「もうやだ!!」
壊れたスピーカーの様な悲鳴が、暗い浜辺に広がった。
『どん』という物理音と共に、一人の男性が、一人の女性に突き飛ばされた。
二人の表情も、眼と髪の色も、服装も、全てが月の無い夜に呑まれ、誰にも分からない。
突き飛ばされた男は、ヘラヘラと笑いながら喋る。
「『もうやだ』ねぇ。言い出したのは、キミじゃないか。『一緒に生きたい』と言ったのは…ね?」
「あんたが、こんなキチガイだって知ってたら、そんな事言ってなかったわよ!お願い、もう終わりにしましょう。愛情も友情も、全部この海に捨てるの。良い!?」
スピーカーを直す様子も無く、女性が叫び続ける。
痺れを切らしたのか、笑った顔を見て怒ったのか。
女性はもう一度、先程よりも強く、男性の胸を押した。
男性は踏ん張ることもせず、そのまま、海に落ちた。
重い成人男性の全体重が、水飛沫と共に大きな音を立てて、暗い、黒い海に落ちる。
数秒経っても、男性の姿は現れず、手も、脚も、衣服も見えなかった。
女性は、その様子を見て、恐れたのか、スッキリしたのか、そのまま砂浜に足を囚われながら、その場を去ってしまった。
女性の姿が見えなくなり、一連の出来事が、暗い海と、砂浜しか覚えていなくなった頃。
ぷかりと、一つの物体が水面に浮き上がった。
それはクラゲだった。
水族館で見る、ベニクラゲ。
「あーあ、嫌われちゃった。」
ベニクラゲが、そう喋った。
発声器官など無いのに。感情など無いはずなのに。
「うーん。目の前で腕が再生したのが、ダメだったのかな。そっか、人間って、出来ないのか。」
当たり前なことを、ぶつぶつと、ぷかぷかと、呟き続ける。
暗い海が、砂浜が、恐怖で震えた。
ずっとこのまま、ここに居るのかと。
お題『ずっとこのまま』×『不老不死』
1/13/2026, 10:15:19 AM