糸花

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9/8/2024, 12:53:15 PM

〝胸の鼓動〟

何か大きなことがあると、大人は言う。「緊張してない?」って。

それがわかってきたのは、授業で発表するとき。

それから、小学校高学年になってきたあたりから。

バレンタインにはチョコを渡す。その意味を知って、憧れた。


小学校からの大半が同じ中学へ行き、一気に大人になった気がして、緊張した。
当日までに盛り上がりをみせるバレンタイン。誰かに渡さないの? って聞かれたから。比較的話しやすかった隣の席の男子に「義理だから」と言って渡した。

お返しの日とされてる3月14日。
下駄箱で靴を履き替えてたら、ぶつかる。「ごめんなさい」と振り返ったら、「チョコありがとう」と返ってきた。

「チョコ買うの、緊張しなかった?」
「だって義理だし」

それを聞いて、そうなんだけどって思ったけど、ショックを受けてるわたしがいる。


高校受験。食欲がなくなるほどに緊張した。中学ほどには……驚くほどの変化はなかった。けど、付き合ってるんだって、これを新しくなって間もない環境で聞くのはびっくりした。
中学で付き合って、同じ高校を受験? 良すぎて言葉が出ない。

静かに進められていたバレンタイン。彼氏、彼女の関係がすでに多く、ちょっと恥ずかしくなった。


「よかった、帰ったかと思った」

何だかんだよく話してて、同じ高校だったんだと気づいたから、クラスの子に渡してとお願いしたんだった。忘れてた。

「クラスのヤツから渡されるってことは義理なんだろうと思うけど……いろいろ考えた。高校でもくれて、ありがとう」
「うん……」

義理だって言いきった中学の頃も覚えてるの? 高校になって、わたしはどう思ってた? 高校でもって、ヤバい……意識しちゃうじゃん。

8/18/2024, 1:38:07 PM

〝鏡〟

最近、友達がよそよそしい気がする。あたし何か気にさわること言っちゃったのかな。でも言って何でもなかったら、ウザいって思われたりしない?

「はぁ……あっ?!」

トイレに行きたくなって入ってみたら、同じクラスの男子が1人。

「何してんの。女子トイレだよ?」
「まだ入ってはないでしょ。手洗い場とも言えるスペースだ。こういった部分は男子トイレにもある」

足元はすのこで、左右に鏡……合わせ鏡みたくなってて、それに関する怖い話があるらしい。
それらを通過したら、扉があって、個室のトイレに繋がっている。だからまぁ、悪さするにも人の視線があるわけで、心理的なハードルがあるからか、小学六年間ずっと困ることはなかった。

扉が、男子と女子とで色分けされているから、手を洗うだけにしても自然と男女分かれて使用するのが日常茶飯事だったりする。

「泣いてたの?」
「どうして?」
「目、赤いから」
「別に。あたしがトイレから出てくるまでには、どっか行っといてよね」

けど、向こうはまだ居た。

「何で居るの」
「女子トイレのは、合わせ鏡なんだなぁと思って」
「男子トイレも同じだって、言ってなかった?」
「こっちのは鏡はあっても合わせにはならないんだよ。身だしなみを整えたりもするから、そういった意味で差別化してるのかな」

ていうか、調べてる風なのは何で?

「誰もいなくても、鏡を見たら人は良い表情をしようとする。何でだろうね」
「そうかな。家だったら見るけど、あたしは外では見ないかな」
「へぇ〜。じゃあその距離感を、人にもしてるってわけだ」
「何を言いたいの?」
「友達と喧嘩ではないよね。聞く限りでは、自然消滅?」

何も言ってないはずなのに、当たってるのはどうして。

「あー……図星だった? ごめん」
「クラス離れて、同じアプリも入れて遊んでたけど、段々と飽きてきて話題がなくなったんだよね。気にさわることを言った覚えはないから、喧嘩じゃないとは思うんだけど……接点が急に無くなったから、なんかつまらないなぁって」

そう言い出したら、涙が溢れてきて、流れそうになる。

「別にいいんじゃない? 誰かに良い顔をしたくなるものだし、気を遣いすぎるなんて面倒だし、疎遠だと気づいて急に寂しくもなる」
「なんか、大人だね。あたしが知らないだけか」

泣き笑いにみせて、涙を拭う。

「似てる部分があったから、言ってみた。ほんとうに図星なんだな、なんかごめん」


同じクラスだったのに、本ばっか読んでて変な人の扱いをされていた男子と過ごした放課後。
中学、高校と同じ学校になって、一応スマホで連絡も取れる。周囲がみたら仲が良いんだと思う。友達かと聞かれたら悩む。でもね、気を遣いすぎる相手じゃないんだ。

8/11/2024, 1:17:23 PM

〝麦わら帽子〟

予告無しに送られてきた、段ボール。後日、母からメールが届く。

ちゃんとバランスよく食ってるよ。でもまぁ、値段高くて、同じ金額払うなら惣菜のでもいいやって感じではあったから。いろいろ気にして送られてくることに甘えと感じながらも、めちゃくちゃ助かる。

食材だけかと思ったら、写真が入っていた。撮影したらその場で現像されるカメラのやつだな。

白いワンピースを着た女の子。頭には麦わら帽子。周囲が田んぼ。どこで誰が撮ったんだよ。

スマホが鳴る。お盆だから会わないか? そういった内容が友人からきた。

駅で待ち合わせをして、そこからなぜか、自然豊かな方面へと行くことになった。

「何を思ってこんな炎天下を歩くはめに……」
「お前さ、中学のときに、かわいい女の子の写真、学校に持ってきたことあっただろ?」
「かわいい女の子?」
「ワンピース着てて、麦わら帽子の」

母が送ってきた段ボール。そこに入っていた写真を思い出す。

「夏休みの宿題だったやつか……よく覚えてるな」
「その女の子に会わせてくれる約束は、忘れた?」
「はぁ? そんな約束したか?」

友人はゲラゲラと笑う。

「ごめんごめん、マジにならないで。その時流行ってたネットの掲示板があるんだ。麦わら帽子を被った女の子が現れるって」
「都市伝説みたいな?」
「つーか、お前が持ってきた写真を見て、夏休み中に行ったんじゃないかって、俺は考えたわけよ」

ネットで噂されていた事柄に当てはまりすぎて、友人は僕が検証したんだとそう考えたわけか。

「お前はその女の子に、変な感じはしなかった?」
「普通に遊んでた記憶しかないかな。あとは宿題を手伝ってくれた事とか」

ひとつ違和感をあげるなら、「夏だけ、限定……みたいなことを言ってたかな」

「それはどういう……?」
「僕の解釈は、この場所に居られるのは夏までで、引っ越しするんだと思ってたから」
「あー、そういうこと」

いろいろ話しているうちに、目的地へとついた。お店兼自宅といった感じだろうか。一番に目についたのはシャッターがついてる建物、それからガラスの引き戸がついてる瓦の建物。

「勝手に入ったら不法侵入だよなー」
「自然崩壊しかかってるから、住んでないのは確実だけど、不法侵入だな」

友人と同じことを言い、開いてる部分から少し中を覗き込んだ。

「あれ、畳のところにあるやつ、麦わら帽子?」

友人が指差すところ、比較的きれいめに思えるのは……どうして。
すると隣からカシャッと音がした。友人は麦わら帽子を撮ったようだ。

「後日、なんか変化あったらヤバいな」

今日って心霊撮るために来てたの?

お盆休みが残り二日、友人から写真付きでメールがきていた。

麦わら帽子の近くに、白いモヤ……あの時一緒に過ごした女の子は……。

7/28/2024, 12:45:39 PM

〝お祭り〟

久しぶりに帰ってきた。車がないから居ないのかと思いながらも、玄関の引き戸へ手を掛けて開くことに、「田舎ヤバいな」と男は顔が引きつった。

小さい集落。どこへ行っても知ってる顔と、知られてしまってる歳。密な人間関係が嫌になり、就職をきっかけに都会へ行った。家に鍵をかけないなんてあり得ない。

車の音がして玄関へ行ってみると、祖母だった。と後ろから福祉の職員だと思われる男性。

「こんにちは」

少し怪しまれながら挨拶される。

「祖母がいつもお世話になってます」
「あー、お孫さん! 家族の方がいらっしゃるなら安心です。それじゃ、僕は帰りますね」

それを聞いた祖母は、不安な声を出す。が、慣れているのか福祉の職員は穏やかな口調で仕事をしていた。

不安な声を出したことに、孫なのになぁと虚しくなる。それから、これまで見てきた祖母との思い出とは離れているんだと現実を突きつけられる。

「おかえり。ずいぶんと久しぶりね」
「ばあちゃんも、おかえり」

それぞれ部屋にいたが、帰って来ない母に少し焦ってくる。腹が鳴る。

手軽に食べられるものを探すが、お菓子すら見当たらない。コンビニへ行くにしても、祖母を留守番させて? 近所に少し言っておいたら、気にかけてもらえるだろうか。

外に出てみて、太鼓の音に足を止める。

「今日って、なんかあるの?」
「お祭りだね」

隣に祖母が来ていた。お祭りであれば、何か売られている。ここから遠い距離でもない。

「久しぶりに行ってみる? お祭り」
「あんたが小さい時、ばあちゃんが連れて行ったもんだね。今は、あんたが連れて行ってくれる」

そう言って、祖母はわらった。元々ゆったり話していたように思う。けれどもっと、ゆったり話すようになっていた祖母。気が向いたから帰ってきた。でも帰ってきてよかったと、男は思った。

7/27/2024, 12:57:10 PM

〝神様が舞い降りてきて、こう言った〟

少年は今日から夏休みだ。午前中は宿題を少しでも進め、午後からは思う存分漫画を描く予定にしている。

お年玉を貯めて、貯めて買ったタブレット。シャープペンシルから、タッチペンに握り変える。

人気作に寄りすぎている作品だが、ネットに投稿するのは高校生になってから、そう両親との約束だから似過ぎていても構わないのだ。

少年は今、描けることが楽しい。

「神様が舞い降りてきて、こう言う!」
「わたくし達の世界を救ってほしいのです!」
「へ?」

突然の声に、少年は顔だけ振り返った。肩と胸元が少し覗く、目のやり場に困る格好をした女性が居た。

「ですから、わたくし達の世界を」
「お姉さん、誰」

変わらず顔だけ向けたまま、少年は聞く。

「これは失礼いたしました」

次に続く女性の台詞は、カタカナが多く読みづらいので割愛される。

「よくわかんないけど、神様ってことでいい?」
「はい! 自己紹介が済みましたので、本題です。わたくし達の世界を」
「それは嫌」

椅子をくるっと回転、少年はまっすぐに神様を見る。

「なぜですか? あなた様は英雄になれるのですよ? ここにわたくしが居るのも、選ばれたからで」
「だって大変そうだし」
「それは……苦労もあるかと思います。しかしですね、魔法や剣を扱えるんですよ! 一度はやってみたいと思いませんか?」

少年はしばし考え、「それは楽しそうではあるよ?」と結論づけた。

「それでは……!」
「けど僕、こことは違う世界へ行きたいほど、疲れてないし」
「疲れてないし……?」
「よくお父さんが読んでるのを見るよ。でも僕は、魔法や剣がいいなぁって思ってるだけで世界を救うとかは無理かな」
「そう、ですか……」

少年は神様を、玄関まで見送った。

「あなた様が成長したら、また来ても……?」
「来ることは別にいいよ。だけどさ、その頃には、神様が救ってほしい世界が終わってそうな気がするけど」
「世界は広いのです。いつでも、あなた様が必要なんですから」

そうして、神様は玄関から元の世界へ帰っていった。

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