友達が行方不明になった。行方は私しか知らない。手がかりも私だけだ。警察にバレたくは無い。バレたら友達に呪われてしまうかもしれない。私は友達を監禁している。そして、弱ったところを殺すつもりだ。最近、行方不明者が増えていた。それも男児ばかりだ。彼はおかしな呪いを使えた。そういう家系に生まれたから、自然と使えるらしい。それを使って、彼が男児を誘拐しているのを、たまたま、見てしまった。見る気は無かった。見たくなかった。しかし、私の中の正義感が勝ち、彼を抑え込んで拘束して、自宅に閉じ込めた。
「なあ、見たんだな」
彼は口を開いた。それも、何処か愉快そうに言った。私は彼に恐怖を覚えた。彼じゃない。私の知っている彼がいなくなっていた。何処へもいなくなっていた。私は私の知っている彼が戻るまで、彼の前で待つことにした。しかし、事件の詳細を事細かに話すだけで、戻ってはくれない。事件なんてどうでもいい。私は彼だけを返して欲しい。少年が誘拐されて死んだっていい。そんなことより、今は、たった1人だけの大切な友人を取り返したい。私はそう思って、今日も彼に話しかけた。
「私の友達を返してよ」
しかし彼はとぼけるばかりだった。
「だから、今日も何を言っているんだ。これが本当の僕だ。君の友達は誘拐犯だったんだよ。ほら、早く警察に連れて行ってくれ。もうここにいるのは辛い」
私は彼を殴った。それから首を絞めた。もう彼は戻らないと言われて、殺すしかないと思った。どうせ誘拐犯なのだ、きっと人を殺しているに違いない。なら、私が誘拐犯の彼を殺したって、警察も納得してくれるはずだ。私は、彼にかけた両手に、めいいっぱい力を入れた。
もう彼は、私の所へは戻ってはくれない。ならば私が、彼を呪ってしまえばいい。そして、殺せばいい。
あの日、彼女が僕に触れた。彼女の手は、冷たかった。その日は肌寒かったからか、更に冷たい気がした。僕は彼女の手を取って、それを優しく両手で包み込んだ。彼女はそれを、じっと見入っていた。僕は彼女を可愛らしく思って、穏やかな気持ちになっていた。彼女の手に、段々と温もりが集まってきていた。僕は彼女の手を離したくなかった。
「ねえ、暖かい?」
僕は彼女に聞いた。もう充分暖かい筈だった。しかし彼女はこう言った。
「まだ、もう少し。もっと温かくなりたい」
(⚠️グロ⚠️)
可愛らしく喚く彼女の脊髄に、私は噛み付いた。彼女は私に懇願していた。「どうか骨の髄まで食べて欲しい」と、たしかに願っていた。私は彼女の望み通りにした。彼女の項を切り取って、そこから血を啜り、肉を噛みちぎって、彼女を少しずつ体内に吸収していく。彼女は悲痛をあげ、もがき、子供のように泣き出した。しかし、私は止められなかった。本当は引き返すべきだったのだろうが、彼女の血肉を含んで、中毒になっていた。
私は完全に正気だった。彼女の血肉を体に流し込むことを、夢見ていたのだ。夢よりも酷く、不味く、癖になる味だった。ずっと啜っていたかった。しかし、次第に彼女の声は枯れ果て、皮膚は青白くなっていた。彼女は死んだのだ。私の物になったのだ。私に抵抗することなく、一切の拒否もせず、私の犠牲になったのだ。私たちの夢が叶ったのだ。可愛らしい彼女は、私と一体化したのだ。こんなにも幸せな事実は無いだろう。私は余った血肉を喉に流し込んだ。しかし、彼女を完食した途端、吐き気がした。彼女が骨だけになった姿を見て、私は驚愕した。彼女の顔すら分からなくなってしまった。写真にすら撮っていない彼女の顔は、どんな顔だったのか覚えていない。ただ、可愛らしいという印象だけが残っている。しまった、彼女の顔を、完全に忘れてしまった。しかし、彼女の味は、ずっと印象的である。吐き気がする程の、酷く最低な味である。
私は隠れて、先生に恋心というものを抱いている。先生は作家である。昔は人気作家だったのだが、今は調子が良くないのか、あまり売れていない。しかし、私はそんな「作家」の先生も好きだ。
「あの、先生」
「何かな?」
先生は執筆中だった手を止めて、私の方を振り向いた。その顔は穏やかで、私だけにしか見せない顔だ。
「先生、今日、どこか行きませんか。ネタも切れてきたでしょう」
先生は、優しく微笑んだ。そして、頷く。私は、先生との逢引が決定して、心の内で舞い上がっていた。
私は先生にとって、ただの生徒だが、私にとっての先生は、憧れの、愛しい人だ。
「久しぶりに、外食に行こうか。二人で」
その言葉は嬉しかった。いや、嬉しかったなどという言葉では済まない。もはやその場で感激さえしかけていた。
「はい!」
私は元気よく答えた。すると先生は、執筆活動に戻った。一瞬で戻ってしまったので、私はどこか寂しく感じた。しかし、これで良いのだ。これが良いのだ。この関係のままが良いのだ。私と先生は、ずっと変わらぬ関係のままで良い。これが、私たちの幸せでいられる条件なのだから。
あなたは誰。私も誰。何も分からず、日々を過ごしていた時、あなたはようやく口を開いた。
「私は、鏡。あなたは、私」