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3/7/2025, 11:12:39 AM

何の変哲もない、貴方とただ過ごす放課後。

教室で一緒に勉強をしていると、どこからか変に美しすぎるような、そんな歌声が聞こえてきた。

「そういえば、合唱部ね、コンクール結構いい結果出したみたいだよ」

「へぇ」

だからか、どこか張り切りすぎているようにも聞こえる歌声は、それでも青春を過ごすためのBGMにするにはちょうどよかった。

「私も、あんな風に歌ってみたいな」

「いいじゃない。歌ったら?」

「いいの?じゃあ、遠慮なく」

ラララ……と貴方は優しく歌い出す。

なんて言う歌なのか聞きたかったけれど、歌っている貴方の顔を見たら、邪魔をしちゃいけないと思って、勉強を再開させた。

知らない歌なのに、さりげなくハモってみる。

貴方の美しい歌声と、私の自分勝手な歌声。

あぁそうか、貴方がクラリネットで、私はサックス。

辞めてしまっても鮮明に、あの時の音色が思い出される。

ラララ……どこか、クラリネットの音がした。

3/6/2025, 10:40:27 AM

風は、色んなものを運んでくれる。

枯葉も、木の枝も、運命的な出会いも、ちょっとした幸せも。

だから、私たちにとって、嵐のような強い風が吹き荒れる時期は、不安で、怖いものかもしれない。

でも、そんな時期を乗り越えた時、ふと周りを見渡すと、私たちには到底動かせなかった重いものが、気がつけば遠くへとばされているかもしれない。

身も心も軽くなった私たちはまた、どこへでも飛ぶことが出来る。

今度は、穏やかな風に乗って、私たちが運ばれる。

2/22/2025, 12:56:08 PM

雨上がり。2人で初めて学校をサボって、塾も休んで、ただ時間を忘れて遊ぼうと思ってた今日。

生憎の雨だったから、行きつけの図書館で本を読んで過ごしていたら、雨がいつの間にかやんでいた。

そして外に出ると、貴方はあっと声をあげた。

「ねぇ見て、虹」

「ほんとだ」

優等生を辞めた私たちに似合わない、七色の虹。

今まで見た虹の中で、いちばん綺麗に見えた。

「これは、神様からのプレゼントだ」

「こんな、出来損ないに?」

「神様は優しいから、こんな私たちにも幸せをくれるんだよ。だから、自分を封じこめて優等生を演じるよりも、自分の好きなことをやった方が、こういう神様からの些細なプレゼントに気づいたりするの」

だから、と貴方は私の方を見た。

夕暮れと被って、より眩しく感じる笑顔だった。

「これは、優等生を辞めた私たちへのプレゼントなんだよ!」

2/21/2025, 11:27:16 AM

「宇宙に行きたい」

貴方は突拍子もなく言った。

「どうして?」

「夜空を駆けてみたいの。流れ星と一緒に」

「そしたら、消えちゃうじゃない」

「そんなの、人間だってそうじゃない。この世に永遠なんて、きっと多分ないんだから」

貴方はただうっとりと夜空を見上げてる。本当に、今すぐにでも宇宙に行って、流れ星と一緒に消えてしまいそうなくらい、今の貴方はとても儚く思える。

「誰かに夢を託されて消えたい。そうすれば、いつだって誰かの心の中にいれるから」

いつだって、貴方は私の心の中にいるのに。

2/19/2025, 1:12:00 PM

「あなたは誰?」

嘘だと思ってた。貴方は神様から、記憶を奪われてしまったって。

家族のことも、自分のこともある程度は覚えているのに、私と共にすごした学校生活のことだけ、ぽっかりと忘れてしまっているらしい。

でも、それはもしかしたら貴方にとっては、思い出したくもない、忘れても良かった思い出かもしれない。

だから、私は泣かないし、貴方の前で悲しい顔もしない。

また、最初からやり直そう。

「こんにちは、よかったら私と、友達にならない?」

虐められていた貴方、それを止められなかった私。

ある日、貴方は屋上から飛び降りた。

一命は取りとりとめたけれど、学校で過ごしていた貴方という存在は死んでしまった。

でも、きっとそれでよかった。

貴方はそれを望んでいた。

「うん、ちょうど、暇してたの」

そういう貴方の手には、昔っから何度も読み返してた小説が握られていた。

「名前は?あなたは、誰?」

もう一度、貴方は私に問う。

私は、少しカッコつけるように、あの時の、貴方に初めて話しかけた時とおなじ自己紹介をした。

「その小説の、著者です」

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