君は温い。
君の胸に身を埋めると、程よい熱を感じる。
例えるならば、それは陽だまりだろう。現に、じんわりと君が私の心に灼きついている。私は君のせいで日焼けしてしまった。
君が私に安心を与えるならば、私は君に何が出来るだろうか。
君のいない夜は少し肌寒い。私は仮初の温さを布団に求めた。君も肌寒くなって布団に温もりを求めていれば良いな。なんて少し酷い事を考えてしまった。
でも、もしそうであったなら、今度は私が君に温もりを与える事が出来ると思った。温もりを返せると思った。
なんだか太陽を反射する月みたいだなと考えながら、君を照らし安堵させたい気持ちを表に表し、君が淋しくなっていれば良いと薄汚れた気持ちを裏に隠した。
2025/11/16 #君を照らす月
「裕人って、コーヒー苦手だよね?」
私が聞くと、ぎくりと分かりやすく顔色を変えた。
正直、全然隠せてないと思う。何より、私を真似してコーヒーを飲む姿は忘れられない。だって、言葉では言い表せない程にしわくちゃの顔をしているから。
ただ、私が彼に無理をしていないか心配になった。彼は悪戯好きで、少しおちゃらけて子供っぽいけど、人一倍気遣いができる。そんな宇宙一の花だから、ストレスだとか溜めているかどうしようもなく心配なのだ。彼は渋りながらも言った。
「苦手...です......。」
と、どこかばつが悪そうに答えた。やっぱり。
「私のせいで無理に飲んでない?別に、合わせなくて良いからね。」
私の気持ちをそのまま彼に伝えた。裕人は、嫌だ。と断った。そしてそのまま、私が飲みかけていたコーヒーを一口飲んだ。
「うう“〜、苦い...。」
「無理して飲まなくて良いのに...!牛乳取ってくるよ。」
冷蔵庫に向かう私を抱擁して引き止める。思わず固まっていると、彼が馬鹿正直に小っ恥ずかしい事を叫ぶ。
「だってぇ、彼女の好きなもん好きになりたいじゃん!苦いけどさあ!俺、牛乳入れれば最近飲めるようになってきたし!良いじゃん別に!無理なんてしてないもん〜〜〜!」
「...な、なら良いけど...。は、離して、ちょっと苦しい...。」
あ、ごめん。とパッと私を解放してくれた。私の心配はなんだったんだと気が抜けてしまった。
「でもさ、優しいね。梨沙ちゃん。そーゆーとこかわいい。」
「うるさい、うるさい。」
「あー、拗ねちゃった。かわいいよかわいい。」
ああ、彼に一泡吹かせられてしまった。今度は彼の苦手なわさびを大量に付けながら、寿司を食べてやる。頭の片隅に我ながら酷い仕返しが思いついたが、それと同時に、彼の好きなマシュマロでも今度食べてみようかなと計画する。
「コーヒー冷めちゃうよ〜。俺が飲んじゃうよ〜。」
「飲む飲む、ちょっと待って。お菓子だそう。」
「え!やったー!」
2025/09/27 #コーヒーが冷めないうちに
今宵限りの魔法が解けた。
きっとあなたはこの姿を見たら幻滅するでしょう。
鏡に素面の私が写る。
「せっかく今日のアイライン、上手くいったんだけどな。」
2025/09/24 #時計の針が重なって
何をするにも失敗続きの人生だった。
周りの人には多大なる迷惑をかけ、冷え込む視線を送られる。だから、自身にできる精一杯の責任を取ろうと思った。
麻縄を首に括る。勇気の一歩を踏み出そうとした。
しかし、君がそれを台無しにした。
泣いて怒る君の気持ちが理解できない。社会の歯車にはまらない欠陥品が、廃棄されるだけであったのに、君が無理やりはめ直した。
なんなんだよ。じゃあ君は同じ状況だったらどうしてたんだ。俺は君と一緒に死ねば良かったのか。俺は捲し立てた。
君は顔をくしゃくしゃにして口角を少し上げた。
ああ、ますます分からない。
結局、暫くは死ねないようだ。
俺は君にただ、嫌いだと言った。
「一緒だね。」
君はそう言った。続けて君は、死にたくないけど苦しんでやると何もかもを見透かしたように言った。
腹が立ったので、肩を叩いた。
君は肘で突いてきた。
2025/09/23 #僕と一緒に
あなたが連絡を入れてくれたから嬉しい。
あなたが自分を大事にするから怒る。
あなたが苦しんでいるから悲しい。
あなたと一緒にいるから楽しい。
気づけば一喜一憂。ころころ変わる喜怒哀楽。
あなたの感情も、過敏に心に流れてくる。
たまに疲れるけれど、それももう癖になっている。
あっちいったりこっちいったり、次はどんな気持ちになるのだろう。
2025/09/15 #センチメンタル・ジャーニー