俺が今重大な岐路に立たされている。
どちらかを選ぶことで、もう一つの道は潰える。
そして、もう二度と選択をやり直すことは出来ないのだ。
「……好きです。付き合ってください」
俺の目の前には、黒髪のストレートロングの、眼鏡をかけた図書委員会の女子がいる。顔立ちはキツめだが、性格はとても可愛らしい部分があることを、普段の付き合いで知っている。
俺と彼女は図書室で知り合った。色々な本を読んでその感想を話し合っているうちに親しくなったのだ。
そして今日、彼女は俺に告白してきた。
俺は、どうすればいいのか頭が真っ白になった。
胸がドキドキする。
顔が赤くなっていくのがわかる。
しかし、俺は返事をためらっていた。
なぜなら。
その後に、元気な天パが似合う茶髪の幼馴染から大事な話を公園で聞くことになっているし、ピンク髪のツインテールの部活の後輩からは、部室で言いたいことがあると今朝言ってきた。また、背の高くてワガママボディの音楽の先生は進路相談室で待っていると言われているし、内気で人見知りのクラスメイトは、じっと俺を見つめながら「放課後……教室で」とポツリと呟いたのだ。
俺は考えた。ここで答えを出すということは……うーむ。考えたが俺はやっぱり、彼女の告白にこう答えた。
「はい」
******
今回も全員同時攻略できなかったな。
俺は大きなため息を付いて、机の上にコントローラーを置く。ついつい、彼女との親密度をまずMAXにしてしまう。
俺は画面の向こうで、本命の黒髪ストレートの眼鏡の子と付き合うエンディングを見ながら、やっぱりあの子は可愛いなとニヤけた。
お題:岐路
「例えば、隕石がぶつかることがわかったりとかで、世界の終わりが来たらどうする?」
なんてことが、先日僕たちの間で話題になった。
「そうだなぁ……目いっぱい彼女といちゃつくかな」
アイスコーヒーに刺さるストローをかみながら、常に無表情の友人は言った。
「ずいぶん素直だな〜これがツンデレってやつか?」
僕は友人をからかった。
何分この友人、いつも無表情。恋人の前でも一切表情を崩さない。恋人を紹介してきたときには、本当に付きあってる相手がいることに驚いたもんだ。もっとも、彼女も無表情だったが。それなのに、二人が明らかにラブラブであることが伝わっていた。ふたりともこんな感じなのに、一体どうやってここまでに至ったのか。
「そうなったら僕とコーヒー飲まずに彼女の側にいてやれよ」
僕は紅茶を蒸らしながら、のんびりと友人を見る。
はぁ~僕も彼女ほしいな〜。
世界の終わりを一緒に迎えられるような、素敵な人が。
*****
「キミと出会えてよかったよ」
「うん、本当にね」
「愛してくれてありがとう」
「こちらこそ、出会ってくれて、愛してくれてありがとう」
僕と彼女は、抱き合いながら世界が終わるその時を待っていた。
あともう少し、早く出会いたかった。
僕とキミが付き合ってから、一週間後の出来事だった。
お題:世界の終わりに君と
ざあざあと雨が降り続けるこんな天気の日には、たいていろくなことが起こらない。
ただでさえ雨でゆううつだし。
コンビニでちょっと買い物しようと傘を入り口に置いたら、出るときには傘が消えている。
仕方がないのでビニール傘を買ったら、はみ出した肩が濡れる。
トドメには路肩を歩いてたら車に水ぶっかけられてびしょびしょになった。
救いはカバンの中身が無事だったということか。
早く家帰って風呂入ろう。
そんで温かいご飯食べよう。
「ただいま〜」
俺は、今日の食事当番の兄貴が作ってくれているだろう温かいご飯を期待して玄関を開けたが、そこは真っ暗だった。
「あれ?」
リモートワークの兄貴は、大概この時間には家にいるはずだけど。
部屋の明かりをつけて、台所に入る。テーブルの上には、慌てて作っただろう歪なおにぎりが2個と、兄貴の几帳面な字で書かれている書き置きがあった。
「メッセージ送ったが既読がつかなかったので仕方なく家を出た。
今晩は飲み会でご飯が作れない」
――マジかよ
確かに、大学のサークルで友達と遊んでいて、スマホチェックしてなかった。サークル仲間と一緒に食べに行けばよかったな、と後悔してももう遅い。
俺は仕方なく空腹のままシャワーを浴びようと、風呂に入り、ただでさえ冷えた体に、間違えて冷たいシャワーを浴びる。
慌ててお湯にしたけれど。
さすがにシャワー派の俺でも、あまりの寒さに今日は湯を張って暖まる。
その後おにぎりを食べて、なんとか落ち着いた俺は、ソファに横になってスマホをいじったまま寝落ちした。
翌朝。
俺は熱を出し、昨日の夜遅くに帰ってきた兄貴に看病されることになる。
俺は兄貴が作ってくれたおかゆで温まりながら、ため息を付いた。
昨日は最悪だった。
まあでも、看病されるのは悪くないか。
お題:最悪
6月2日に書いた兄弟がシリーズ化するかもしれません……
「ここにいたのか」
背後からかけられるいとしい人の声が、背後からしました。
「ええ、今宵は月が大地に近づく夜ですので」
私は見ていた天上の月から目を離さないまま、いとしい人の声に応えました。
「ストールをかけているが、風邪をひく。早く中に入るといい」
あなたの普段の物言いとは違う、とても柔らかい声が響きます。
「もう少し、このまま月を見たいのです」
気遣うあなたの声が、隣に立つあなたの気配が、私の心をざわつかせました。
「ならば私もともに眺めよう」
あなたが隣に立ち、私とともに月を見上げました。私はこっそりあなたの顔を盗み見ます。
男らしい、私が想ってやまない、あの人の顔。
すると、目が合いました。
私はその眼差しに吸い込まれそうになりながら、それでも目を伏せます。それでもあの人の視線は私から外れないことが、分かりました。
その眼差しを感じますと、想いがこぼれそうになります。
「お慕いしています」
私はこの言葉を飲み込み、あなたとともに並んで立っていましたが、あなたから離れがたい想いをこらえてベランダから中に入ることにします。
あなたの姿が名残惜しく、今一度振り返りました。
もう一度、あなたと目が合いました。
あなたは何も言いませんでしたが、それ以上に眼差しが私への想いを雄弁に語っていました。
私は目を見開くと、首を横に振って今度こそベランダから部屋に戻りました。
「あなたを、あなたをお慕い申し上げます」
こらえきれない涙とともに、私は自分の部屋の隅にうずくまってひっそりと涙を流しました。
あなたの想いが分かるからこそ、私の想いは決して伝わってはいけないのです。
いとしいあの人にも、ましてや誰にも言えない秘密を抱えたまま、私はこれからも生きていきます。
お題:誰にも言えない秘密
擬人化注意。
6月2日の『お題:正直』の兄弟の話の前日譚。
暗く、寒く、窓一つない狭い部屋。そこは冷たく、身を凍らせる風が吹き荒れている。
私はあの人によって、この暗く狭い部屋に入れられた。
そこにいたのは私だけではなかったが、誰一人声を発するものは居なかった。私を含めて。
私の体はあの人のものだ。
あの人の手によって、あの人の名前をこの体に記された。
それを望んでいたかどうかもわからないけれど、私はそれを黙って受け入れた。
それから、長いような短いような時を、この暗く寒い部屋の中で過ごすことになる。
そこにいる私以外のものと言葉をかわすことはなかったし、私も言葉を発することはなかった。
相変わらず、この部屋は暗く狭く、冷たい風が吹き荒れている。
私も、他に一緒にいるものもただじっとしていた。
ときには扉が開かれて、他のものが外に出ることもあったけれど、連れて行かれるときも抵抗していなかったし、私たちはそういうものだと受け入れて見送った。
扉はその都度閉ざされて、変わらないときが過ぎる。
誰もがこの部屋から、いつか外に出るときがあるのだろうと、そう思っている。私もあの人の手に取られるその日まで、じっとしている。
そうしてある時、扉が開かれ、何者かが私を手に取った。
もしかして、あの人?
私は抵抗することなく、その手に身を委ねる。
しかし、私はその手の主を知った。
――あの人ではなかった。
あの人ではない手に掴まれて、真っ暗で狭い部屋から引きずり出され、真っ白い外の世界を知る。
あの人以外の手によって、狭い部屋から出された私は、固いところに置かれた。
あの暗く寒い、狭い部屋のほうが、私にとってふさわしい場所だったのだと、ここに来て思い知らされた。この世界に出された私の体は灼熱で溶けそうだった。いや、すでに溶け出している。
その人はどこかへ行くと、再び戻ってきた。細長く先が丸い物を持って。
それを見てわかった。
私はあの人の口には、入らないのだろうと――
お題:狭い部屋
弟「高級カップアイスのバニラ味サイコー」