シオン

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 きっかけは些細なことだった。
 僕がうっかり花を踏んでしまって、彼女が仕返しにグランドピアノをしっちゃかめっちゃかに弾いた。
 明らかに僕が悪いこともわかってる。
 彼女は確かに僕が大事にしてるピアノに触れたのだ。それは確かに許せないことでもある。でも、僕がしたことは取り返しのつかないことで。花は折れたら戻らない。
 そんなわけで僕が謝らないといけないのだが肝心の彼女が見つからない。
 いつもいる場所を色々と探索してみても全く見つからない。
 どうしようか、どうすればいいのだろうか。
 見つからないなら話にならない。
 気分転換に花畑に来たら、闇に包まれた向こう側から彼女がやってきた。
「⋯⋯⋯⋯あ」
「⋯⋯なんだ、演奏者くんじゃん」
 微妙に嘲笑うような声で彼女は言った。
「あのさ、ごめん」
「ん? 何が?」
「花だよ、その潰しちゃったから」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あぁ」
 なんだ、そのことか。なんて続きそうな感じで彼女は言ってのける。
「⋯⋯ボクもごめんね」
「何が」
「⋯⋯⋯⋯もう、会えないかもだから」
 彼女はそう言って闇の中に戻って行った。
 意味がわからないなんて思って追いかけて闇に触れたとこで壁にぶつかったような感触がした。
 確かにこの先に入って行ったのに、僕はそこから拒絶されて。
 ⋯⋯⋯⋯何が起こってるか僕は全く分からなかった。

5/29/2024, 3:12:51 PM