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4/5/2025, 7:53:01 AM

桜のように、儚くなれたらと思う。

「なんで?」

「そうすれば、みんな、大切にしてくれるから」

貴方の目も見ずに、私は桜を見上げながら言った。

1年の短いうちしか咲かない桜は、咲いている姿も、散っていく姿も美しい、と思う。

でもそれは、この桜の人生は短いものだと、儚いものだと知っているから。

「貴方の言う皆が、貴方を大切にしなくても、私が貴方を大切にする」

私は貴方の顔を、見つめた。

貴方の顔は、声は、言葉は、こんなにも、頼もしくて、凛々しいのに。

桜のように、美しいのに。

「それじゃ、駄目かな?」

なんで私は、こんなに弱いんだろう。

桜のように、儚くなりたかったのに、桜は私の想像以上に強くて、頼もしくて。

「駄目なわけ、ない」

私の顔は、声は、言葉は、頼りなくて、臆病で。

そんな私の目から流れ出る涙を、私の口から溢れ落ちる言葉を、今まで何度も、貴方は優しく拾い上げてくれた。

「貴方みたいな、桜になりたい」

咲いている姿も、散っていく姿も美しい。

そんな桜に、なりたい。

4/2/2025, 1:28:47 PM

空に向かって、呟いてみる。

「空の向こうには、どんな世界が広がってるのかな」

まだ、自分のいる世界すらまともに知らなかったあの頃の私は、たくさんの妄想を描いていた。

空の上には、ユニコーンやドラゴンみたいな珍獣がいて、争い事は一切なく、みんなで楽しく鬼ごっこをしたり、昼寝をしたり、歌を歌ったり……

そんな世界を、想像していた。

今の私は、どうだろうか。

「こんな世界よりも、幸せな場所だったらいいな」

争い事がない、優しい世界。

具体的にどんな世界かなんて分からない。

もう、考えられない。

行ってみれば、分かるでしょう。

3/25/2025, 12:37:00 PM

記憶は時に、栄養となり、毒となる。

「寝る前に嫌なことがフラッシュバックするのは、なんなんだろうね」

「多分、その時傷ついた部分が、後になって痛みとしてやってきてるんじゃない?」

「時差が発生してるのね」

「ただの憶測だけれどね」

「もう、嫌な事なんか忘れて、嬉しかったことだけ覚えていたいな」

「多分、嫌な記憶も、量を間違えなければ栄養になるんだと思うの。致死量を摂取してしまったら、体中に毒が回ってしまうけれど」

「その一つ一つが、猛毒性が高かったら?」

「その人の耐性によるけれど、ほとんどの人は、毒にやられてしまうかもね」

記憶という毒は、表に現れず、ゆっくりと体を蝕んでいく。

3/14/2025, 11:22:26 PM

「いた」

大きな町の真ん中にあるのに、知ってる人はほぼ居ないこの公園に、貴方はただ1人、ベンチの上で蹲っていた。

私はゆっくり、貴方の横に座った。もう3月とはいえ、まだ肌寒くベンチはひんやりと冷たい。

「……ずっと探していたの?」

まだ目に涙を貯めている貴方は、掠れた声でそう言った。

「ううん、ここだって、すぐ分かった」

「嘘つき。めっちゃ息荒れてる」

不機嫌そうに貴方は言う。

「私、体力ないし」

「嘘つき。クラスの誰よりも体力ある癖に」

「貴方のことを考えたら、心配だった」

「……嘘つき」

少し、笑った。

これだけは、嘘じゃないことも、きっと貴方なら分かってくれている。

いつも隠してしまう、貴方の弱い所を、私は探し出してしまった。

でも、弱い貴方も、私には美しく見えた。

貴方を探して、良かった。

3/9/2025, 1:54:14 AM

「あ、お邪魔してるよ」

学校の裏山にある、大きな木の中で、貴方は色んなお菓子を頬張っていた。

小さい頃、貴方と面白半分で作った秘密基地。下にひいてある毛布もボロボロで、色んなところに貼っつけてある折り紙は、もうほとんどどこかへ消えてしまっていた。

それなのに、私たちはこうやって定期的にここにくる。

親に怒られた時、部活で思い通りにいかない時、勉強のストレスでどうにかなっちゃいそうな時。

「どうしたの?この時間に来るなんて、珍しいね」

「貴方もね」

「私は勉強が嫌で逃げ出してきただけ〜。もう、毎日毎日、結果も出ないのに頑張ってるのが馬鹿らしくなってさ」

「この前、模試だったもんね。結果は?」

「むしろ下がる一方でさ。先生も親も、もう期待してないみたい」

寂しそうにそういう貴方を横目に、私は床に広がってるお菓子に手をつけた。

「で、貴方は?」

私は、お菓子を取る手を止めた。

「うーん、色々」

「色々か。部活も勉強も忙しいもんね」

「それもあるんだけど、多分、違う」

「えぇー?じゃあなに?」

「今更になって、昔の傷が痛くなってきた」

「あら、まぁ手当の仕方なんて昔の頃は分からないもの。しょうがないよ」

「そうなのかな」

「そんな時は、しっかり栄養とるのが一番!ほらほら、まだまだお菓子は沢山あるよ!」

明るくそういう貴方には、到底悩みがあるとは思えなかった。けれど、きっと、貴方の背中には沢山の矢が刺さっているのかもしれない。

この秘密の場所は、少しだけ痛さを忘れられる、大切な場所なんです。

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