ここ

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3/14/2025, 11:22:26 PM

「いた」

大きな町の真ん中にあるのに、知ってる人はほぼ居ないこの公園に、貴方はただ1人、ベンチの上で蹲っていた。

私はゆっくり、貴方の横に座った。もう3月とはいえ、まだ肌寒くベンチはひんやりと冷たい。

「……ずっと探していたの?」

まだ目に涙を貯めている貴方は、掠れた声でそう言った。

「ううん、ここだって、すぐ分かった」

「嘘つき。めっちゃ息荒れてる」

不機嫌そうに貴方は言う。

「私、体力ないし」

「嘘つき。クラスの誰よりも体力ある癖に」

「貴方のことを考えたら、心配だった」

「……嘘つき」

少し、笑った。

これだけは、嘘じゃないことも、きっと貴方なら分かってくれている。

いつも隠してしまう、貴方の弱い所を、私は探し出してしまった。

でも、弱い貴方も、私には美しく見えた。

貴方を探して、良かった。

3/9/2025, 1:54:14 AM

「あ、お邪魔してるよ」

学校の裏山にある、大きな木の中で、貴方は色んなお菓子を頬張っていた。

小さい頃、貴方と面白半分で作った秘密基地。下にひいてある毛布もボロボロで、色んなところに貼っつけてある折り紙は、もうほとんどどこかへ消えてしまっていた。

それなのに、私たちはこうやって定期的にここにくる。

親に怒られた時、部活で思い通りにいかない時、勉強のストレスでどうにかなっちゃいそうな時。

「どうしたの?この時間に来るなんて、珍しいね」

「貴方もね」

「私は勉強が嫌で逃げ出してきただけ〜。もう、毎日毎日、結果も出ないのに頑張ってるのが馬鹿らしくなってさ」

「この前、模試だったもんね。結果は?」

「むしろ下がる一方でさ。先生も親も、もう期待してないみたい」

寂しそうにそういう貴方を横目に、私は床に広がってるお菓子に手をつけた。

「で、貴方は?」

私は、お菓子を取る手を止めた。

「うーん、色々」

「色々か。部活も勉強も忙しいもんね」

「それもあるんだけど、多分、違う」

「えぇー?じゃあなに?」

「今更になって、昔の傷が痛くなってきた」

「あら、まぁ手当の仕方なんて昔の頃は分からないもの。しょうがないよ」

「そうなのかな」

「そんな時は、しっかり栄養とるのが一番!ほらほら、まだまだお菓子は沢山あるよ!」

明るくそういう貴方には、到底悩みがあるとは思えなかった。けれど、きっと、貴方の背中には沢山の矢が刺さっているのかもしれない。

この秘密の場所は、少しだけ痛さを忘れられる、大切な場所なんです。

3/7/2025, 11:12:39 AM

何の変哲もない、貴方とただ過ごす放課後。

教室で一緒に勉強をしていると、どこからか変に美しすぎるような、そんな歌声が聞こえてきた。

「そういえば、合唱部ね、コンクール結構いい結果出したみたいだよ」

「へぇ」

だからか、どこか張り切りすぎているようにも聞こえる歌声は、それでも青春を過ごすためのBGMにするにはちょうどよかった。

「私も、あんな風に歌ってみたいな」

「いいじゃない。歌ったら?」

「いいの?じゃあ、遠慮なく」

ラララ……と貴方は優しく歌い出す。

なんて言う歌なのか聞きたかったけれど、歌っている貴方の顔を見たら、邪魔をしちゃいけないと思って、勉強を再開させた。

知らない歌なのに、さりげなくハモってみる。

貴方の美しい歌声と、私の自分勝手な歌声。

あぁそうか、貴方がクラリネットで、私はサックス。

辞めてしまっても鮮明に、あの時の音色が思い出される。

ラララ……どこか、クラリネットの音がした。

3/6/2025, 10:40:27 AM

風は、色んなものを運んでくれる。

枯葉も、木の枝も、運命的な出会いも、ちょっとした幸せも。

だから、私たちにとって、嵐のような強い風が吹き荒れる時期は、不安で、怖いものかもしれない。

でも、そんな時期を乗り越えた時、ふと周りを見渡すと、私たちには到底動かせなかった重いものが、気がつけば遠くへとばされているかもしれない。

身も心も軽くなった私たちはまた、どこへでも飛ぶことが出来る。

今度は、穏やかな風に乗って、私たちが運ばれる。

2/22/2025, 12:56:08 PM

雨上がり。2人で初めて学校をサボって、塾も休んで、ただ時間を忘れて遊ぼうと思ってた今日。

生憎の雨だったから、行きつけの図書館で本を読んで過ごしていたら、雨がいつの間にかやんでいた。

そして外に出ると、貴方はあっと声をあげた。

「ねぇ見て、虹」

「ほんとだ」

優等生を辞めた私たちに似合わない、七色の虹。

今まで見た虹の中で、いちばん綺麗に見えた。

「これは、神様からのプレゼントだ」

「こんな、出来損ないに?」

「神様は優しいから、こんな私たちにも幸せをくれるんだよ。だから、自分を封じこめて優等生を演じるよりも、自分の好きなことをやった方が、こういう神様からの些細なプレゼントに気づいたりするの」

だから、と貴方は私の方を見た。

夕暮れと被って、より眩しく感じる笑顔だった。

「これは、優等生を辞めた私たちへのプレゼントなんだよ!」

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