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(続き)

参ったな。

こうなると距離を置こうとしたところで、全く意味がないだろう。

ギュッと抱きしめられると悟の心臓の音が直に伝わってきて、左頬には柔らかい髪の毛がさわさわと当たり、くすぐったい。

私が悩んでいるのは他でもないこの目の前の悟の事だ。

喧嘩したりバカ話で盛り上がったり、そんななんでもない親友だったはずなのに。
気付けばいつも彼を目で追って、悟が隣にいない日は、今彼は何をして誰と会ってるのだろうとか、そんな事を考えると切なくて苦しくなった。

その気持ちにずっと蓋をして気付かないフリをしていたのに。

絶対に打ち明けてはいけないと、男が男を好きになるのはおかしい事だと自分に言い聞かせた。

何よりも彼は親友である私を望んでいるのだろうから、と。

ずっとずっと隠してきたのに。

私の気も知らないで…。

「悟、もう離して。」
「やだね。」

更に抱きしめる腕に力がこもる。
耳元で、はぁ、はぁ、と漏れる悟の小さな吐息に鳥肌が立つ。

元々おかしいくらい近い彼の距離感に私は理性を失いかけていた。

「傑、めっちゃ心臓ドキドキしてんじゃん。何?具合でも悪ぃの?」

そう言ってやっと離れた悟は上目遣いで私を覗き込む。
薄いブルーの宝石のような瞳に見つめられて体が強張った。
もう私は限界だった。

気付けば、なだれるように彼をベッドに押し倒して両腕を拘束していた。
悟は目を丸くして何が起こっているのかわかっていないというような顔でこちらを見ている。きっと混乱しているのだろう。

全部全部悟のせいだ。
私にこんな気持ちを抱かせて。
何も知らないくせに、そのまま親友でいる事も出来たのに。

「驚いた?私はずっと悟にそういう感情を抱いてきたんだ。」
「…そういうって…どういう…?」

「わかってるくせに。」

崩壊した理性が洪水のように溢れ出し、ニヤリと笑って悟の柔らかい髪を指に絡めた。

12/7/2023, 2:06:15 PM