。
膝の温もりが、ゆっくりと離れていく。あまりにポカポカとしていたせいか、触れる空気が冷たく感じる。けれどそれも、数分あればすぐに馴染んだ。
なんの音も無い静寂の中、開けたままの窓から風だけが優しく入り込む。それは、カーテンをふわふわと靡かせ、その様子をぼけーっと眺めながら、これから何をするか考える。
そういえば、居眠りをする前は何をしていたっけ。本を読んでいた、けれど、それだけではない気がして、辺りをぐるりと見渡した。
「そうだ、......帰ったんだ」
先程まで、このソファの上。隣には、人が居た。その人は、一緒に居ると落ち着く、安心する、猫のような雰囲気で、長くいればいるほど犬みたいな一面が見られる。そんな人だった。その人を家に呼ぶ時は、一人になりたくない時で。寂しくて、話したくて、けれど話したくなくて。そんな、曖昧で複雑な心情の時、メッセージをひとつ。
『ココア入れて』
それを送るとすぐに来てくれて、何も言わず隣に座る。声をかけることはしない。が、ぽつり、と会話が始まると、隙を見て温かいココアを入れてくれるのだ。その優しさに、温もりに、いつもお礼を言えず甘えている。そんな素直じゃない性格の自分が、その度に嫌いになった。
ぼんやりとして、まぶたが重くなってくると、優しく頭を撫でられる。そして、そのまま眠りにつくのだった。だから、起きた時にはいつも姿はない。寝かしつけるのが、目的だからだ。
寝ている間に帰られると、引き止めることすら出来ない。再び呼び出すことさえも、出来ないから。いつも、狡いと思いながら、その狡さはきっと受け止めるべきもので、呼び出す変わり、なのだろう。だから、目が覚めても隣に居て欲しい、なんて、そんな贅沢は言えなかった。
これで、いいんだ。
むしろ、これがいいのかもしれない。
続くのなら。
続けていいのなら。
この関係は崩れない。ずっと、ずっと。
ずーっとこのまま愛してあげる。