〝放課後〟
1日がほとんど終わろうとしてる、放課後の教室。部活をしてないから、日直のときでしか、こんな時間まで残ることがない。
少女漫画のワンシーンを、すこし思い出す。なんて、現実じゃあり得ないのにね。
「よかった……教室開いてた!!」
教室の引き戸が開く、肩を上下に息をする男子。なんて声をかければいい? そもそも返事はした方がいい?
男子は机からプリントを取ると、あたしの存在など気にせず戻っていく。
変に声をかけなくて正解だったね。早く日誌を書いて帰……足音する? 次は誰? えー、帰ったんじゃなかったの!? さきほどの男子が顔を覗かせた。
「まだ忘れ物だったら、もう少し日誌書いてるし、探してていいよ」
「探すんだったらそれはもう忘れ物じゃなくね?」
「ん? あれ、そうなのかな……?」
なぜか会話は続き、気づいたら、放課後をクラスの男子と一緒に居た。
なんで向こうは戻ってきたんだろう。日頃話もしない男子との会話、初めて…そんな印象を持ってしまうほどに笑うところにドキッとした。
少女漫画のワンシーン、そんな気がした。現実ではあり得ない……そう想像しちゃえばいいんじゃない? 誰にも絶対に内緒だけどね。
〝カーテン〟
カーテンがふわっふわ、と波打った気がした。最近涼しくなってきて窓を開けていないのに。
気のせいかと手元に集中しようとしたら、足にくすぐったい感触と、鳴き声。
キミが原因だったか。全く、「もう少ししたら一段落だから」と口には出すが、両手が伸びた。
キミを抱いてほんの少し顔を埋めた。
低い声で、にゃあぁ〜、と返された。
〝束の間の休息〟
赤ちゃんが泣いてる。
おかあさんは、ぼくに妹だよ、と言う。
ぼくに妹ができた。
いつでも家のなかを、ばたばた、おかあさんの笑った顔を見ないな。
イスに座って、ふぅ、と…おかあさんは元気ない。
冷蔵庫を開けて、いつでもぼくの好きなジュースを、おかあさんは買ってきてくれる。それを座ってる前に置いた。
「のど、かわいてない?」
「良いの? 大好きなジュースなのに」
「いいよ」
「お兄ちゃんだね〜! ありがとう」
おかあさんが、わらった。
〝星座〟
友達と手持ち花火をした帰り、街灯もあって懐中電灯も持っているけど、夜の道はやっぱり心細くなった。
早く帰ろうと早歩きをすることにした。
コンビニが視界に入り、明るさにホッとした。
ちょうど人が出てくるところだった。知ってる顔。
「え、こんな時間に何してんの」
「そっちこそ……あたしは友達と遊んでた帰り」
「真面目そうにみえて実は不良」
すっかりゴミだらけになってるビニール袋を見せてやった。
「悪かったって。で? 楽しめた?」
「うん、楽しく過ごした」
笑いかけてくれる彼。こんな人だったっけ。学校じゃ結構ふざけてる姿しか見ない。
「ところでそっちは何してるの。あたしだけ知られるのは不公平よ」
「塾の帰りだ。ほれ」
彼は鞄の中身を見せてくる。本当だった。
「日頃怒られてるのに真面目だな」
「仕返しかよ」
車が数台行き交った。
「家どの辺?」
「どうして?」
「こんな時間だし、一人より二人のほうが良くないか?」
送るよ、その言葉が予想として出てきていた。けれど現実は、こなかった。
並んで歩きながら、彼は暗くなった空を見る。
「足元見ないと躓くよ?」
「星、見れねぇなぁ」
「話聞いてる?」
「聞いてる」
「星座、わかるの?」
「わかったところで、何もカッコよくないけどな」
彼はそう言い、前を向いて歩く。
「あたしにはよくわからないから、カッコいいと思うけど。日頃の会話に軽く入れてくれたら、違った景色になるよね」
「日頃の会話に星座って出てくる割合少なくね?」
「あ〜……ニュースでよく見れますよって情報がないと確かに見ないかもね……」
お互い表情が引きつったまま笑った。
気づけばあたしの家の近く。
「ありがとうね。夜の道、本音は怖かったから、助かったよ」
彼からは、「ん〜」と手を振ってくれた。そして、ちらほら灯りがあるだけの商店街へと走っていった。もしかして家、そっち方面? 意外にも近所に住んでた。
〝胸の鼓動〟
何か大きなことがあると、大人は言う。「緊張してない?」って。
それがわかってきたのは、授業で発表するとき。
それから、小学校高学年になってきたあたりから。
バレンタインにはチョコを渡す。その意味を知って、憧れた。
小学校からの大半が同じ中学へ行き、一気に大人になった気がして、緊張した。
当日までに盛り上がりをみせるバレンタイン。誰かに渡さないの? って聞かれたから。比較的話しやすかった隣の席の男子に「義理だから」と言って渡した。
お返しの日とされてる3月14日。
下駄箱で靴を履き替えてたら、ぶつかる。「ごめんなさい」と振り返ったら、「チョコありがとう」と返ってきた。
「チョコ買うの、緊張しなかった?」
「だって義理だし」
それを聞いて、そうなんだけどって思ったけど、ショックを受けてるわたしがいる。
高校受験。食欲がなくなるほどに緊張した。中学ほどには……驚くほどの変化はなかった。けど、付き合ってるんだって、これを新しくなって間もない環境で聞くのはびっくりした。
中学で付き合って、同じ高校を受験? 良すぎて言葉が出ない。
静かに進められていたバレンタイン。彼氏、彼女の関係がすでに多く、ちょっと恥ずかしくなった。
「よかった、帰ったかと思った」
何だかんだよく話してて、同じ高校だったんだと気づいたから、クラスの子に渡してとお願いしたんだった。忘れてた。
「クラスのヤツから渡されるってことは義理なんだろうと思うけど……いろいろ考えた。高校でもくれて、ありがとう」
「うん……」
義理だって言いきった中学の頃も覚えてるの? 高校になって、わたしはどう思ってた? 高校でもって、ヤバい……意識しちゃうじゃん。