時の雨

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「あれ、ない...?」
ポケットを叩いても埃が出てくるのみ。
「...どうしたの?忘れ物?」
「い、いや...なんでもないよ...!」
ははは...と乾いた笑いがその場の空気と一緒に溶け込む。本来なら、この手には彼女へのプレゼントがあるはずだが、その代わりに汗がただ握られている。

なんてこった、無くしてしまったのか...!?

間違いなく家にはないはず。鍵と共にポケットにプレゼントのキーホルダーを入れた。
断片的な記憶を遡っていく。結果、一つの仮説を生み出した。

もしかしてスられたのでは!?

あいにく鍵もない!ああ最悪だ。こんなこと彼女に知られたら幻滅されてしまう!だと言っても正直に言わないのも失礼だ。何せ鍵が無いのだから。
...腹を括ろう。言葉を紡ぎ、なかなか開かない口を無理にでも開けて音にするのだ。
「あ、あの...えー、あー......あの、さ」
「ん?あー、はいはいどうぞ。」
彼女がショルダーバッグを漁り、俺の手に乗せてきたのは鍵とキーホルダーだった。
「え?どうして...!?」
「ふふ、だってあなたその上着のポケットに穴があるのに入れるんだもん。そりゃ落ちるよね。」
「ずっと知ってたのかよ!」
「ごめんね、いつ気づくのかなって。というか昨日そのこと言おうと思ったけど、寝るの早かったから言い忘れちゃって。私こそごめんね。」
「...っはあー、本当に良かった...。」
心の底からの安堵の息を吐く。昨日からのすれ違いによる事故だったのか。
心臓に悪い...。ただ、失くしていなくて良かった。今はこの事実に安心していよう。

「あ!化粧道具入れるポーチがない!?」
後日彼女のポーチ探しが始まるとは思わなかったが...。


2024/10/19 #すれ違い

10/19/2024, 2:31:33 PM