ビルの屋上で男が黄昏れていた。少し疲れた顔をして、夜景を眺めていると。
「どうしたんだい、疲れた顔をして。悩みがあるなら、このアロハのおっさんに話してみな」
ボサボサ髪のアロハシャツを着たおっさんが隣に立っていた。どう見ても不審者だったが、疲れていたのか、気づいたら悩みを打ち明けていた。
突然の友人からの電話が始まりだった。話したい事があるらしく、駅の近くにある居酒屋に集合していた。話の内容は、未来に漠然と不安があり、その為、お金を徹底して節約した生活を送っていたらしい。それが、原因で恋人とすれ違いを起こし喧嘩別れしたそうだ。最後には、もう死にたいと節々に言っていた。
「未来に不安?それが理由で恋人とすれ違いを起こして挙句の果てにはもう死にたい?この世界には、生きたくても生きられない人がいるのに、そんなことで、簡単に死を望むなんて、冗談じゃない」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。これでも飲んで」
過去を思い出して、怒りに拳を握りしめていると、アロハのおっさんは、飄々した顔で缶コーヒーを投げる。
「あッ、アロハのおっさん、いきなり缶コーヒーを投げるなよ」
「言いたいことは、わかるけど。でもね、死にたいと思う事自体を否定しちゃいけないよ」
アロハのおっさんは、今までとは違い真剣な顔をして、言葉を続ける。
「人間、誰しも理想と現実のすれ違いを起こして、それが苦しくなると逃げ場所を求めるものさ。死を望む事もそいつにとって、こころを守る為に必要なことだったりするのさ。一番、いけないのは、死を思う事が悪い事だと思う事だよ。唯一の逃げ場所すら、なくなるわけだからね。だからね、死を思う事を肯定した上でお前さんの思いを伝えたらいいよ」
話し終えたのと同時にアロハのおっさんは、「では、アロハー」と別れの挨拶したのち、暗闇に戻っていった。
10/19/2024, 2:14:46 PM