擬人化注意。
6月2日の『お題:正直』の兄弟の話の前日譚。
暗く、寒く、窓一つない狭い部屋。そこは冷たく、身を凍らせる風が吹き荒れている。
私はあの人によって、この暗く狭い部屋に入れられた。
そこにいたのは私だけではなかったが、誰一人声を発するものは居なかった。私を含めて。
私の体はあの人のものだ。
あの人の手によって、あの人の名前をこの体に記された。
それを望んでいたかどうかもわからないけれど、私はそれを黙って受け入れた。
それから、長いような短いような時を、この暗く寒い部屋の中で過ごすことになる。
そこにいる私以外のものと言葉をかわすことはなかったし、私も言葉を発することはなかった。
相変わらず、この部屋は暗く狭く、冷たい風が吹き荒れている。
私も、他に一緒にいるものもただじっとしていた。
ときには扉が開かれて、他のものが外に出ることもあったけれど、連れて行かれるときも抵抗していなかったし、私たちはそういうものだと受け入れて見送った。
扉はその都度閉ざされて、変わらないときが過ぎる。
誰もがこの部屋から、いつか外に出るときがあるのだろうと、そう思っている。私もあの人の手に取られるその日まで、じっとしている。
そうしてある時、扉が開かれ、何者かが私を手に取った。
もしかして、あの人?
私は抵抗することなく、その手に身を委ねる。
しかし、私はその手の主を知った。
――あの人ではなかった。
あの人ではない手に掴まれて、真っ暗で狭い部屋から引きずり出され、真っ白い外の世界を知る。
あの人以外の手によって、狭い部屋から出された私は、固いところに置かれた。
あの暗く寒い、狭い部屋のほうが、私にとってふさわしい場所だったのだと、ここに来て思い知らされた。この世界に出された私の体は灼熱で溶けそうだった。いや、すでに溶け出している。
その人はどこかへ行くと、再び戻ってきた。細長く先が丸い物を持って。
それを見てわかった。
私はあの人の口には、入らないのだろうと――
お題:狭い部屋
弟「高級カップアイスのバニラ味サイコー」
6/4/2023, 3:58:23 PM