『優越感、劣等感』
小学生の頃は、興味で話しかけていた。というより、わたしより話せない子がいることに、興味がわいていた。
何十年越しだろうね。流すように見ていたネットで気になる記事に目が止まった。
緊張で上手く話せないし、笑うことも難しい? もしかしたらって、記憶の中の女の子と、症状が重なっていった。
だけど、記憶の中の女の子は顔を真っ赤にしながらも、笑っていた。大人しい、控えめであったけど、リアクションは悪くなかった。イジられキャラとして成り立っていたのが救いだろうと、今なら思う。
大人しい、控えめ。そういうのは、わたしにもあったから、本当は話せるんじゃないの? そう思ってたから、興味がなくなったら話しかけるのを、やめた。
他者から見て、はっきりとした嫌がらせにはいかないものの、周囲の目が気になって話すのをやめたこと。
中途半端なこと、したな。
『目が覚めると』
無理に起きることなく、自然に目が覚めた。たぶん、アラームも鳴ってない。
スマホ、画面に表示されたロックを解除して、まだまだ早い時間帯に少し驚いた。
暑くなってきて寝苦しいのもあるかもしれないけど、仕事の疲れだ、そうすぐに思った。
一時期、ひきこもった。
感情のコントロールが難しくなった。
自分はどうしてこんなにも出来ないのかと責め続けた。
自分が壊れたことによる、日々が来る中で感じる、ちょっとした変化。
でもそれは、長期で見ると、充分すぎる変化だ。
疲れ、ストレスによる、浅い眠り。憶えてはないけど夢を見た。
仕事が一段落すると、夢は見なくなるから不思議だ。
壊れないほうがいいに決まってる。だけど、限界というか、脆いんだと。無理をしないようにそう考える瞬間が増えていく。
これ以上は壊れる、自分のなかで警告があったりもする。
どんなに自分を大切にと思っていても、少しの無理は要るんだよね〜。
再度目が覚めて、時間はアラームが鳴った頃。これ以上は遅刻する、気合いを入れて起きた次は、今日の最高気温と服装の熟考。
『日常』
これまでも食料品、日用品を買うのに来てるスーパーですが、あなたと来るのは初めてになりますね。
どちらがカゴを持つかで、一瞬、間ができた。
今晩は何にしますか? 頭に浮かんだそれは、台詞みたいだった。
ぎこちないまま、買い物は終わった。
そのまま、三件ほど過ぎたところにあるケーキ屋へ立ち寄る。扉を開けて、続けて入って来ないあなたに、ハッとしました。
「すみません……買い物の帰り道にあるんで、妻と食後のデザートねって買って帰ってたんです」
「謝らないでください。奥様の好きなケーキはどれですか?」
バケツをひっくり返した雨、もう少し迎えに行くのが早かったら、事故を避けられたかもしれないのに。
雨が降ると、あの時の場所へ行き、手を合わせた。
ずぶ濡れの、おかしな私に、傘をさしてくれたのは今隣にいるあなたでした。
「奥様から託されたんですかね? 夫を支えてほしいって」
「慣れるまで、相当かかそうです。すみません……」
「あたしと二人の生活って考えなくて大丈夫ですから〜」
妻は物静かな人でした。なんにでも笑っていましたが、あなた自身が嬉しいことを私はしたかった。
ケーキを買うなんて子どもみたいな扱いだろうか、そう思いながらも買って帰った。
どこのケーキ屋さんか、そこから静かではありましたが、会話は続き、いつからか日常になった。
あなたも、妻と同じでなんにでも笑う。
ひとつ違うなら、よく喋る人だ。
あなた自身が嬉しいことはなんでしょうか。
いつか日常になればと考えてますので、今後もよろしくお願い致します。
『好きな色』
通信環境が整い、友達のアバターがゲーム画面に現れる。
「おぉ〜、今回は水色だ。なぁなぁ、好きな色ってある?」
あまり自分を語らない友達に、思いきって質問したことが好きな色についてって小学生かよ。
「……考えたことない」
聞かれたことに対しての驚きか、目が合った。少し考えたっぽい? それから、ぽつっと言った。
「俺はさ、赤! このシューズとか、赤のラインがかっけぇって思って買った」
「……へぇ」
「逆にさ、嫌いな色は?」
「目立つ色?」
答えんの早っ! 思いつきで言っていた会話は、ゲーム用語を交えた会話へと移る。制限時間があるから余計なこと、無駄なことはできない。
「ごめん! 体力尽きた」
「いいよ。装備ミスったから変更してくる」
装備の選択ミスなんて珍しい。改めて合流すると、目立つ色の装備になっていた。
俺の好きな赤色だけど、「目立つ色、嫌いって言ってたよな?」
「……剣のデザイン、かっこいいから。それと一式揃えないと効果が発動しなくて。色に濃さとか、淡さがあればよかったのに、それが無いからただ々目立つんだよね」
急によく喋る。自分を語ってくれたかも?
『相合傘』
しとしと、降り続く雨。それと、傘。その二つの事柄はいつも、あいつとの思い出に繋がる。
幼稚園のとき、あいつはいつも傘を忘れる。親は持たせようと必死だったのを覚えてる。どんなに濡れても風邪をひかないんだから、すごいよねってなぜか盛り上がった。
小学生のとき、小雨のときは傘を持ってこないあいつ。よく走って帰ってるのを見た。
中学と高校は自転車だったから、傘を必要としなくなった。
ちいさい頃は、小さい傘に二人で入って帰ってたね。
小学生になると、黒板に相合傘を描くのが流行ってて、注目されるのを避けるためにお互い何も言わなかったね。
中学では話すのにきっかけを探してたんだよねー。あいつはどう考えてたのか知らないけどさ。
降り続く雨、空を見て立ち尽くす人がいた。傘を忘れたのかもしれないね。
「あれ、ここで何してんの」
「おー、久しぶり。傘、車にあってさ。急に降ってきたじゃん?」
「梅雨なのに。折りたたみ傘くらい持っときなよ。走って車まで行けば?」
「この年齢になって、それはアホすぎるだろ」
あたしの手から傘を取ったと思ったら、「近くまで入れて。どこのコインパーキングに停めた?」
「この建物の裏」
「まじか、同じだわ」
いつ振りだろう。相合傘っていうのを気にしてるのは、あたしだけか。