糸花

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11/28/2024, 2:01:17 PM

〝終わらせないで〟

男の口から出た言葉は、とてもシンプルだった。

どんなに思いを並べても、現状を変えられることはなく。

「ごめん、今までありがとう」

そう告げた男は彼女に背を向けた。

終わらせないで、と彼女の手が動く。でもそれは、もう少しのところで降ろされた。頬に一筋、涙が流れた。

10/12/2024, 12:53:44 PM

〝放課後〟

1日がほとんど終わろうとしてる、放課後の教室。部活をしてないから、日直のときでしか、こんな時間まで残ることがない。

少女漫画のワンシーンを、すこし思い出す。なんて、現実じゃあり得ないのにね。

「よかった……教室開いてた!!」

教室の引き戸が開く、肩を上下に息をする男子。なんて声をかければいい? そもそも返事はした方がいい?
男子は机からプリントを取ると、あたしの存在など気にせず戻っていく。
変に声をかけなくて正解だったね。早く日誌を書いて帰……足音する? 次は誰? えー、帰ったんじゃなかったの!? さきほどの男子が顔を覗かせた。

「まだ忘れ物だったら、もう少し日誌書いてるし、探してていいよ」
「探すんだったらそれはもう忘れ物じゃなくね?」
「ん? あれ、そうなのかな……?」

なぜか会話は続き、気づいたら、放課後をクラスの男子と一緒に居た。
なんで向こうは戻ってきたんだろう。日頃話もしない男子との会話、初めて…そんな印象を持ってしまうほどに笑うところにドキッとした。
少女漫画のワンシーン、そんな気がした。現実ではあり得ない……そう想像しちゃえばいいんじゃない? 誰にも絶対に内緒だけどね。

10/11/2024, 12:42:01 PM

〝カーテン〟

カーテンがふわっふわ、と波打った気がした。最近涼しくなってきて窓を開けていないのに。

気のせいかと手元に集中しようとしたら、足にくすぐったい感触と、鳴き声。

キミが原因だったか。全く、「もう少ししたら一段落だから」と口には出すが、両手が伸びた。

キミを抱いてほんの少し顔を埋めた。

低い声で、にゃあぁ〜、と返された。

10/8/2024, 12:42:48 PM

〝束の間の休息〟

赤ちゃんが泣いてる。
おかあさんは、ぼくに妹だよ、と言う。
ぼくに妹ができた。

いつでも家のなかを、ばたばた、おかあさんの笑った顔を見ないな。

イスに座って、ふぅ、と…おかあさんは元気ない。

冷蔵庫を開けて、いつでもぼくの好きなジュースを、おかあさんは買ってきてくれる。それを座ってる前に置いた。

「のど、かわいてない?」
「良いの? 大好きなジュースなのに」
「いいよ」
「お兄ちゃんだね〜! ありがとう」

おかあさんが、わらった。

10/5/2024, 12:45:11 PM

〝星座〟

友達と手持ち花火をした帰り、街灯もあって懐中電灯も持っているけど、夜の道はやっぱり心細くなった。

早く帰ろうと早歩きをすることにした。

コンビニが視界に入り、明るさにホッとした。

ちょうど人が出てくるところだった。知ってる顔。

「え、こんな時間に何してんの」
「そっちこそ……あたしは友達と遊んでた帰り」
「真面目そうにみえて実は不良」

すっかりゴミだらけになってるビニール袋を見せてやった。

「悪かったって。で? 楽しめた?」
「うん、楽しく過ごした」

笑いかけてくれる彼。こんな人だったっけ。学校じゃ結構ふざけてる姿しか見ない。

「ところでそっちは何してるの。あたしだけ知られるのは不公平よ」
「塾の帰りだ。ほれ」

彼は鞄の中身を見せてくる。本当だった。

「日頃怒られてるのに真面目だな」
「仕返しかよ」

車が数台行き交った。

「家どの辺?」
「どうして?」
「こんな時間だし、一人より二人のほうが良くないか?」

送るよ、その言葉が予想として出てきていた。けれど現実は、こなかった。

並んで歩きながら、彼は暗くなった空を見る。

「足元見ないと躓くよ?」
「星、見れねぇなぁ」
「話聞いてる?」
「聞いてる」
「星座、わかるの?」
「わかったところで、何もカッコよくないけどな」

彼はそう言い、前を向いて歩く。

「あたしにはよくわからないから、カッコいいと思うけど。日頃の会話に軽く入れてくれたら、違った景色になるよね」
「日頃の会話に星座って出てくる割合少なくね?」
「あ〜……ニュースでよく見れますよって情報がないと確かに見ないかもね……」

お互い表情が引きつったまま笑った。

気づけばあたしの家の近く。

「ありがとうね。夜の道、本音は怖かったから、助かったよ」

彼からは、「ん〜」と手を振ってくれた。そして、ちらほら灯りがあるだけの商店街へと走っていった。もしかして家、そっち方面? 意外にも近所に住んでた。

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