慌ただしい夏が終わって、ようやく秋っぽくなったと思ったら、もう季節は冬になるらしい。
「冬になったら、何やりたい?」
「うーん、何もしたくないなぁ」
「冬眠?」
「あ、いいね。冬眠したい」
今年の夏、貴方は忙しそうにしていたから、燃え尽きてしまったのかもしれない。
涼しくなり始めてから、貴方はなんだか元気がなさそう。
「冬が一番好きなのに、夏で全力出しすぎた」
「部活も勉強も頑張ってたしね」
「頑張れてたのかなぁ。大した結果は出なかったし」
「じゃあ、今年の冬は来年に向けて冬眠だね」
「そうもいかないよ。来年に向けて頑張らないと」
「一睡もしなかったら、いつか倒れちゃうよ」
「だって、みんな、急かすんだもの。私だって、出来たら布団でぬくぬくしてたい」
貴方は冗談っぽく笑ってみせる。
いつも、冬になったら笑顔が耐えなくなる貴方なのに、今年は、なんだかいつか消えてしまいそうな、そんな弱々しい笑顔だった。
「あれ、子猫なんて飼ってたっけ?」
「拾ったの。親猫が、この子の近くで亡くなってたから」
相変わらず、貴方は優しい。
スマホに映し出された、小さな三毛猫の写真を、貴方は愛おしそうな目で見つめていた。
「それに、三毛猫って、よく幸運を呼ぶとか言うじゃない?私はこの子自身が、私自身の幸運なんじゃないかなって思うの」
相変わらず、貴方は難しいことを言う。
とても小さくて、ボロボロな幸運でも、貴方はすぐに気づいて優しく拾い上げる。傲慢な私とは大違い。
そんな貴方の笑顔は、子猫のようにどこか愛おしく思えた。
「こんなに大きい翼があるのに、なんで飛べないの?」
ちっちゃな翼でも、懸命に飛ぼうと頑張っている人も沢山いる。
大きい翼を利用して、遠くに羽ばたいている人もいる。
じゃあ私は?
「だって、高いところは、危ないじゃない」
「そんな甘えたこと言って。世の中にはね……」
あーまたその話。
私は自分の翼を、小さく小さくたたんだ。
たくさん殴られた体と心を、優しく撫でてくれる柔かい雨。
冷たいのに、なんだか温かく感じる。
人間より、自然から温もりを感じることが多かった私は、雨の日でも家を飛び出して、ふらふらとそこらじゅうを歩き回った。
寒くないし、痛くもない。
やわらかい雨が沢山撫でてくれるから。
空も、私と一緒に泣いていてくれるから。
鏡を見ると、ゾッとする時がある。
自分の笑顔が、ぎこちなさ過ぎて。
鏡の中の自分は、なんだか笑うのが下手のよう。