『「ごめんね」』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「ごめんね」
詫びなど数え切れないほどある。親に、祖父母に、友に、子どもたちに、大切な人に。全てに詫び状を書けば、私は詫び状の山に埋まってしまいそうだ。しかし同時に、感謝状もたくさんある。正直、詫び状より感謝状の山は何倍も大きい。きっと多くの人がそうだろうと思う。感謝状の山に潜り込んで埋まってみようかな。我ながらいい思いつきだ。
だが今日のお題は「ごめんね」。
届かぬ「ごめんね」が心のなかにあるとき、後悔に結び付いてしまうものも多々ある。さてどうしよう。私の場合、それは子どもの頃の記憶に刺さっている。自分でも原因がよくわからない破裂で友達に悲しい想いをさせた。今振り返っても、不当に傷つけたと思う。どこでどうしているか全くわからないので、たぶんもう会う機会はないだろう。いまのところ、これについて心の晴れる方法は見つからない。ふと思い出す度に「ごめんね」がわいてくる。
私の「ごめんね」は、子どもの私が所在なく持っている…
きっかけは些細なことだった。
僕がうっかり花を踏んでしまって、彼女が仕返しにグランドピアノをしっちゃかめっちゃかに弾いた。
明らかに僕が悪いこともわかってる。
彼女は確かに僕が大事にしてるピアノに触れたのだ。それは確かに許せないことでもある。でも、僕がしたことは取り返しのつかないことで。花は折れたら戻らない。
そんなわけで僕が謝らないといけないのだが肝心の彼女が見つからない。
いつもいる場所を色々と探索してみても全く見つからない。
どうしようか、どうすればいいのだろうか。
見つからないなら話にならない。
気分転換に花畑に来たら、闇に包まれた向こう側から彼女がやってきた。
「⋯⋯⋯⋯あ」
「⋯⋯なんだ、演奏者くんじゃん」
微妙に嘲笑うような声で彼女は言った。
「あのさ、ごめん」
「ん? 何が?」
「花だよ、その潰しちゃったから」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あぁ」
なんだ、そのことか。なんて続きそうな感じで彼女は言ってのける。
「⋯⋯ボクもごめんね」
「何が」
「⋯⋯⋯⋯もう、会えないかもだから」
彼女はそう言って闇の中に戻って行った。
意味がわからないなんて思って追いかけて闇に触れたとこで壁にぶつかったような感触がした。
確かにこの先に入って行ったのに、僕はそこから拒絶されて。
⋯⋯⋯⋯何が起こってるか僕は全く分からなかった。
「ごめんね」って心の中では思っていても案外口にするのは難しい時がある。
でも心の中で思っているだけでは相手には伝わらない。
「ありがとう」「ごめんなさい」をちゃんと口に出して思った時に言える大人でありたい。
「ごめんね」
ごめんねって謝る。
でも、あなたは悪くない。
わたしは謝るってばかり
なにかにすぐにごめんねと口癖のように言ってしまう。
この癖はよくない。
「利害の一致」
幾度となく謝る貴方に首を振る。
貴方から持ちかけられた、偽りの関係。
付き合っているフリ。偽の婚約者。
貴方は自分の都合で私のことを利用していると思っている。
期限付きの関係。
貴方が目的を達成するまでの、カモフラージュ。
願ったり叶ったりだ。
利用しているのは私も同じ。
決して実ることはない、恋。
果てしなく、現実に近い夢を見させてもらっている。
私は貴方と過ごす日々を、一生の思い出にしていく。
謝るのはこちらの方。
貴方が本気で私を好きになったとしても、私は本当の気持ちも、想いも、告げることはできない。
────「ごめんね」
「ごめんね」
自分の誤りを認めてすぐに謝っていたら良かった
ただ一言「ごめんね」を言えばよかった
あれが最後の言葉になるなんて、夢にも思っていなかったから。
あぁ、ごめん、ごめんね
僕のせいで君がいなくなっちゃうなんて思わなかったんだ
本当にごめんね、わがままだけど許して、
ハンドガンを一丁、それが撃てる弾を一発。それがやくざが要求された礼の品だった。青年の拙い手出しで迫ってきていた刑事たちから逃れられた彼にとって、それはあまりに簡単で、少し面倒なしろものだった。決して犯罪に利用するつもりはない。指定した場所、指定した時間以降に来てくれれば、銃は回収できる――そんな冗談のようなことを青年は言っていた。チェーンのカフェで脅すような、すがるような目でそれを口にしたその理由を、やくざは即座に理解した。理解できてしまった。
だったら俺が「それ」をしてやってもいいんだぞ――そう凄んでみせるも、余計な罪状を背負わせるのも嫌だ、と青年は固辞した。やくざにとってみればどっちでもいいことではあったが、ことをスムースに済ませるには自分が出を下したほうがずっといい。このひょろひょろした青年が土壇場で逃げ出すことだって充分ありうる話だ。だから、やくざはそう提案したにすぎなかった。が、青年は自分で始末をつける、そう言って譲らなかった。彼が何を思ってそれらを要求したのか、そんなことにやくざは興味を惹かれなかった。どこにでもある現実逃避だ。おおかた、働くのが嫌だの、親兄弟とのいさかいが面倒だだの、女といい関係になれなかっただの、そんなところだろう。くだらない。やくざは深煎りのブレンドの、わずかに残っていたのをあおり、分かった分かった、分かったからさっさと帰れ。モノは明日お前の家のポストに入れておいてやるから住所を教えろ、と紙ナプキンを青年の前に滑らせた。青年は胸ポケットに収めていたメモ帳からペンを抜き、几帳面そうな手つきで下手な字を書いて返してよこす。やくざは眉間にしわを寄せてそれを読み、立ちあがった。
やくざは別のカフェで、青年の要求どおりのものを青年のアパートに届けるよう要請する内容のメモを書いて封筒におさめ、郵便局で手続きを踏んだ。この時間であれば今日中に支部に話が届き、明日午前には青年の要求したものが届けられるはずだ。郵便局から出たやくざは、信号を待ちながら何をやっているんだろうと自分に問うた。青年の要求など放っておけばよいのだ。彼にやくざを追いかける力などない。当然、組織の名も自身の本当の名前も教えていない。彼のことなどさっさと忘れ、ほとぼりが冷めるまで適当な支部で大人しくしていればいいのだ。警察など「上」に金と利権さえ与えておけばどうにでもなる。むしろ青年の要求を素直に聞くほうがリスキーなのだ。
とはいえ、すでにメモは預けてしまっている。下手にキャンセルして印象に残られるほうが面倒、ともいえる。だから――
なりゆきに任せる、か。
やくざは人の流れに乗り、そして街に消えた。
当初の予定通り、やくざはいくつかの県境を越え、とある地方都市のとあるアパートでつまらない日々を送っていた。警察の追及などもちろんない。最低賃金のつまらない仕事をちまちまとこなし、しみったれた給料と組織からの送金で、倹しくしていれば特段不自由のない日々を送っていた。青年の指定した場所から銃も回収できたと聞いている。
報告の翌々日、やくざのもとに大きめの封筒に入った青年からの手紙が届けられた。銃を回収した際、そのそばに置かれていた――落ちていたのとは違うらしい。なんとかというゲームのロゴの彫りこまれた、使われた形跡のないジッポーの下に置かれていたという話だ――封筒が、ご丁寧にもやくざのもとに回って来た、というだけのことだ。
封筒の中にはさらに封筒が入っており、ひとつはやくざに向けられたもの、そしてもうひとつは青年の知人に宛てられたものだった。やくざへの手紙にはそれがどんな相手なのかは書かれていなかった。ただ、どんな内容が記されていたのかは想像がつく。だからやくざは黙ってそれをポストに投函してやった。それでこの問題は時間がすべてを覆い隠すだろう。やくざが法廷に立つこともない。青年の――が見つかるかどうかは分からない。青年の知人はしばらくは重いものを抱えるだろうが、それこそ時間の問題だ。いずれ、その知人も元の生活に戻るだろう。だから、何も気にすることはない。
それだけのことを思い、やくざは帰宅後のシャワーを浴び、夕食にと買ってきた弁当のふたを外し、冷蔵庫で充分に冷やされたチューハイのプルトップを引いた。なんでもない、ごく普通の日のごく普通の夕焼けが鮮やかな夕のひと幕のことだった。
お題『ごめんね』
あぁ、故郷にのこしてきた幼馴染になんて言おう。
今、魔王と対峙してるんだけど、正直頭はクラクラするし、喘鳴をともなった息をするたび口からこぼれる血をぬぐうことが出来ない。骨折した足で痛みをこらえながら踏ん張るのがやっとだ。
俺は杖を握りしめる。魔王は勇者の剣じゃないと倒すことが出来ない。なら、俺に出来ることは
杖を魔王に向けて、残り少ない魔力で呪文を唱えて、解き放つ。魔王の全身が一瞬だけ巨大な火だるまと化した。
「今だ!」
俺が叫んだと同時に魔王の大き過ぎる腕が俺に襲い掛かる。最期に見たのは、歯を食いしばって目に涙を浮かべて咆哮をあげながら走る勇者の姿。
それから仲間との日々や、故郷にのこした幼馴染の姿が走馬灯となって流れて
俺は、幼馴染に「もし帰ったら君に伝えたいことがあるんだ」と言ったんだ。それも叶いそうにない。
「ごめんね」
俺の言葉は音として出ていたか分からない。魔王に引き裂かれた体はもう痛みを感じなかった。
お題:ごめんね
Q 相手が自分の誤ちを認めず
言い合いになった事はありますか?
A いいえ、私は有りません
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
A 俺は有ります 。
その子は授業中によく寝てました 。
私の席は先生に見えないし、眠いからと言って
その子は俺が起こしてあげた時は逆切れをしてきて
俺の友達B君が起こした時はすんなりと起きる 。
そして、授業が終わったら「ノート見せて?」
と言ってくる始末 。
そんな彼奴に苛立ってましたが
呆れの方が強かったです 。
そして、化学のテスト前
先生「 今のここテストに出すから覚えとけよ」
っと言ったので、
僕は親切さで起こしてあげようと声をかけた
「 そろそろいい加減起きろ 」
彼奴「 うるさいっ、寝てない高速瞬きしてだけ」
いつもなら許せた 。
でも、コレで寝かせたら此奴はまた
俺に「ノート見せて」と軽々しく言ってくるだろう 。
だから、
「 いや、寝てた。テストに出るって親切に教えてやったのにそんな態度なわけ??」
「 別に頼んでねーよ 」
そんな事を言う彼と今まで仲良しこ良ししてたと
思うと最悪だ 。俺には損しかない 。
俺を舐めてる貴方に言いたい 。
「 ごめんね 」なんか軽々しく言うな 。
起こされたくないなら初めから寝るな 、
あと 、お前の「ごめんね」はもう信じない 。
そして、次の日から俺は彼奴を相手にしなくなった
だって俺には関係ないもん 。
彼奴が寝てても俺には関係ないのだから 。
「ごめんね」
毎日ごめんねの連続
謝って済むなら警察はいらないよ。
反省と改善の繰り返し。
ごめんねを言わなくても良いくらい
寛大になれればいいけど
それがなかなか出来ない。
だから、せめて
言い過ぎたとか怒りすぎたって時は
すぐごめんなさい。
「ごめんね」
色んな人に色んなことに対しての後悔と罪悪感がある。お母さん、いつも迷惑ばっかかけてごめんね。家に帰るのも遅くてごめんね。だめな娘で、。彼氏、すぐ嫌なこと言ってごめんね。実は1回浮気したことあるの、ごめんね。謝っても謝りきれないよね。いいよ、許さないで私のこと。結婚するなら墓場までもってくよ。ごめんね。
ごめんねよりありがとうが多い日常がいいな。
貴女の笑顔も、涙も、怒りも
どんな表情も、大好きで、受け止めたかった
貴女にとってそれらをぶつけられる存在になりたかった
「私、好きな人が居るんだよね」
「そうなんだ?どんな人」
「うーん、素敵な人?」
僕じゃないんだなぁって勝手に振られた気分になっちゃって
いっそ貴女のそばにいられるならと
貴女の惚気を、恋物語を聞いていた。
「とにかく度を超えて優しい人でね、面白くて、」
溢れるように言葉を続ける貴女の顔は
それこそ乙女の顔で、一番可愛い。
「それは素敵な人なんだね、貴女にぴったりだと思う」
「そうかな…」
そう言って少し俯きがちになる
「なにか、不安なことでもあるの?」
「んーん、私なんかがなんて思っちゃったり」
「そんなに素敵なのに?」
貴女は目を丸くした
これが僕の本心で、貴女への気持ちなんです。
貴女と出会って3度目の冬
「体調、良くなるかな」
「日頃の行いが良いからすぐ良くなるよ」
「そうかな…」
貴女はまた俯いた
「僕、貴女のことずっと好きでした」
「え…?」
「だから、良くなったら返事くださいね」
「わ、私…」
僕は逃げるようにその場を後にした
なにか言おうとした彼女の言葉を遮るように
僕じゃないという現実を先延ばしにするように
「私ね…」
あれからしばらく経っても、まだ辛そうな貴女
やせ細り、あの時の笑顔も涙も、怒りもないような
何かが抜け落ちてしまったような貴女
「もう良くならないみたい」
か細い声でそう告げた
「だからね、私この前のお返事をしなきゃと思ったの」
生唾を呑む
「…ごめんなさい」
彼女の瞳が潤んでいく
皆まで言わないでくれと思ったり、最後まで聞きたいと思ったり
「私も、ずっと好きでした」
「…は?」
「ずっと…私なんかって思って、言えなくて」
「ずっとそばに居てくれて、私を肯定してくれてありがとう、貴方はとっても優しくて、面白くて、私にとってかけがえのない存在だった」
「…ぼ、僕」
「なかなか伝えられなくて、ごめんなさい。好きになって…ごめんなさい。」
そんな、やめてよ、冗談は
僕の大好きな人に、謝らせないで
僕の、愛する人の好きを、呪いに…しないで欲しかった。
これからも、貴女だけを愛し続けます
だからどうか、僕が逝くまで、待ってて。
僕の方こそごめんね、気付いてあげられなくて。
【ごめんね】
あとがき
2人はずっと、両片思いだった。その想いを伝えるのが遅かったが為に、お互いがお互いと自分を苦しめる呪いになってしまった。
でもこれが本当の愛と呼べるのかもしれませんね。
『ごめんね』
二人でいると息苦しいくらいイライラする事があるのに、一人になるとなんだか急に寂しくなる。
ごめんね、勝手だね、わがままだったね。
二人でも一人でも飲み込む言葉は、胸の中に確かにあるのに・・・
【「ごめんね」】
「ごめんね」よりも「ありがとう」が好き。
でも私はすぐ謝っちゃう、言えない「ありがとう」
お題:「ごめんね」
二階の一室を開け、スイッチを押して薄明かりを得ると、部屋の端まで歩いていき、カーテンを開く。
更に窓を開け、雨戸を開けた。
ゆるりと見上げれば、どんよりとした曇り空。それでも天気予報では一応、一日雨は降らないという。
換気のため、暫くは網戸にしておく。
部屋を出て突き当りの納戸に、掃除機が決まってある。取り出して、先ほどの部屋に引き返す。
ここにあったベッドは随分昔に隣の家で暮らす曾祖母に譲り渡した。高齢になり、布団での寝起きが辛くなったためだ。その曾祖母も、もういない。
大きく場所を取っていた家具が取り除かれたこの部屋に掃除機をかけるのは、物理的にはさほど苦ではない。
カーテンレールには、千羽鶴が飾られている。CDコンポの上には、大勢の友人がサインをしてくれた大きなぬいぐるみもある。勉強机の上には学校の教科書やノートが行儀よく並んでいる。
部屋の中は、ずっと様子が変わることがない。そこだけ見ると、あれからどれだけ月日が経ったのか忘れそうになるほどだ。
5歳上の兄が海外で事故に遭い、生死の縁を長いこと彷徨った後、そのまま帰らぬ人になってからもうすぐ21年が経とうとしている。
中学3年生の受験も間近という頃のできごとで、当時は精神的にどん底まで落ちて勉強も手につかなくなった。
プロになるつもりはないかとまで打診を受けたのに、習っていたピアノを続けられるような心境では到底無かった。
それに、実際問題として、続けられるような環境ではなくなった。
まだ若かった兄は海外旅行保険など知らなかったのだろう。それに入ることをせず国外に出ていたため、入院や治療にかかる費用は莫大なものとなって我が家に襲いかかった。
とても月7000円のレッスンにお金を出せるようなゆとりはなかった。
周囲の人間全てが妬ましく見えた。お金持ちな家の子も、きょうだい喧嘩をしたと文句を言う友人も、きょうだいが無事ないとこも、誰も彼もがずるく見えた。なんでこんなに不平等なんだと、うんざりした。
そうなると、皆とどんな風にこれまで会話していたのかが分からなくなってしまって、次第に疎遠になってしまった。
そして同時に申し訳なく思った。なぜ死んだのが自分ではなかったのだろうと、何度も何度も何度も何度も嫌になるほど責めた。
兄は誰からも好かれていたし、幼い頃から自分の信念を貫き、夢に向かって努力を続ける人だった。
それに引き換え私は、大してできることもなく、人からもさほど好かれない。兄のような信念も夢もない。誰だって思うだろう。兄の方が生きるべきだったと。
今でも、何度も何度も何度も何度も、嫌になるほど繰り返し思ってしまうのだ。
ごめんね、死ぬのが私ならよかったね、と。
そう謝りながらも、やっぱり死ぬのがどうしても怖いのだ。あまりに矛盾している。
このことについて考え出すと心はずぶずぶと沼に沈み、そのまま何もできないくらいに落ち込んでしまう。もう21年近くこんな日々を繰り返している。
兄へのせめてもの手向けとしてこうして部屋を清めはするものの、それで何かが変わるかといえば決してそうではないのだ。いくら綺麗にしてももう兄がこの部屋で過ごすことは決して無い。この部屋はずっと、主の訪れを待ちわびているというのに。
掃除機をかけながら、何度も心中で謝る。
それに返る言葉はなく、ただ静かな部屋が私を冷ややかに見つめているだけである。
#ごめんね
「ごめんね」
自分が100%悪い喧嘩をしてしまったから
私は素直に思った4文字を声に出す。
申し訳なさそうに君を見て告げたら
君は頬を緩めた。
『しょうがないなぁ。』
ごめんねはネガティブなイメージがあるけれど
私は君と仲直りできる魔法の言葉だと思う。
「ごめんって!この前のことは私が悪かったからさ、そろそろ機嫌なおしてよ~。」
満開の桜の木の下でユイは媚びるように何度も頭を下げて謝った。
だがユイの隣に座っている少女、レイカはユイの謝罪に目もくれず、ガン無視をきめている。先程からこのやり取りをしているが、一向になにも変わっていない。そんな状態にユイは肩をすくめた。
レイカがこんな態度を取っているのには理由がある。それは先週していたレイカとの約束をユイがすっぽかしてしまったからだ。ユイにとっては遊ぶ約束をしていたつもりだが、レイカにとってはあの約束は重大だったらしく、それ以降、レイカは口をひらかなくなった。
「あの日はやむえない事情があったていうか…ねえ、そろそろそのしかめっ面やめない?今日はせっかくのお花見なのにー!」
そう、本当なら今日はユイとレイカは一緒にお花見を楽しむ予定であった。だが、そのレイカは最悪な様子であり、とてもじゃないが、花見なんてできる雰囲気ではない。
ユイはそんな状態から脱したかったが、レイカは相変わらずそんなユリを無視していた。
「…ねえ、お花見しようよ~。そのお弁当今日のために作ってくれたんでしょ?」
ユイはムスーっと顔を膨らませて言う。
ユイの言う通り、レイカは巾着で包んだ二つのお弁当箱を大事そうに抱えて座っていた。
先程まで遠くを見つめていたレイカが突然、持っていたお弁当をユイの前に置き、そして自分の前にも置いた。
そして乱暴に巾着をほどいて、弁当を開ける。
唐揚げやミニトマトや卵焼き、おにぎりといった、色とりどりでとても美味しそうな料理の数々が弁当箱に詰められていた。
「すごい…!これ、全部レイカが作ったの?」
あまりにも綺麗に整えられた弁当にユイはよだれが垂れる。
レイカはおにぎりを一つ取り出すと、しばらくそれを見つめてから、大きく頬張った。
風が止み、静寂が広がる。レイカの状態を伺おうとしたその時、彼女の表情を見たユイは驚き固まった。
レイカは冷えたおにぎりを咀嚼しながら大粒の涙を流していたのだ。
「えっ?レイカ?!大丈夫?どっか痛いの?!」
ぼろぼろと泣くレイカにユイは驚きを隠せずにいる。どうして泣いているのかユイにはわからなかった。
「嘘つき…!先週といい、今日といい…なんで…約束した本人が来ないんだよ…!…………なんで勝手に、死んじゃうんだよ!!」
震えた声でそう呟くと、レイカは泣き叫ぶ。
レイカが泣き声をあげているなか、ユイは黙ってレイカを見ていた。
“回想”
「ねえ!来週の休みにさ、一緒にお花見しようよ。私んちの近くに絶景の穴場スポットがあるからさ!」
「お花見?楽しそう!…じゃあ私、お弁当作ってくるね!」
「えっ、マジ?やった~!レイカの手作り弁当が食べれる!じゃあさ、じゃあさ…明日買い物ついでにお花見用のお菓子も買いに行こうよ!」
「うん!ユイ、買いすぎはダメだからね」
「わかってるよ~!」
そう約束した次の日、レイカはユイに会えなかった。変わりに会ったのは変わり果てたユイの姿とユイの遺影であった。
ユイは交通事故にあって帰らぬ人となっていた。
「…お弁当、楽しみにしてるって言っていたのに。はりきっていた私がバカみたいじゃない。……これ、食べきれなかったらユイのせいにするからね。」
泣きながらお弁当を食べていたレイカが一人言を呟く。
「それは手厳しいな。私だってレイカの作ったお弁当食べたかったんだよ。」
それまでずっと静かだったユリも同じように一人言を呟いた。
桜の木が風で揺れて、二人の一人言に答える様に木々が擦れる音を立てている。
「……ねえ、ユイ。」
「なぁに?」
「……ユイと一緒にいたいって言ったら、優しいユイは私のこと連れてってくれる?」
そうレイカが問いかけた途端、花嵐が二人を襲う。そして大量に散った桜の花びらが雨のように降り注いだ。
「………ごめんね。それは、それだけは…叶えられそうにないかな。」
ユイはレイカの頭についた桜の花びらを落とすようにあたまをそっと撫でる。彼女は笑っていたが、今にも泣き出しそうな、儚い笑みであった。
題名 花見の約束
作品No.59【2024/05/29 テーマ:「ごめんね」】
あなたは、喧嘩になるとすぐ謝る。それが、あなたの所為ではなくても。
「ごめんね」
そう言われる度、あなたに対する申し訳ない気持ちと、まるで私が悪者になったような気持ちとで、私の気持ちは昂ってしまう。そして、そうなった私は決まって、強い口調であなたを詰った。
「うん、そうだね。ごめんね」
ごめんね、ごめんね、ごめんね——そう言われ続けたら、口を噤むしかなくなる。喧嘩らしい喧嘩もできなくなる。
あなたは多分、優しいのだと思う。争うことが苦手なのだろうと思う。
でも、違う。そうじゃないと、思う。
あなたのその〝ごめんね〟は、なんだかひどく残酷な言葉に、私には思えた。
雨の日の
傘立てに
世界があると思う。
誰だか分からない
似た者同士の中に
特別なそれを見つける。
あなたの隣に
私をそっと置いて。
ごめんと呟き私を置いて
私は濡れずに帰るんだ。
「ごめんごめん、忘れてた!」
は?
こちとら友達と通話するって親に嘘ついて1時間も待ってたんだけど。
お風呂も急いで入ったんだけど。
身体なんてとうに湯冷めしてるんだけど。
足先も冷えきってるんだけど。
こんなに軽いごめんなんて聞いた事ない。
自分が期待しすぎた?バイト入ってないか昼に聞くべきだった?電話の約束なんてするもんじゃなかった?
時間指定なんてしなきゃ良かったかな、嫌われたかな、なんて考えてたこの気持ちを返してよ。
でも、でも、
15分だけでも話せて嬉しかった。
7.「ごめんね」