私は小説を書いている身なのですが(最近は休止中)、いつも一番最初の文章を書くのに困るのです。
まず、セリフから始めようか、地の文から始めようか。
どの場面から、物語を語ろうか。
考える時間は、とても楽しいのですが、いざ書き始めると、自分の表現力のなさや、物語の詰めの甘さに嫌気がさして、結局書かなくなっちゃうのです。
でも、物語の始まりの部分は、当時の私の心を写す、鏡のようになってることが多いです。
だから、途中で諦めてしまっても、絶対にその物語は消さないようにしています。
小説は、私にとって日記のようなものなので。
今回は、いつもの登場人物たちは出てきませんでしたが、また、心が落ち着いたら書こうと思います。
あの日、初めてステージにたった時の、目の前に拡がった風景。
酷く、恐ろしかったのを覚えている。
たくさんの人の目が、私を凝視していたから。
この人たちに、私は自分の想いを、伝えなくてはいけない。
出来るのかな、私に?
結局、何も出来なかったのを覚えているけれど、あの風景は、今の私にとってとてもいい思い出になっている。
音楽は、演奏者だけじゃなく、聞き手と一緒に作っていくものだ。
目の前のお客さんから逃げていたら、この音楽は、誰にも届けられず、拾われず、静かに消えていくだけ。
この、何百人もの人たちがいるステージ、風景を、私は見渡す。
貴方を見つけて、思わず笑顔になってしまったのは、ここだけのお話。
「俺が地元に帰ったら、結婚しよう」
巷で言う、遠距離恋愛。
それでも、貴方は電話越しから、私を愛してくれた。
昨晩だって、そんな安っぽい言葉を私に投げかけてくれた。
すごく、嬉しかった。
いつになるかも分からない、遠い約束でも、私はずっと、貴方を待つと心から誓った。
でも、誓ったのは、私だけだったみたい。
貴方は、私が知らない土地で、知らない人と、一生の幸せを誓ったみたい。
貴方は私から、完全に遠ざかってしまった。
電話だけで繋がっていた遠い約束は、いとも簡単にちぎれてしまった。
それでも、私は小指に繋がっている赤い糸を、未だにちぎれないでいるのです。
糸の先には、誰もいないと言うのに。
「そろそろ、同じところから離れない?」
貴方は、長い間居座っているこの環境に、少し飽き飽きしているみたい。
「でも、新しいところは、何が起こるかわからないじゃない」
「私たち、ずっと同じところで経験値を貯め続けて、レベルも沢山あがったと思うの。ほら、もっとレベルを効率よくあげるなら、場所を変えなきゃ」
「言いたいことは、分かるんだけれど……もし、レベルが足りなかったら?」
「私たちのレベルなら、新しい地図を手に入れられると思うの。ずっと同じところにいても、物語は進まないよ?」
いつだって、貴方は冒険好きだった。
確かに、新しい地図を手に入れるための力を、私たちは持っているのかもしれない。
この環境に飽き飽きしていたのは、貴方だけではない。
「じゃあまずは、情報収集だね」
私がそう言ったら、貴方はすぐに目を輝かせて、元気よく返事をした。
新しい地図を手に入れるために、未知の世界へ旅立つために、私たちは準備を始めた。
「好きだよ」
1度は言われてみたかった言葉。
だから、みんなが好きそうな私を、演じた。
何だって、演じて見せた。
でも、あの言葉を聞くことなんてなかった。
その時、気づいた。
「私、誰かに好きだよって、言ったことあったっけ」
無いことは無い。でも、私は自分自身に対しては、1度も言ったことがなかった。
本当の自分は見失ってしまったけれど、絶対、心の中のどこかにいる自分に、叫んでみる。
『好きだよ』