『すれ違い』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
最初からそうだったんだ。
私の見ている遠くの景色と、彼がみている場所は同じようで違うものだった。
それだけのことだ。
ずっと平行線で交わることはない。
これからもずっと。
どこまでいってもすれ違いだ。
2本の線の間隔をゆっくり離していけば、私は苦しまずに彼を忘れられるだろう。
お題『すれ違い』
澄み切った秋晴れの日、
私は30分かけて部活の練習場に
自転車で向かっていた。
道すがら、後輩だったあなたとすれ違ったので、
一緒に海沿いを並走しながら、
たわいもない話をした。
一体何の話をしていたのか
今ではすっかり忘れてしまったけれど、
覚えているのは、
あなたと2人きりで話したのは初めてだったこと
あなたの話が面白くてずっと笑い続けていたこと
そして、私の直感がピンときて
「この人と気が合うな」とふと思ったこと。
今あなたと一緒に楽しく生きているのを考えると、
20歳だった私の直感は正しかったと
しみじみ思う。
♯すれ違い
廊下を歩いていると、前から彼女が歩いてくるのが見えた。
移動教室だろうか、彼女の手にはノートや筆記用具がある。
彼女とは放課後の屋上で話す関係だが、廊下ですれ違っても話すことはしない。
彼女もそうするので、お互い暗黙の了解みたいになっている。
どうしても何か言いたいときは──
彼女が横をすり抜けていく瞬間、何食わぬ顔で折りたたんだルーズリーフを寄越してきた。
俺も慣れたもので、何食わぬ顔でそれを受け取りズボンのポケットへ突っ込む。
すれ違いざまに物の受け渡しなんて、まるでスパイ映画みたいだ。
けれど、違うクラスの女子とつるんでるなんて知られたら同級生達がうるさい。
平穏な学校生活の為には必要な事だ。
彼女は、規則正しい足音をさせて遠ざかっていった。
俺も何食わぬ顔で廊下の突き当りを曲がる。
廊下を曲がった先で周囲に誰もいない事を確認してから、受け取ったルーズリーフを開く。
罫線に沿って、几帳面な彼女の字が並んでいる。
彼女の字はいつ見てもキレイだが──
「件のチケットについて」
必要最低限な言葉しか書かれていない。
もう少しなんかこう、俺としては欲しいのだが…。
こう、女子らしい愛嬌のあるなんかそれな感じの…。
そこまで思い至って、ふと気が付く。
でもこれこそが彼女なのだと。
いつも冷静で、他の女子とは異なる感性を持った彼女だ。仕方がない。
彼女の言う、件のチケットとは、クリスマスの時に変な配達員から受け取ったテーマパークのチケットの事だ。
そろそろ遊びに行こうと話をしていたので、その続きをしようという事だろう。
「了解」
静かに呟き、ルーズリーフを折りたたもうと紙を裏返した瞬間──
「楽しみにしてるから🐱」
彼女のキレイな文字の隣に、可愛い猫のイラストが添えられている。
暫く無言でそれを眺めていたが、次の瞬間ボッと顔が熱くなった。
ドキドキと胸が高鳴る。
震える手で、胸ポケットにルーズリーフ仕舞う。
ルーズリーフは仕舞われたというのに、先程の「楽しみにしてる」という文字が脳内で踊っている。
やばい、普通に嬉しくて浮かれそうなんだが?
いやいや真面目に…と思っても口元が緩んでしまう。
今日の放課後、彼女と会うのがこれほど楽しみだなんて、初めてだ。
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すれ違い
すれ違いざまに物を渡すシチュエーションというのは惹かれるものがある。
気心の知れた人としか出来ない、或いはその道の人しか出来ないことだからだ。
今回は、珍しく「俺」が彼女からの手紙で動揺している。
本当は、「貴方と楽しみたい」とか「その件についていっぱい話しましょう」とか色々な言葉を考えたが、
シンプルに「楽しみにしている」という言葉に思いを託した。
浮かれて喜ぶ姿を想像していただければ幸いである。
作品No.202【2024/10/19 テーマ:すれ違い】
思わず、振り返っていた。すれ違ったその人が、知り合いに似ていた気がしたから。
「こんな場所にいるはずないのに」
呟いて、歩き出す。他人の空似なんて、よくある話だ。
それなのに、何度も振り返ろうとしてしまう。追いかけて、声をかけたくなってしまう。それを抑えて、抑え付けて、歩を進めた。
「あれ、ない...?」
ポケットを叩いても埃が出てくるのみ。
「...どうしたの?忘れ物?」
「い、いや...なんでもないよ...!」
ははは...と乾いた笑いがその場の空気と一緒に溶け込む。本来なら、この手には彼女へのプレゼントがあるはずだが、その代わりに汗がただ握られている。
なんてこった、無くしてしまったのか...!?
間違いなく家にはないはず。鍵と共にポケットにプレゼントのキーホルダーを入れた。
断片的な記憶を遡っていく。結果、一つの仮説を生み出した。
もしかしてスられたのでは!?
あいにく鍵もない!ああ最悪だ。こんなこと彼女に知られたら幻滅されてしまう!だと言っても正直に言わないのも失礼だ。何せ鍵が無いのだから。
...腹を括ろう。言葉を紡ぎ、なかなか開かない口を無理にでも開けて音にするのだ。
「あ、あの...えー、あー......あの、さ」
「ん?あー、はいはいどうぞ。」
彼女がショルダーバッグを漁り、俺の手に乗せてきたのは鍵とキーホルダーだった。
「え?どうして...!?」
「ふふ、だってあなたその上着のポケットに穴があるのに入れるんだもん。そりゃ落ちるよね。」
「ずっと知ってたのかよ!」
「ごめんね、いつ気づくのかなって。というか昨日そのこと言おうと思ったけど、寝るの早かったから言い忘れちゃって。私こそごめんね。」
「...っはあー、本当に良かった...。」
心の底からの安堵の息を吐く。昨日からのすれ違いによる事故だったのか。
心臓に悪い...。ただ、失くしていなくて良かった。今はこの事実に安心していよう。
「あ!化粧道具入れるポーチがない!?」
後日彼女のポーチ探しが始まるとは思わなかったが...。
2024/10/19 #すれ違い
→短編・天気予報
商店街で夏とすれ違い、思わず声をかけた。
「もう10月だけど、今年の南半球行きはどうしたの?」
「たまには秋の味覚を味わいたくて」と、夏は新米を片手に、魚屋で秋刀魚を買っていた。
平日狙いでホテルのスイーツビュッフェにも行くらしいので、まだもう少しこちらに滞在予定だそうです。
テーマ; すれ違い
同じ歳に生まれて 同じものを見て育って
同じ音楽に影響されて
同じような高校に入って
同じ年に大学進学のために上京して
同じように一人暮らしして 同じようなバイトして
同じ年に社会人になって
同じ年月をすごしてようやく出逢った。
でも、もし、
同じ故郷に生まれてたら
同じ大学だったら
同じバイト先だったら
同じ会社だったら
君の隣にいたのは私だったかもしれないのに
#すれ違い
すれ違い
🎶 すれ違いのすき間を 走る風を責めても
もう届かない 未成熟の瞳
♪ たそがれのショーウィンドウ
交わるはずのない口づけ写す
はじまりから意外すぎて
けどそれよりもっとうれしくて
♫ 夏の影が手を繋ぎそして離れてまた探して
いつの間にか 迷ったままでひとり歩いて
🎶 すれ違いの理由を 夜に投げ捨てたのに
秋時雨さえ 温もりを残して
♪ 雪のはじまりはいつも
心の中をそっと探っていた
期待と寂しさの差が
どのくらいか知りたかったから
♫ 街が銀色に染まる その日の前に見つかる
かな
ふたりの道 同じ歩幅で 腕をからめて
🎶 すれ違いの涙は もう二度と流さない
ポケットの恋 ちゃんと取り出すから
すれ違い
言葉にして
伝えようとすればするほど
本心とはかけ離れてしまう
天邪鬼
その背中を見送る瞳には涙
今
振り返って
もう一度
必ず起きてしまうこと
起こると悲しいこと
それでも消えないこと
せめて手の届く範囲では起こさせたくなくて、いつも考える。けれど一人の人間にできることには限界があって、この手の届く距離は狭くて、気づいたら疲れ果てて、擦れ切れているんだ。
それでも、また手を伸ばす俺は……
どうしようもない、寂しがりやなんだろうな。
2024/10/19_すれ違い
すれ違いは今日は起きてないのでよく分かりませんが、昨日政氏がケツを拭いたトイレットペーパーを落としかけて、それを取ろうとしたらうんこがついたという話を聞いて、俺はトイレットペーパーの芯を落としかけてそれを取ったらうんこがついたのだと勘違いして、どこでうんこついたんやと疑問に思う会話のすれ違いが起きました。とてもすれ違いは面白いですね。時にはとても腹が立ちますが。笑。
今夜の夜は
冷える
風が
容赦なく
吹き付ける
煙草を
持つ手も
震える
空に
沢山の星が
輝く
君は何時に
なったら
来るのかな
僕に
風が音を立てて
ぶつかる
僕は
淋しさで
心が震える
たぶん
君は来ない
ビルの屋上で男が黄昏れていた。少し疲れた顔をして、夜景を眺めていると。
「どうしたんだい、疲れた顔をして。悩みがあるなら、このアロハのおっさんに話してみな」
ボサボサ髪のアロハシャツを着たおっさんが隣に立っていた。どう見ても不審者だったが、疲れていたのか、気づいたら悩みを打ち明けていた。
突然の友人からの電話が始まりだった。話したい事があるらしく、駅の近くにある居酒屋に集合していた。話の内容は、未来に漠然と不安があり、その為、お金を徹底して節約した生活を送っていたらしい。それが、原因で恋人とすれ違いを起こし喧嘩別れしたそうだ。最後には、もう死にたいと節々に言っていた。
「未来に不安?それが理由で恋人とすれ違いを起こして挙句の果てにはもう死にたい?この世界には、生きたくても生きられない人がいるのに、そんなことで、簡単に死を望むなんて、冗談じゃない」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。これでも飲んで」
過去を思い出して、怒りに拳を握りしめていると、アロハのおっさんは、飄々した顔で缶コーヒーを投げる。
「あッ、アロハのおっさん、いきなり缶コーヒーを投げるなよ」
「言いたいことは、わかるけど。でもね、死にたいと思う事自体を否定しちゃいけないよ」
アロハのおっさんは、今までとは違い真剣な顔をして、言葉を続ける。
「人間、誰しも理想と現実のすれ違いを起こして、それが苦しくなると逃げ場所を求めるものさ。死を望む事もそいつにとって、こころを守る為に必要なことだったりするのさ。一番、いけないのは、死を思う事が悪い事だと思う事だよ。唯一の逃げ場所すら、なくなるわけだからね。だからね、死を思う事を肯定した上でお前さんの思いを伝えたらいいよ」
話し終えたのと同時にアロハのおっさんは、「では、アロハー」と別れの挨拶したのち、暗闇に戻っていった。
駅の改札口。時刻は午前10時55分。待ち合わせ時間まであと5分というところ、待ち合わせ相手のルークさんからメッセージが入った。
『ハクさん、すみません。電車が遅れてて、30分くらい遅れます……!』
遅刻の連絡だった。電光掲示板にルークさんの使うはずの路線の遅延情報が出ていたので、もしかしてと思っていた。
『了解です。そしたら、西口のドニーズに入ってますね。』
元々食事をする予定だったファミレスに入っている旨を返信して、そこへ向かう。
入店して、店員に座席に案内された。
『席座れました。入ってきて右側の窓際、入り口から数えて3番目の席です。』
またルークさんに連絡を入れて、窓際の席に腰を落ち着けた。
ルークさんとは、SNSで知り合った。知り合ってもう2年になる。お互いに本名は知らない。同じゲームが好きで、オンラインでやり取りしているうちに仲良くなった。今回は、そのゲームのリアルイベントが開催されるので、一緒に行こうと言う話になり、その前日の今日、初めて会うことになったのである。
テーブルに備え付けのタブレッドでとりあえずドリンクバーを頼み、何となくメニューを見て時間を潰す。ページをスワイプしていたら、“昭和レトロメニュー”が出てきた。昔ながらのオムライスやハンバーグ、プリン、メロンソーダなどなど、ノスタルジーを感じさせるものが並んでいる。オムライスが特に美味しそうだったので、お昼はこれに決めた。
“昭和レトロメニュー”を見ていると、これをタブレットで見ているのが、なんだか不思議な気がしてくる。時代の変化が目の前にあるような。
もしも昭和だったら、きっとこんな気楽に待ち合わせできなかっただろうと、ふと思った。かつては、移動中不測の事態があって遅刻しそうなときや、急に具合が悪くなって行けなくなったとき、連絡手段がなかったんじゃないだろうか。それで、待っていられず帰ってしまったり、単にすっぽかされたんだと怒って帰ってしまったりして、すれ違いが起こったんじゃないだろうか。
そもそも、ルークさんとこうして会うこともなかったかも、と思い至る。ネットも無かった時代だ。同じものが好きでも、お互いを知ることはなかったかもしれない。リアルイベントが開催されても、ただ会場ですれ違うだけで終わったかもしれない。
そう考えると、今日会えるのって、奇跡だなあ。
そんなふうに思いを巡らせていたとき、少し慌ただしい足取りで1人の女性が近づいてきた。私の座る向かいにきて、口を開く。
「ハクさん、ですか?」
「そうです!ルークさんですよね。一応初めましてですね」
「ええ、初めまして。ほんと遅れてすみません……!」
その女性――ルークさんは、頭を下げて申し訳なさそうにしている。
「いえいえ、大丈夫ですよ。おかげでちょっとした奇跡に気づけたので」
ルークさんにメニューのタブレットを差し出しながら、私は笑って返した。
すれ違い
間違ってはない
成れないし
会えない
とてもじゃないがあり得ない
正しい結果ってだけ
【書く練習】
今日で150回書いた
毎日書くこと、というルールだけを決めてゆるく続けている
どうしても書けない日は、書けない旨を書いている
気持ちの浮き沈みが強くて、何とかしたいと思っていた
書くことは良いらしいと聞いたのでこのアプリを始めてみた
大体5ヶ月たつが大きな変化は感じられない
まあ、書くだけでこれが治るのならば医者は要らないだろう
効果を感じないのなら、そろそろ辞めてもいいのかと思うこともある
それでも止めてないのは、少しでも体が良くなることを
諦めきれないからだろう
そんな感じで、ずるずると続けている
続けたらいつか体が良くなると淡い期待をしながら
これからも書いていこうと思う
すれ違い
わざとか、わざと避けてんのか。と疑いたくなるくらいタイミングが合わずすれ違うことがある。もちろんただの偶然であり、こちらが思うのと同じように相手もこちらを疑ってるかもしれない。
同じ社内でこうもすれ違うもんかね、大手企業の広い敷地も考えものである。
悶々と数日を過ごし。社内食堂で相席になった人物の提げられた名札に釘付けになる。
「…サイトウ アキラさん?」
「はい…」
突然の声かけに相手は訝しむ。
「あ、急にすみません。俺営業3課のハットリとです。この間から出張費の申請の件で…」
すれ違い続けていた相手に思いがけず会え、意気揚々と喋り出すも。
「あ、人違いです。僕、開発室のサイトウなので」
ハットリさんがご用あるの経理部のサイトウアキラさんですよね。
同姓同名かよっ。すれ違いもここまでくると一生会えない気がするわ。
『すれ違い』
「AくんはBちゃんが好きでBちゃんはCくんが好きでCくんはDちゃんが好きでDちゃんはEくんが好きでEくんはFちゃんが好きでFちゃんはAくんが好きなんだってさ」
「複雑だよね〜。」
こんなの現実で起きるはずがない
すれ違いにしては物語としてできすぎている
ただ紛れもない混沌とした恋愛
「私Cくんが好きなんだ〜」
「俺はDちゃんが好き」
「Eくんはどうなんだろ??」
「僕はFちゃんが好き。だけどFちゃんがAくんのこと好きなの知ってるよ」
「うちがAくんのこと好きなの知ってるの?」
「バレバレだよ。自分でも気づいたのに」
「え好きな人にバレるとかさいあくかも」
「EくんってFちゃんが好きなんだ。他にもあなたのことが好きな人いるよ」
「そんなこと言っていいのかよ〜」
これからまだ話は続くと思う
でもこの話に出てきていない人がいるんだってさ
不思議だよね
もう全員気持ちを吐いたみたいなのに
違和感のない会話に小さなすれ違いが起きたらしい
あなたは気づけた?
誰が話してないか当ててみて
仕事の合間をぬって、ボロボロになった車を彼女の職場に運ぶ。折角なら会いたいと思っていたのだけれど、彼女は出張修理に出掛けていて会えなかった。
「ごめんなぁ、さっき行ったばかりやねん」
社長さんが、そう言いながら俺の愛車を修理してくれる。視線をこちらに向けず、パパッと作業する姿は感嘆してしまう。
俺の恋人も手際良くなったと思っていたけれど、社長さんは比にならない。恋人が尊敬する女性なわけだ。
「さすが社長、お早いですね」
「任せときー!」
さすが、この都市で敏腕女社長と有名になった人だけある。
しばらくして、修理が終わると病院へ戻ると先輩から驚かれた。
「あれ? 彼女と一緒じゃなかったのか?」
「何言っているんですか? 俺、今まで修理に行っていたんですよ」
先輩は口元に手をやり、少し考えながら受付を指さした。
「少し前、怪我して来ていたからてっきり……」
「え!? 来てたんですか!?」
「ああ、だから……」
「なんですか?」
「彼女、少し寂しそうだったから」
「!?」
俺だって会えないのは寂しいよー!!!
口にこそ出さないけれど、俺は心で盛大に叫んでいた。
「はあ……今日はすれ違ってばっかり……」
思わずため息をついて肩を落とすと、先輩が笑いながら背中を叩いた。
「家に帰ったら会えるんだから、もう少し頑張れ!」
「それはそうなんですけれど、会えるなら会いたいじゃないですかー」
このすれ違いの多さに、神様がいじわるをしているように思って、俺は唇を尖らせる。
「全く。会いに行く前に一言メッセージを送ればいいだけだろ」
それは思わないでもない。
でもそれは彼女に面倒をかけてしまいそうで、申し訳なかった。恐らく彼女も同じ思いだからメッセージをしないのだろう。
彼女は自分より仕事を優先にして欲しい。患者を優先して欲しい。そう言える人だから尚更。
そんなふうに考えていると、後輩が俺を呼んでいる。何事かと思って足早に向かうと、俺の好きな飴ふたつと畳まれたノートの切れ端を渡してきた。
「なにこれ」
「見れば分かりますよ」
それぞれを受け取って、畳まれたノートを開く。
『お仕事、気をつけて頑張ってくださいね』
見慣れた字が、そこにはあった。最後まで見ると彼女のトレードマークになっているパンダの似顔絵。
すれ違っても、気持ちはそばに居るんだなと、心が暖かくなる。
俺はすぐにスマホを取り出して、メッセージを送った。
『すれ違ったんだね。飴、ありがとう。君も無理しないでね。大好きだよ』
会えなかった寂しさを、〝好き〟という言葉で埋められたらいいなと願った。すると彼女からすぐに返信が来た。
『会社に来てくれていたんですね。ごめんなさい。私も大好きです』
頬が緩むのを止められない。単純だけれど、こんな言葉で寂しさが簡単に吹っ飛んだ。
「よーし、バリバリ仕事するぞー!!」
おわり
一五六、すれ違い
感謝や謝罪が出来ない人がいる。
仕事が遅いから、いつも終わらない。
特別な仕事をしているわけもなく。
ただマイペースにやっていることが他部署へ迷惑をかけているなんて、微塵も思ってない。自分は特別だと何か勘違いしているナルシストのアラサーである。
結果こちらにも支障をきたすので、手伝う。
悪いですね。すみません。なんて言われたことは一度たりともなかった。
他人から何かしてもらったら、御礼は言う。
自分に否があれば謝罪をする。
そうだと思っていた。
ナルシストにそれは通用しない、私が何を思おうが。
この人間の形をした化け物には一般人の心理など到底理解出来ないようだ。
いつだってすれ違いだ。
いや。
そもそもすれ違いすら起きていないのかもしれない。
化け物と人間の住む世界は違うのだろう。
ああ鬱陶しいな
反吐が出る