『さよならは言わないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
さよならは言わないで
どれだけ距離が離れていてもこの空は繋がっているんだ。
僕は必ずまたこの地球に帰還するから。
何年先になるかわからないけど、木星で10000匹のモンスターどもを討伐して無事にまた君と再会できたら僕と結婚しよう。約束だ。
大きな背。
それが少年の見た、彼女の最後の姿だった。
大人達の険しい話し声を、彼女の背越しに聞いていた。
何を話しているのかは分からない。けれど時折聞こえる怒鳴り声や彼女を責め立てる声から、その内容が決して穏やかではない事を少年は感じていた。
不意に会話が途切れる。振り向いた彼女は凪いだ微笑みを浮かべて身を屈め、少年の頭をそっと撫でた。
「巫女様?」
彼女は何も言わない。ただ微笑み一つを残して身を起こし、村の奥へと歩き出す。
誰も何も言わない。彼女を止める者もない。
急に怖くなり、少年は早足で彼女に追いついて袖を引く。今までならば気づいて止まってくれていた彼女は、何故か歩みを止める事はなかった。
不気味な静寂の中、彼女は迷いなく歩みを進める。袖を引く少年の歩幅に合わせ、幾分かその速さは穏やかになってはいるが、それでも立ち止まる様子はない。
彼女と少年の後。離れて大人達がついて歩く。複数の足音が、どこか耳障りに少年の鼓膜を揺すった。
彼女が立ち止まる。どうやら彼女の目指していた場所に着いたらしい。
俯いていた少年が彼女を見上げ、そして目の前の淵を見る。
ざあざあ、と奥の小さな滝が立てる音を、どこか夢心地で聞いていた。
彼女の手が袖を引いたままの少年の手を離す。名残惜しげに彼女を追う手に背を向けて。
「左様ならば、仕方ない」
凜とした別れの言葉と共に、彼女は躊躇いなく淵にその身を沈めた。
「どうしたの?」
柔らかな声に顔を上げる。
見上げた先には、少年の姿。蹲り泣く幼子よりは幾分か年上に見える彼は、心配そうに身を屈めて幼子に手を差し出した。
「麓の子かな?こんな所まで来てはいけないよ」
優しく窘められて、幼子の目からは新たな滴が溢れ落ちる。しゃくり上げながら、ごめんなさい、と謝れば、少年は小さく笑って大丈夫だと、頭を撫でた。
「おいで。麓まで送ってあげる」
少年に促され、幼子は少しよろけながらも立ち上がる。
手を引かれ、そのまま歩き出そうとして。
「?」
少年に引かれている手とは反対側。
袖を引かれた、気がした。
振り返る。けれどそこには誰もいない。
「どうしたの?」
少年が不思議そうに小首を傾げ問いかける。それに何でもないと首を振って、幼子は少年に連れられて歩き出した。
「ここはね、巫女様の眠る淵があるんだよ。だから巫女様の眠りの邪魔をしないように、誰も入ってはいけないんだ」
幼子の手を引きながら、少年は語る。
この先にある淵には巨大な毒蛇が住むと言われており、その毒蛇を鎮めるために、昔旅の巫女が人身御供として淵に身を沈めたのだと。
少年の話を聞いて、幼子は不思議に思う。
誰も入ってはいけないのならば、何故少年はこの場所にいたのだろうか。
それは聞いてもいい事なのか。幼子には判断がつかない。
不用意に聞いて、少年は怒りはしないだろうか。聞いた事でもしもこの場に置いていかれでもしたら。
そんな不安が幼子の口を閉ざす。少し前を歩き、手を引く少年の後ろ姿を静かに見つめていた。
その視線に気づいたのだろう。あぁ、と小さく頷いて、歩きながらも振り返り、幼子に笑いかける。
「きみみたいに、迷い込んでしまった人の案内をするのが、ぼくのお役目なんだ」
管理人みたいなものだよ、と少年は明るく告げてまた前を向くが、そういえば、と何かに気づき立ち止まった。
一歩遅れて幼子も立ち止まる。
「一つ言い忘れてた。ここでは別れの言葉を言ってはいけないよ」
振り返る少年の表情には、もう笑みはなく。真剣な眼差しに、どうして、と幼子は首を傾げる。
「巫女様にはね。大切にしていた子がいたのだけれど、その子のお別れの言葉を聞く前に眠ってしまったんだ。だから別れの言葉を聞くと、その子がお別れを言いに来たのだと勘違いをして巫女様が来てしまうよ」
そうなのか、と。あまりよく分からないままに幼子は頷く。
素直な幼子に笑みを返して、少年はまた幼子の手を引き歩き出した。
「このまま真っ直ぐ行けば、戻れるよ」
木々の合間を抜け、獣道を辿り。
少年に手を引かれ歩き続けて、ようやく広い場所に出た。
ほぅ、と安堵の息が漏れる。長い道のりは幼子の体力を大分削ってはいたが、あと少しだという思いが、幼子の足を前に進ませる。
手が離される。それが少しだけ寂しいと、幼子は名残惜しげに己の手を見つめた。
少年と出会ってから、さほど時間が経っている訳ではない。だが少年と過ごした時間は、幼子にとってとても楽しいものであった。
離れがたいと思ってしまうくらいには。
「気をつけて。もうここに来てはいけないよ」
柔らかく微笑んで背中を押す。
少年の言葉を寂しく思いながらも、おとなしく頷いた。
「左様なら。元気でね」
手を振る少年に、同じように手を振り替えして。
「ありがと。さよなら」
別れの言葉を、口にした。
ざわり、と響めく風の音。
ざわり、ぞわり、と木々を揺らし、草葉を鳴らして。
がらり、と空気を変えた周りに、幼子の唇から声にならない悲鳴が漏れた。
先ほどまで優しい笑みを浮かべていた少年から、表情が抜け落ちる。
「言ってしまったね」
静かな呟き。その声音は、今まで手を引いてくれていた少年のものとは思えぬほどに冷たく響いて。
ぞくり、とした恐怖がこみ上げて、逃げようと背後を振り返る。
「ぇ?」
そこに道はなかった。
鬱蒼とした木々が生い茂り、あったはずの帰り道はどこにも見えない。
呆然とする幼子の耳に、ざあざあ、と水の落ちる音が響く。
はっとして辺りを見回せば、そこは先ほどいた場所ではなくなっていた。
「別れの言葉は口にしてはいけないと、言ったはずなのに」
無感情な声が響く。
恐る恐る振り返り見た少年の背後。淵の奥にある滝がざあざあ、と音を立てる。
なんで、と震える唇で、幼子は声も出せずに呟いた。
なんで。どうして。
少年が先にさようならを言った。だから大丈夫なのだと思って。
疑問ばかりがこみ上げる。恐怖で滲む涙で、周囲がぼやけていく。
ざり、と地を擦り、少年が一歩足を踏み出す。思わず後退る幼子の体は、けれど何かにぶつかり下がる事はなかった。
冷たい、濡れた感覚。頭に、肩に落ちる、いくつもの水滴。
「左様ならば、仕方ない…そうでしょう?巫女様」
少年が口元を歪めて嗤う。
背後から伸びた、鱗に覆われた白い腕が幼子を閉じ込め。
促されるようにして見上げる幼子の視線の先。
濡れた長い髪を無造作に垂らし、見下ろす表情の抜け落ちた美しい女と。
目があった。
「おいしかった?巫女様」
膝に頭を乗せ眠る大蛇を、少年は優しく撫でる。
二刻もあれば全て消化され、目を覚ます事だろう。
「人間はいつも約束を破ってばかりだね」
呟きながら、鬱蒼と生い茂る木々へと視線を向ける。
そこにはかつて道があり、その先には小さな村があった。
今は無い。村があった事すら覚えている者はいないだろう。
「巫女様との約束を破らなければ、今もあの村はあったのかな」
無理だろうな、と少年は嗤う。
村の者は約束を守るつもりなど、最初からなかったのだから。もしもを考えても意味のない事だ。
あの時。人身御供として立てられたのは、少年だった。
身寄りのない、悲しむ者のない子供。食い扶持を減らす、口実もあったのだろう。
――私が鎮めましょう。代わりに子を生かして下さい。
それを見越して、巫女は村の者と取引をした。彼らを信じて、子供を託した。
だが結局は。
数年後には、巫女と同じように子供は淵に沈められ。
巫女の怒りに触れた村は、一夜にして焼き尽くされた。
「仕方がない。約束を破ってしまったのだから」
村の者も。先ほどの幼子も。
約束を、契約を違えたのだから、その咎を受けるのは仕方のない事だ。
くすり、と嗤う。
少しだけ、可哀想だな、と他人事のように思った。
「最初から帰す気なんてなかったって知ったら、あの子は何を思うかな。帰り道のふりをして巫女様の所へ連れてきて、わざと別れの言葉を口にさせたなんて」
ねぇ、と隣に視線を向ける。
少年と同じ見目をした幻が、声なく泣いていた。
20241204 『さよならは言わないで』
お題『さよならは言わないで』
幼い頃から父親の仕事の都合で何度も引越しや転校が多かった。私(わたし)はそれが嫌だった。友達ができて仲良くなっても1年、早ければ3ヶ月でその友達と別れることになるんだ。
小学校2年生の春、母親が嬉しそうに私達兄妹(きょうだい)に言った。
母親「お父さんの仕事、今度は長期滞在かも知れないわ」
真珠星(すぴか)「本当に?」
源星(りげる)「信用ならねぇな」
母親「本当よ。お父さんを信じてあげて」
源星「そう言って、何度も俺らを裏切って来たじゃねぇか!?あのクソ親父は!!」
走って玄関に源星は向かう。母親の引き止める声も聞かずドアを開け、そのまま外へ出て行った。真珠星はその場で泣き崩れる母親を横目に兄(源星)の後を追いかけ外に出た。源星はすぐに見つかった。アパートの目の前にある。砂場とブランコしかない小さな公園のブランコに座っていた。真珠星はそっと隣に立って源星の顔を覗き込むようにして声を掛けた。
真珠星「お兄ちゃん、み〜つけた!」
真珠星の満面の笑顔を見た源星は、心の中でずっと押さえていた気持ちが溢れ、言葉にならない声を押し殺して泣いてしまったのだ。
源星「……うぅっ」
兄の泣き顔を初めて見た真珠星は、後ろに回りぎゅっと抱きしめ優しい声で話す。
真珠星「次、転校する時は『さよならは言わないで、また会おう』ってクラスの皆んな言って別れよう」
泣いて気持ちが落ち着いたのか、鼻水をずるずると啜りながら
源星「あ“あ“……そうだな」
真珠星は源星が元気を取り戻したと理解して、勢いよくブランコを後ろから押した。そして––––
真珠星「家(アパートの部屋)まで競争〜」
と言って家に向かって走り出した。負けるまいとブランコから降りた源星は真珠星を追いかけて行った。
End
通勤時に見た、ふたり並んで登校する高校生に
学生時代の自分と彼女の姿を空目した。
君と並んで歩いた時間。
しがらみから解放されて、ただの人となって、
好きな事だけを話せる時間。
駅から学校まで、行きで15分。
帰りは、ちょっとゆっくり歩いて20分。
幸せな時間を挙げるとしたら、
多分こういう時間なんだろうな、と今になって思う。
たまに走って、息を切らしながら乗り込んだり。
目の前で電車を逃して、
駅のベンチでまた次の電車を待つまで喋ったり。
…話し足りないから、早足でも間に合うような電車を
わざと見送ったりして。
いつだって私達は、遮断機が降りる音を聴きながら
電車の音にかき消されないように話していた。
反対方向の電車に乗る君が、電車が来てから、
向こうのホームに行くまでのその数分。
その時間が、数分なのに、惜しい。
今の私にはもう、二度とない時間。
だから、今朝見た学生達のように、
私達がまたあの時に戻れたのならば。
私はきっと、彼女の袖を引っ張って、
最後の電車を乗り過ごすんだ。
もう二度とない時間を、もう少しだけ、温めるために。
「さよならは言わないで」 白米おこめ(遅刻)
#さよならは言わないで
・保育園でのできごと
・親子で登園してくる時、保育室の前で別れを惜しむこども
・お部屋で友達が遊んでいるものに興味をそそられ、ついそっちへ行ってしまう。
・お母さんはさっきまで別れを惜しんでいたこどものことが心配で離れられないでいる
・そんな時にこどもが放った言葉「さよーなら!」
さようならかぁ。明るい子どもの言葉を聞き、保育士と親はつい爆笑してしまった。
「病は気から、言霊信仰」
「言葉と気持ちってとっても大事」
「だから、これはとっておきのおまじない」
「君に贈る重ったい呪い」
「潰れずに解かずに持っていて」
「『 』」
‹さよならは言わないで›
『さよならは言わないで』
私、またねって言葉が好き。
次があるって、これきりじゃないって素敵な事だと思うから。
それに、また会おうねだとかまた会えるよねって意味も含まれている気がするから、相手と言い合えば絶対また会える気がするの。
だからさ、一緒に言おう?
「さよならは言わないで」
ばいばいって私が言ったら、さよならとその子は言った。
凛として、かっこいいその子。
その子が言えば、不思議とさよならは冷たい雰囲気ではなくなる。
綺麗な響きを含んで、するりと私の中に入る。
ある日、
ばいばいって私が言ったら、ばいばいとその子は言った。
さよならと言わないで。
いつもの綺麗な響きは、やわらかさへと変わって。
その子の凛とした雰囲気も、やわらかくなって。
私は興奮気味にばいばいともう一度言った。
さよなら…は突然訪れた
卒園式…
小学校の卒業式…
中学校の卒業式…
高校…大学…
さよならは最初からわかってた
けど、卒業式でなにも交換できずにあのこは突然どこかへ行った…
「さよならは言わないで」
『さよならは言わないで』
「僕は退屈なんだ。孤独なわけじゃない。だから、わざわざ追いかけてこなくていい」
残った儚いワインが、グラスの中で揺れている。
私がここへ来たのは慰めるためではなく、諌めるためだったのだと彼も気づいているのだろう。
不意にバルコニーへと出てきた知らない誰かが、私たちの存在に気づいてそそくさと戻っていく。
後を追うべきか迷っていると、黒く塗った彼の爪が、ディナージャケットのウール越しに私の腕に食い込んだ。
「さよならは言わないでおく」
いつにない、子供じみた仕草で私を見る瞳に、胸を突かれる。
その一瞬の隙を彼は見逃さなかった。
強い力で引き寄せられ、唇に何かが押し付けられる。
そしてそのまま私を突き飛ばすように、彼は室内へと戻って行った。
バルコニーに独り残された私は口元を手で覆い、そこに残る熱を感じていた。
室内では主役の帰還に華やいだ歓声が上がっている。
今夜は、彼の婚約披露パーティーなのだ。
『さよならは言わないで』
ここ最近のお気に入りスイーツを求めて今日はコンビニエイトを4軒もハシゴした。
数あるコンビニの中で、ここエイトのスイーツは絶品だ。探していたのは「3色ミラクルくるくるチーズケーキ」。タルトカップに白、黄色、ピンクの3色チーズ生地が等分に入っていて色別に味が違うのでそれぞれで食べるも良し、ちょっと冒険して混ぜて味わうも良し、味が場所によって変わるのでネーミングのくるくるチーズケーキとは中々考えたものだ。
店に入るとすっかり顔馴染みになった店員さんが寄って来た。
「このチーズケーキ、これで生産終了なの」
あっという間に販売終了になるのが期間限定品の辛いところ。これが最後の1個だと言われ、手にしたパッケージをしみじみと眺めた。
こんなに美味しいんだもの、いつかまたスイーツ復刻版として戻って来てね。だから今はさよならは言わないんだから。
さよならは言わないで
またね
と言って人と別れるのがマイルールだ
日常の帰り際でも
卒業式の後でも
好きな人と話した後でも
また、あなたと会えますように
そんな想いをこめて
私はさよならは言わない
[さよならは言わないで]#06
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大好きな友達とお別れの日
毎日一緒に笑い合う日々は
もうこれで最後
なら、"さよならは言わないで"
みんなで言ったさよならの代わりは
いつもと変わらない別れの言葉を
『またね!』
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(卒業式の時の私より)
「一緒に写真撮ろう」
コートを羽織らないと寒い中、高校の卒業式が終わり、友達と写真を撮っていた。
「あっという間だったね」
「そうだね。早かったね、3年間」
そんな話をしながら、校舎や風景を撮っていたら
「名残惜しいのはわかるけど、そろそろ帰りなさい」
担任の先生がやって来る。
「あ、先生。一緒に写真撮ってください」
とお願いすると
「いいよ」
快く承諾してくれる。
「ありがとうございます」
先生と写真を撮り
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
荷物を持ち、先生に
「先生、さよな…」
「ちょっと待って」
挨拶しようとしたら、止められる。
「どうかしましたか?」
「うん。君たちは卒業生だから、明日からはここに来ないでしょ」
「はい」
「いつもなら、さよなら。でいいんだけど、卒業生にさよなら。って言われると何だか淋しくてね」
「先生…」
「だから、さよならは言わないで、こう言って欲しいんだ。2人とも、またね」
「はい。先生、また会いましょう」
笑顔で先生に手を振り、学校を後にした。
私の世界に音は無い。
元々、音がながった訳では無い。
「洗濯どうする?」
LINEで送られてきた白い吹き出し。
『やっとくよ。仕事でしょ。』
任せて!とかかいてあるスタンプを適当に送る。
彼はそのまま出てってしまった。
元々、私の世界はもっと綺麗だった。音があったから。
あなたの声が聞こえたから。
無駄遣いしているのを分かっていながらはらい続けているサブスクを開く。補聴器を外して、イヤホンをつける。再生ボタンを押しても、何も聞こえない。音量を上げても。何をしても。
いつの間にか頬に涙が流れていた。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
夕暮れ時。彼が帰ってきた。もう何も言わない。少し嫌な予感がした。
「話あるんだけど、こっち来て欲しい。」
白いフキダシが増えていく。私は彼の隣に座った。
ソファの前にある小さいテーブルには、ノートとシャーペンが2本置いてある。
『なに?』
私がそこに書くと、彼は言葉を綴り始めた。
でも、書くスピードはゆっくりだった。
「別れて欲しい」
彼のぐちゃぐちゃな字でそう書かれていた。なんで嫌な予感が的中しちゃうんだろ。そう思いながら、覚悟ができていたかのように、私の手は動き始めていた。
『わかった』『別れよう』
そこからのことは色んな意味であっという間だった。
苦しさも、虚しさも、あんまりなかった。
二人でいる最後の日。一緒に最寄りまで歩いた。
何も言わなかった。でも、心地よかった。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
駅の入口前、2人で向かい合う。
「じゃ。、、さ」
『まって、』
久しぶりに声を出した。相手が驚いているということはちゃんと声を出せているのだろう。
『わたしが、、ゆうから、さよからは、いわないで。』
『…さよ、なら、い、まま、であり、がとう。』
そう言って駅の構内に向かった。
歩いていると、急に糸が切れる音がした。
それと同時に、世界がどんどん歪んで行った。
【さよならは言わないで】
さよならは言わないで、「またいつか」と言いましょう。
そんなことを伝えているお題だなって思った。
両者の意味は98%変わらないものの、後者のほうが耳触りが良くなるようだ、と年齢が深まってくるとそう思った。
嘘かもしれない。
正確に伝えるなら前者。勘違いを起こす。
綺麗事、正論の類。低年齢だとそれが聞こえてくる。
嘘。大人に、なろうとしている僕の心にも小言のように発している。
でも、嘘かほんとか判断するのは数年後の未来の僕だから。
別に勘違いを起こしたっていいじゃない。
数年後の未来は、僕たちにはわからない。
わからないなら、確定せずに曖昧にしよう。
穏やかな海の、波打ち際。歩いていれば足の裏に砂粒がつく。
またいつか、という希望を抱きながら歩く。
痛いっていう砂粒でてきたサンダルを履いていると、良い気分で歩ける、と思う。
ずっと貴方と居られると思ってた。
私がこの手紙を書いたのは、貴方に知ってほしかったから。
私がどんなふうに思っていたか。
いつだったか、貴方は私に結婚指輪をくれようとしたでしょう?
嬉しかった。
もっと素直になれば良かったのね。
私は結婚指輪を貴方に返した。
だから貴方は私が結婚したくないのかと思って落ち込んだ。
なんとか誤解をといて無事に結婚できたんだけど。
結婚してからも何度か貴方は指輪を渡そうとしてくれた。
けどそのたびに断ったわ。
だって、なくしたく無かったから。
それでも、受け取って置くべきだったって思う。
貴方があの指輪を売ってしまう前にね。
正直、かってかもしれないけど、すごく落ち込んだ。
貴方と私は離婚したけど、離婚してから思うの。
もっと、大好きとか、愛してるとか、言っておけばよかったなって。
離婚したのだって貴方と私のすれ違いのせいでしょ?
不器用でも、優しく接していれば、喜びを表せていたら今頃、まだ結婚してたんだろうなって思うとなんだか切なくなっちゃって。
それと、話は変わるけど、私が引き取った犬、サックがいっちゃって。
これはちゃんと、伝えなきゃって思ったから。
サックは幸せだったのかしら。
もう十二歳、そろそろだとは思ってたけど。
結婚生活。
貴方は失敗したと感じているのかもしれないけど、私は幸せだった。
だからなに?って思うかもしれないけど。
話にオチはつけないけど、もしまたどこかで会うことがあったらよろしくね。
ーさよならは言わないでー
【さよならは言わないで】
「さよならは言わないで。」病気の親友に言った。自分は、『さよなら』は嫌い。もう会えなくなるんじゃないかと思ってしまうから。『さよなら』と言われても、自分は、『またね』と絶対言う。そっちの方が楽だから…
さよならは言わないでおこう
まるで最後になるような
もう会えないような
そんな気持ちにならないように。
駅のホームで
「じゃぁ、またね…」と、
手をふった。
もう会えないのか
また会えるのか
はっきりしないような気持ちになる。
もう次なんてないのかもしれない。
いや、またねと言ったから
また次もあるのかもしれない。
そんなことばかり考えてしまう。
だから、さよならじゃなくてよかった。
「さよならは言わないで」
「さよならなんて言わない」貴方はそう言った。
君に寂しい思いをさせたくはないから、離れることもないよ。
そんな理由を話しながら私に微笑んでみせた。
でも、いつか終わりが来ることは分かっていたの。
悲しいけれど、別れの時は必ずやって来る。
その時は、「さよなら」の一言が欲しいと思った。
さよならと言わないことを求めながらそう思うのは我儘でしたか?……ええ、そうだったに違いないわ。今なら分かるの。
貴方はさよならも言わないでどこかへ行ってしまった。
ボロボロになった私のからだと、寂しさだけが残った。
あまりにも虚しかった。
悲しかった。
でも、いつかまた逢えることを知っているから。
私は、それでいいの。
ぽっかり空いた貴方の形をした穴を心に抱きながら、私はその時をいつまでも───待っているの。