囚人

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私は隠れて、先生に恋心というものを抱いている。先生は作家である。昔は人気作家だったのだが、今は調子が良くないのか、あまり売れていない。しかし、私はそんな「作家」の先生も好きだ。
「あの、先生」
「何かな?」
先生は執筆中だった手を止めて、私の方を振り向いた。その顔は穏やかで、私だけにしか見せない顔だ。
「先生、今日、どこか行きませんか。ネタも切れてきたでしょう」
先生は、優しく微笑んだ。そして、頷く。私は、先生との逢引が決定して、心の内で舞い上がっていた。
私は先生にとって、ただの生徒だが、私にとっての先生は、憧れの、愛しい人だ。
「久しぶりに、外食に行こうか。二人で」
その言葉は嬉しかった。いや、嬉しかったなどという言葉では済まない。もはやその場で感激さえしかけていた。
「はい!」
私は元気よく答えた。すると先生は、執筆活動に戻った。一瞬で戻ってしまったので、私はどこか寂しく感じた。しかし、これで良いのだ。これが良いのだ。この関係のままが良いのだ。私と先生は、ずっと変わらぬ関係のままで良い。これが、私たちの幸せでいられる条件なのだから。

2/20/2025, 2:42:08 PM