糸花

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『相合傘』

しとしと、降り続く雨。それと、傘。その二つの事柄はいつも、あいつとの思い出に繋がる。

幼稚園のとき、あいつはいつも傘を忘れる。親は持たせようと必死だったのを覚えてる。どんなに濡れても風邪をひかないんだから、すごいよねってなぜか盛り上がった。

小学生のとき、小雨のときは傘を持ってこないあいつ。よく走って帰ってるのを見た。

中学と高校は自転車だったから、傘を必要としなくなった。

ちいさい頃は、小さい傘に二人で入って帰ってたね。

小学生になると、黒板に相合傘を描くのが流行ってて、注目されるのを避けるためにお互い何も言わなかったね。

中学では話すのにきっかけを探してたんだよねー。あいつはどう考えてたのか知らないけどさ。

降り続く雨、空を見て立ち尽くす人がいた。傘を忘れたのかもしれないね。

「あれ、ここで何してんの」
「おー、久しぶり。傘、車にあってさ。急に降ってきたじゃん?」
「梅雨なのに。折りたたみ傘くらい持っときなよ。走って車まで行けば?」
「この年齢になって、それはアホすぎるだろ」

あたしの手から傘を取ったと思ったら、「近くまで入れて。どこのコインパーキングに停めた?」

「この建物の裏」
「まじか、同じだわ」

いつ振りだろう。相合傘っていうのを気にしてるのは、あたしだけか。

6/20/2024, 9:01:18 AM