久しぶりに貴方と遊びに行った時、とあるチェーン店でお昼ご飯を食べようとしていた。
そこは洋食がメインのレストランで、パスタかハンバーグか……何を食べようか胸を踊らせながら選んでいた時だった。
「じゃあ、一旦これ頼もうかな」
と、貴方が指さしたのは、ほうれん草のソテーだった。
いつもの事だったけれど、あまりに貴方と食事をするのが久しぶりだったから、この恒例行事があることをすっかり忘れていた。
「いつもそれ、頼むよね」
「うん。だって美味しいし」
「いつまで食べ続けるつもり?」
「これからも、ずーっと!」
貴方があまりにも無邪気に言うもんだから、私は思わず笑ってしまった。
その後、私も食べたくなって貴方に内緒で2つ頼んだのは、直ぐにバレることになるのだけれど。
メモ : 作者はほうれん草が大好きです。
「こんな所に、夕日が見える場所なんてあったっけ?」
「あるよ、ほらこっち」
似たような会話を、かれこれ10分くらい繰り返しながら、貴方の後ろを半信半疑でついて行く。
社会人になってまだ1ヶ月も経ってないあの頃、慣れない仕事、人間関係ですこし心が沈んでいた。
唯一の救いは、高校からの友達だった貴方が、私と同じ職場の同僚として働くことになっていたことだった。
貴方は相変わらず、マイペースな性格で、でも仕事内容は私よりも先に覚えられてしまった。少し、悔しい。
そんな貴方とその日、2人だけで飲みに行くために仕事を早く終わらせたと言うのに、貴方が夕日をみたいだなんて言うから、渋々貴方についていっていた。
坂道がやけに続いていて、私は息を上げてもう一度貴方に聞いた。
「ねぇ、いつになったら着くの」
「もうすぐだって」
見たこともない足場が悪い小道を歩かされて、さらに5分立った時、
「ほら」
急に視界が開けたと思ったら、大きな太陽がもう少しで沈み切ってしまう景色がはっきりと見えた。
どうやらここは小さな山の上らしく、小さなベンチも丁寧に配置されている。
「ね、来たかいあったでしょ」
貴方はドヤ顔をしながら私を見る。
「まぁね」
「じゃ、ここでやりますか」
なんて言う貴方を不思議に思うと、貴方のカバンから幾つかお酒が出てきた。
「冷えてないけど、うるさい所、苦手だからさ。ね?」
やっぱり貴方は、昔から何も変わっちゃいない。
私だって、そんな貴方を許してしまうのだから、きっとなにも変わってない。
沈む夕日は、そんな私たちを静かに見守っていた。
SNSで流れてくる、キラキラした青春。
仲間と眩しい笑顔をカメラに向けて、手には花束と卒業証書を持って。
「3年間ありがとう」
って、在り来りな言葉を並べてる。
そうは言っても、羨ましくて、目頭が熱くなった。
3年前、新しい環境に怯えていた時、それでも青春を謳歌することを、楽しみにしていた。
新しい環境なら、自分は輝けるとどこかで思ってた。
でも違った。
私は、所詮は傷物。腫れ物。余り物。
選ぶ側じゃなくて、選ばれる側。
気づいてしまった。それから、人の目を見ながら話すのが出来なくなった。それを出来るようにするのが目標だったのに、残念。
どんどん、自信をなくしてく。
私なんか居なくてもいいんだと、気づいてく。
ただ、SNSにのせるほど輝いていなくても、俯いていても、見えるのは、指に繋がった糸。絆。
貴方たちは、きっと知らないだろうけれど。
唯一ちぎれなかった、絆。
私はそっと、自分の指にキスをした。
貴方の口癖は、「たまには」だった。
「たまには、あそこの道から帰らない?」
「先週もそこ通ったし、それにその時迷子になったの忘れたの?」
「今度こそ大丈夫だって。最終的にはたどり着けたんだから」
貴方はいつも通る道から外れて、あまり見慣れない小道を進んでいく。
私はため息をつきながら、ゆっくりと貴女の後ろをついていった。
「たまには、いつものように過ごすのも悪くないと思うけどね」
「じゃあ明日はそうしよう!たまには、それも悪くないね」
たまには、たまにはって、うんざりするけれど、貴方との刺激的な毎日は、私にとっては宝物だった。
プレゼントなんて滅多にくれない貴方から、手作りのお菓子を貰った。
「なぁに、急に」
「作りすぎただけだよ」
「そう?まぁ、有難く貰うけれど」
タッパーを開けてみると、そこには形が歪なマドレーヌが数個、綺麗に並べられていた。バターの甘い香りが、ふわっと優しく香ってきた。
「マドレーヌ!好きなの、教えたっけ?」
「だいぶ前に言ってたの覚えてたから」
「やっぱ、私のために作ってくれたんだ」
「違う」
貴方はぶっきらぼうにそう言って、スマホをいじり始めた。覗いてみると、検索履歴に、
「大好きな友達に送るプレゼント」
と、1番上に表示されていたのが見えた。
私もスマホを開いて、検索アプリを開いた。
『大好きな貴方に送るプレゼント』