#二次創作 #呪術廻戦
五条が呪霊にやられたらしい。
その一報が硝子から入ってきたのが5分前。
あの悟が?確か今日の任務はなんて事ない1級呪霊って言ってたよな…。
携帯に写し出されたメールの文字に違和感を抱きながら、チラリと横目で目標を見据えると、それは肥大したり萎縮したりしながら、モゾモゾと分裂を繰り返していた。
夏油もまた任務に当たっている最中だった。
悟がやられる訳ないだろ。悟は格上の特級だ。何かの間違いじゃないのか?
そう自分に言い聞かせるも、どこか落ち着かなくて胸の奥がゾワゾワする。
『ギィ…アアアア…』
『あー…もう、うるさいな。悪いけど今お前に構っている暇はないんだ。消えてくれ。』
苛立ちと共にその塊を一瞬にしてぐるりと手中に収める。ドス黒くて不気味な光を纏うその玉をゴクリと飲み込むと、傑は補助監督を待たずにその場を後にした。
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「硝子!」
勢いよく医務室のドアを開けるとそこにはベッドに横たわり眠る悟と、その横でタバコを咥え、くくく、と笑いながらこちらを見やる硝子がいた。
「すごい早いじゃん。ウケる。」
「悟の容態は?」
「あぁ、なんか任務中に無下限解いて、一発喰らったんだって。」
「は…?」
「あーでも大丈夫。体はそんな大した怪我じゃなかったよ。治しといた。」
そう言って咥えていたタバコに火を付ける。
問題はそんな事じゃない。なぜ任務中に無下限を解いたのか。いつもなら悟はそんなヘマはする筈はない。呪霊の術式か…?そんな強い相手だったのか?
そんな事をぐるぐると考えていると、それが全部顔に出ていたようだ。
硝子は白い煙をふぅ、と吐き出すとぼすっと椅子に腰を落とし呆れ顔で頬杖をついた。
「ただの風邪だよ。高熱が出るタイプのやつ。薬飲んで寝りゃ直るよ。」
「風邪…?」
その瞬間、安堵から体の緊張がすーっと引いていくのがわかった。
風邪か…。そうか…。
「集中力切れてたんじゃない?まぁ、五条がヘマするのは珍しいけど。…あのさぁ、五条部屋に連れて帰ってくれないかな。私、風邪うつりたくないし。」
そう言うと薬の袋をガサッと傑の胸元に突きつけ、ひらひらと手を振った。
──────
「…頭痛ぇ…」
ぼんやりとした意識の中、薄目を開けると天井がゆらゆらして悟に近付いてきた。
なんだこれ。寒い。気持ち悪い。喉渇いた…。
水分を求めて起きあがろうとするもズキズキと頭が痛み身体が言う事を聞かない。力を入れたせいか痛む頭が更にズキズキと脈を打った。
「悟。起きたのか。」
「ん…。傑…なんでいんの…?」
「具合悪いなら、任務私が引き継いだのに何で無理したんだ。」
「全然問題ねぇよ。あんな雑魚。瞬殺で祓ってやったわ。」
そう言って真っ赤な顔で力無く笑っている。
本当に強がりでプライドが高い。素直に具合悪いって言えばいいのに。
傑はそれ以上責め立てる事は諦め、悟の身体を少しだけ起こし、背中を支えながら薬を飲ませた。
「君でも風邪なんてひくんだな。ちゃんと人の子で安心したよ。」
傑もまたふふ、と笑い、悟をゆっくりとベッドへ下ろした。
硝子の配合した薬の効きが早いのか、身体の痛みは徐々に和らいでいく。風邪特有のふわふわとした感覚の中、悟はまた静かに眠りに落ちた。
続く
※BL要素を含みますので苦手な方は回れ右でお願いします。
──────
柔らかい光がカーテン越しに差し込み、ふわふわした感覚で目が覚めた。
眩しい。うっすら開けていた目をキュッと閉じた。
昨日、付き合ってから初めて身体を重ねた。
重だるい腰と足のだるさが残る身体がなぜか心地よくて、悟の心を満たしている。寝返りを打つと少し腰が痛んだが、それすらも幸せな気持ちが溢れてきた。
目の前にいる傑はまだすやすやと眠りについている。その綺麗な寝顔を見つめると昨夜のことを思い出して思わず顔が熱くなった。
俺、変なこと言ってなかったかな。
すごい気持ちよくて、我を忘れたように乱れた自分の姿を回想して傑の顔を見つめるのをやめて枕に顔を埋めた。
やべ。思い出すとすっげぇ恥ずかし…。まだ起きるなよ。今起きたら俺、発狂しそう…。
昨夜の傑はそれはそれは優しかった。終始、痛くない?ちゃんと気持ちいい?と気を遣って聞いてくれたし、悟の嫌がることは何一つしなかった。
傑のなぞる指の感覚を思い出して、しっとりと余韻に浸る。触れられた所を一つ一つ辿っていくと、ゾクッとして"気持ちいい"が溢れてくる。
おでこ、耳、首筋…唇。
そうやって傑の指の感覚を追いながら指を這わせていく。
胸の突起を触ると全身がぞわぞわして少し息があがった。
片手で優しく摘んだりくるくるとなぞったりして傑のやり方を追いかけていく。
次第にそれだけでは足りなくて、左手でそのまま突起を触りながら、右手で傑が教えてくれた一番気持ちいい場所にそっと指を入れた。
「んっ。はぁっ…。」
そこはまだ柔らかくて、ぐちゅぐちゅして温かい。弱い刺激でも全身にピリッとした感覚が駆け抜けていき、我慢できずに指をもう一本増やした。
「あ…。ここ。ここ気持ちいい…。はぁっ、ぁ。」
コリっとした部分にグッと力を込めた。それだけで頭がくらくらする。
目を閉じると、瞼の裏で傑が優しく微笑みかけてくる。
恥ずいからこっち見んなよ。俺、絶対今変な顔してる。変な声が止まらないから、頼むから見ないで…。
そう思えば思うほど、それとは裏腹に身体は素直に反応し、時折ビクンと小さく跳ねた。
目を閉じたまま必死で昨日の傑を思い出して、真似をする。
「あぅ…。あっ。んんっ。あっ、、そこ、やぁ…っ。」
必死に声を押し殺していたつもりだったが、自身の指から与えられる快感が堪らなくてつい上擦った声を出してしまった。
「悟。」
あまりの衝撃にわざとらしいほどビクッと身体が跳ねた。
え…嘘だろ…?傑起きてる…。いつから…?
一瞬にして頭が真っ白になり思考回路は全停止している。悟は目を開けることが出来ぬまま、耳まで真っ赤にしながらふとんを頭までかぶり、羞恥に耐えた。
「朝から可愛いことしてるね。感じてる悟の顔、本当好き。」
そう言って布団を握りしめた手をゆっくりと解き、手を握る。
「忘れろ。」
「やだ。」
傑はふふっと笑うと起き上がり、悟の顔を見下ろす形になった。
両手を絡めて、そっと口付けた。
くちゅくちゅ…
傑の舌が悟の口内に侵入し、いやらしい音が部屋に響いている。
いつの間にか恥ずかしさは消えていた。握り合った手の温もりが心地よくて、幸せが溢れてくる。
好き…。傑が好き。
そう心で唱えると絡めた指をぐっと握った。
その日は朝から雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような酷い雨が窓に打ち付けられ、バチバチと音を鳴らす。もう午前9時を過ぎているというのに窓越しに見える景色は薄暗く、そしてひどく濁った空だった。
傑は無表情で窓際に佇み、静かにそれを見つめていた。
いつもならこんな休みの日は部屋に篭り、何をするでもなく鬱々と一日を過ごしていただろう。悟も休みが合えば当たり前のように部屋を訪れ、桃鉄をやるのがお決まりだった。
悟は今日は任務だっけ。
ふと、時計を見ると10時30分を回っていた。
傑は徐に上着を取り部屋から出ると、外出届も出さぬまま、高専の外に歩き始めた。
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「あら、珍しい。来るなら連絡をくれたら良かったのに。雨で濡れてるじゃない。ほら、早く入って。」
実家の玄関先で母が笑顔で、おかえり、と出迎えてくれた。
最近は立て続けに任務が入り、実家に立ち寄る事も電話をかける事も滅多になかった。そんな息子が訪れたのだ。母はとても嬉しそうだった。
「今日はお父さんもいるのよ。タイミングが良かったわね。」
「そうなんだ。それは嬉しいな。会いたかったんだ。」
そう言うと母はふふっと笑って傑の肩をポンと叩く。
玄関をくぐると懐かしい匂いがした。
リビングのソファに座り新聞を読んでいた父も息子の帰宅に気付き思わず顔が綻ぶ。
「何食べたい?急に来るから大したものは作れないけど。」
母は冷蔵庫の中を覗き込み、ガサガサと食材を見繕っている。
オムライスなんてどう?と言うと傑はいいね、と答えた。
どこにでもあるような幸せな家族の姿がそこにはあった。他愛もない話をして、どこからでもなく引っ張り出してきた中学の卒業アルバムや小さい頃の写真を見て会話に花が咲いた。
本当にこの2人から貰った愛情は計り知れない。傑が変なものが見えると打ち明けた時も、疑うこともせずただ信じてくれた。本当に心から大好きで大切な存在だった。
…これからもずっと。
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「ご馳走様。すごい美味しかったよ。やっぱり母さんの料理、好きだな。」
「あら、そんな褒めても何も出ないわよ。」
母はにこにこと笑う。
「母さんがこんな笑ってるの久々に見たよ。傑が帰ってきて嬉しいんだろう。これからはもっと帰ってきなさい。」
傑は父の優しい物言いが好きだった。低いトーンの落ち着いた声もとても心地よかった。
傑はさっと立ち上がり母と父の前に立ち深くお辞儀をする。
「父さん、母さん、ここまで育ててくれて本当にありがとう。」
傑がそう言うと不思議そうな顔でこちらを見つめてくる2人に、聞こえぬ程の小さな声で
「ごめんね。」と呟いた。
「あらやだ。急に何?そんなに改まっ…………」
母が言い終わらぬうちに呪霊を顕現させ母の首を噛みちぎらせた。
「傑!!」
「お前…なんてこと…ぐはっ………」
父の言葉も遮った。
傑はあたり一面の惨状を無表情でただ見つめていた。
もう元には戻れないのだ。非術師は皆殺しにしなければならない。それが愛している両親であっても。
返り血を浴びて着ていた白いシャツが紅く染まる。
顔に付いた血を手で拭えば、拭いきれなかった血が口の中に流れ込み、酸っぱくて苦い鉄の味がした。
両親を手にかけても不思議と何も感じなかった。後悔も悔恨も何もなかった。最後にこの2人を殺すのが自分であった事に安堵すらした。
「さて…。」
そう言うと汚れたシャツを脱ぎ捨て、新しいシャツに着替えると、なんの戸惑いもなくその場を立ち去った。
術師だけの新しい世界を作るんだ。
そう思いながら軽い足取りで玄関をくぐると、あんなにひどかった雨はすっかり止んでおり、空には綺麗な七色の虹が出ていた。
(続き)
参ったな。
こうなると距離を置こうとしたところで、全く意味がないだろう。
ギュッと抱きしめられると悟の心臓の音が直に伝わってきて、左頬には柔らかい髪の毛がさわさわと当たり、くすぐったい。
私が悩んでいるのは他でもないこの目の前の悟の事だ。
喧嘩したりバカ話で盛り上がったり、そんななんでもない親友だったはずなのに。
気付けばいつも彼を目で追って、悟が隣にいない日は、今彼は何をして誰と会ってるのだろうとか、そんな事を考えると切なくて苦しくなった。
その気持ちにずっと蓋をして気付かないフリをしていたのに。
絶対に打ち明けてはいけないと、男が男を好きになるのはおかしい事だと自分に言い聞かせた。
何よりも彼は親友である私を望んでいるのだろうから、と。
ずっとずっと隠してきたのに。
私の気も知らないで…。
「悟、もう離して。」
「やだね。」
更に抱きしめる腕に力がこもる。
耳元で、はぁ、はぁ、と漏れる悟の小さな吐息に鳥肌が立つ。
元々おかしいくらい近い彼の距離感に私は理性を失いかけていた。
「傑、めっちゃ心臓ドキドキしてんじゃん。何?具合でも悪ぃの?」
そう言ってやっと離れた悟は上目遣いで私を覗き込む。
薄いブルーの宝石のような瞳に見つめられて体が強張った。
もう私は限界だった。
気付けば、なだれるように彼をベッドに押し倒して両腕を拘束していた。
悟は目を丸くして何が起こっているのかわかっていないというような顔でこちらを見ている。きっと混乱しているのだろう。
全部全部悟のせいだ。
私にこんな気持ちを抱かせて。
何も知らないくせに、そのまま親友でいる事も出来たのに。
「驚いた?私はずっと悟にそういう感情を抱いてきたんだ。」
「…そういうって…どういう…?」
「わかってるくせに。」
崩壊した理性が洪水のように溢れ出し、ニヤリと笑って悟の柔らかい髪を指に絡めた。
大丈夫。
そうお前が言う度に、無性にイライラした。
全然大丈夫じゃないだろ。なんだよ、その貼り付けたような笑顔。
声だって僅かに震えてるし、俺が何も気が付かないと思ってるのかよ。
傑は詮索されるのをとても嫌う。問い詰めたって頑なに何も打ち明けないだろう事は分かりきっていたし、そうする事で余計に追い詰めてしまう事も俺は分かっていた。だから傑から話してくれるまで待とう、って。
いつもならそうやって喉まで出かかった言葉を飲み込んだのに。
今日は、部屋に戻るよ、と言って離れようとする傑の手を無意識に掴んでいた。
「なぁ、お前さぁ…俺にも話せない事って何?俺はそんなに頼りない?全然大丈夫って顔してねーんだよ。俺が気付かないと思った?」
「だから大丈夫だって。そういう訳じゃないから。本当に何もないよ。」
と距離を置こうとする。でもどうしてもそのまま帰らせる事は出来なかった。なぜか嫌な胸騒ぎがして、絶対に放っておいたらいけないと感じていた。
「傑、ちょっとこっち来て。」
傑の手を引っ張り半ば無理やりにベッドに座らせる。
俺は傑の前にしゃがみ、下から覗き込むようにしてそっと手を握った。
傑は無表情で斜め下に目線を落とし、頑なに俺と目を合わせない。
本当に頑固な奴。どうせ1人で全部抱え込もうとしてるんだろ。
「傑は何も言わなくていい。ただ俺の話を聞いて。俺はお前が不安に思ってること、苦しんでること、半分背負いたいんだよ。お前が少しでも楽になって欲しいし、ちゃんと笑って欲しい。助けたいんだよ。お前に助けて欲しいって言って欲しいんだよ。」そう言って肩に手を回し優しく抱きしめた。
(続く)