“消えてしまいそうな夜に、”
時々自分が潰れてしまう様に感じる日がある。
今日、その日が来てしまって。
何も考えられないけど、ただ漠然と「私は何もうまくできない」という言葉が脳にナイフを突き刺す。
だんだん胸がぎゅっと握られた様に苦しくなって、息をしてるのに息をしてないみたい。
そんな日だからこそ人の温もりを求めてしまう。
他人の優しさに縋りたくなってしまう。
私は、あなたに電話をかける。
あなたの温かい声が、私をここに存在させる。
「もしもし。」
『もしもし?どうした?』
「今家いる?」
『うん。いるよ。』
「いってもいい?」
『いーよ、まってるねー。』
いつもと同じ会話のはずなのに、私は涙を流していた。
私は足早にあなたの元へ向かった。
“憧れ”
画面の向こう、スクリーンの向こう、舞台の向こう、
きっと私が知っている美しい世界の向こうには私がまだ知らない世界があるんだと思う。
そこに小さな期待とたくさんの夢をもつ。
美しい世界を少し覗いたとき、私はその世界が聖域にみえた。
そこにどうすれば近づけるだろう。
どうすればその世界に行けるのだろう。
方法も分からないし、今どう行動するべきかわからない。
しかし、あの聖域に足を踏み入れたいという思いだけが増えていく。
その想いが届く頃には、私はまだ知らない世界にいるのだ。
きっと、
【まだ知らない世界】
“逃避行”
私が起きた時、時計は明日に変わっていた。誕生日だった。気絶してから何分だったのだろう。
母は、私を殴ってから飲みに行ったかな。
あぁ昨日酷かったもんなぁ。受け身とってもこれか。
母の彼氏がいなくてよかった。
毎回あるなんにもない時間。
その時間が増える度、怪我を隠すのは上手くなった。あと受け身をとるのも。
傷が増える度、逃げたいって思いが増えていく。
でも、逃げ方が分からない。ここにいるしかない。
どん。
隣の部屋から壁越しに何かがぶつかる音が聞こえた。
また、へやが静かになる。
いつもより大きな音だった。
私は長袖の服を着て傷をかくし、部屋を出ておとなりさんを確認してみた。部屋を出るのは久しぶりだった。
とりあえずノックして、ドアノブを捻った。
おとこのひとがいた。はじめてみた。
目の前に人がいて、おとこの瞳は何かを怖がってるように見えた。
おとこのひとは入ってきたのに気づいて、びっくりしていた。諦めた顔をしてた。
「死んでるの?」
『うん』
また、静かになる。
『殺した。』
「え?」
『俺、、、殺した、。』
「私も…しぬの、?」
『いや、殺さない。』
『これから、逃げる。だから、
「連れてって。」
『え?』
伸びた前髪の向こうから見える瞳と、目が合う。
「ぜったい、だれにも言わない。」
「逃げたいの、ここから。でも、わかんなくて、」
「だから、一緒に逃げて。」
「もし、何かあったら、ころしても、いいから。」
気づいたら、おとこのひとにそう頼んでいた。
『いいよ、でも、いいの?』
「うん。いい、」
『じゃあ一緒に行こう。』
『なるべく目立たないようにね。』
おとこのひとはパーカーを被って私にキャップをつけた。
誕生日に貰ったのは、
傷ついた身体と
嘘だった。
【すれ違う瞳】
今日は、私の作った物語ではなく、私の言葉を綴ろうと思う。
“大好き”
この言葉に最近、違和感を持つ。友人(クラスで仲良い人)にこの言葉を度々言われる。周りの人も同じような言葉を飛び交わせる。
笑ってそれを言う人々が私には気味悪く見えるのだ。
目の前の人を離さないためのことば。この関係を保つため、相手を利用するための汚れたことば。
どうやっても、その言葉が本当にその人から出ているように見えない。嘘が染み付いた言葉にみえる。
そんな言葉を軽々しく行って良いのだろうか。
その言葉を発する時そう思ってしまう。
それを言わないといけない関係は本当に「ともだち」と言えるのだろうか。
そう思うと、私は何も信じられなくなる。
全部が全部嘘に見える。
こんな考えを持つ私がひねくれている。
みんなはそんなこと思って言っていない。
そんなこと分かってる。
でも、怖くて怖くてたまらないのだ。自分が嘘をつくみたいで。言い続けることで、それが意味の無い言葉になりそうで。
そうおもいながら生きている私は、いつになったらみんなと同じになれるのだろうか。
“大好き”という言葉を
何も考えず
純粋に言える日が来るのはいつなのか。
もし、なんでも知っている神様がいるならこの言葉の意味を教えて欲しい。
【大好き】
“左手”
就活から家に帰ってくると、あの人が寝ていた。
スーツはやっぱり息苦しいなと考えながら、あの人を見た。
あの人はいつも、人気者だ。会社は忙しいはずなのに、度々うちに来る。きっと仕事で疲れたのだろう。
目の前のソファがあるにもかかわらず、彼はラグですやすや猫みたいに寝てる。
イケメンと言われるだけあって、やっぱり寝顔は綺麗で。髪を伸ばしたら女の子にも見えそうだ。
体は横を向けて寝ていたから、私も向き合うようにゴロンと寝転がってみた。スーツのせいで寝心地は悪い。
しかし、目の前の人を見てると心地よくなってくる。
不意に、目の前に手があることに気づいた。手のひらが上を向いている。
昔、手繋ぐの好きだったよな。
なんとなく、手を近づけてみる。あの人の左手と私の左手が、重なる。急に暖かくなった左手はあの人の左手が優しく握っていた。緩いけど、離せる訳では無い。
私達はずっとそんな感じだったのかも。
今は日が沈んでいるはずなのに、その手は陽の光が当たっているみたいに暖かった。気づいたら、ふわふわ眠りについていた。
目が覚めると、あの人は手を握ったままこっちを見ていた。
「おぉ、おはよ。」
『ん…うぅ、おはょ』
「まだ、このままでも大丈夫?」
『うん。いーよ。どうやって入ってきたの?』
「部屋、隣でしょぉー」
そんな感じで、ふわふわ適当に喋る。
この時間が、暖かくて、心地いい。
終わらなければいいのに。そう願ってしまった。
【あの日の温もり】