NN

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私の世界に音は無い。
元々、音がながった訳では無い。

「洗濯どうする?」

LINEで送られてきた白い吹き出し。
『やっとくよ。仕事でしょ。』

任せて!とかかいてあるスタンプを適当に送る。
彼はそのまま出てってしまった。

元々、私の世界はもっと綺麗だった。音があったから。
あなたの声が聞こえたから。

無駄遣いしているのを分かっていながらはらい続けているサブスクを開く。補聴器を外して、イヤホンをつける。再生ボタンを押しても、何も聞こえない。音量を上げても。何をしても。

いつの間にか頬に涙が流れていた。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

夕暮れ時。彼が帰ってきた。もう何も言わない。少し嫌な予感がした。
「話あるんだけど、こっち来て欲しい。」
白いフキダシが増えていく。私は彼の隣に座った。
ソファの前にある小さいテーブルには、ノートとシャーペンが2本置いてある。
『なに?』
私がそこに書くと、彼は言葉を綴り始めた。

でも、書くスピードはゆっくりだった。
「別れて欲しい」
彼のぐちゃぐちゃな字でそう書かれていた。なんで嫌な予感が的中しちゃうんだろ。そう思いながら、覚悟ができていたかのように、私の手は動き始めていた。
『わかった』『別れよう』

そこからのことは色んな意味であっという間だった。
苦しさも、虚しさも、あんまりなかった。

二人でいる最後の日。一緒に最寄りまで歩いた。
何も言わなかった。でも、心地よかった。

𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

駅の入口前、2人で向かい合う。
「じゃ。、、さ」
『まって、』

久しぶりに声を出した。相手が驚いているということはちゃんと声を出せているのだろう。
『わたしが、、ゆうから、さよからは、いわないで。』
『…さよ、なら、い、まま、であり、がとう。』

そう言って駅の構内に向かった。
歩いていると、急に糸が切れる音がした。
それと同時に、世界がどんどん歪んで行った。


【さよならは言わないで】

12/4/2024, 9:41:07 AM