エリィ

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3/29/2025, 4:50:49 AM

お題 小さな幸せ

それは、疲れた時の甘いココア
それは、眠い時の布団のぬくもり

それは、沈んだ時の優しい友の言葉
それは、会いたい時のあなたの笑顔

それは、あなたの心と
    あなたが触れるものから
    見つけられるもの


3/26/2025, 12:32:17 PM

お題『七色』

俺と兄がいつもご飯を食べているダイニングテーブルの上にで、兄がガサガサと包装紙の音を立てている。
俺は兄が指定してきた長さで、淡いピンクのリボンを7本切っていた。
その前は大きな包装紙を切っていたのだが、兄さんの指定通りに切れず何枚か失敗し、包装紙が足りなくなった。
ついさっき、すでにカットされているものを買いに走ったばかりだった。

兄さんは慣れた手つきで、テーブルに置かれた透明な箱を包装していく。すでに包装したものは5つ。6個目を手に取ると、無駄のない動きで手早く包みはじめた。
しわ一つ入れない、ぴしりと角まで整えられる。包装の手つきを見ると、やっぱり几帳面だな、と思ってしまう。
テーブルの上には、まだ包まれていない箱があと20個以上残っている。

まだ包装されていない、透明なボックスの中ににころころと入っているのは、パステルカラーの小さなマカロンが7つ。
桃色、オレンジ色、クリーム色、エメラルドグリーン、水色、薄い青、薄紫。
虹を思わせる七色のマカロンたちが、可愛らしく箱の中でおとなしくしている。

例年通り、兄さんは会社の同僚や上司、取引先などからたくさんチョコレートをもらってきた。そして、例年通りホワイトデーのお返しに何かしらお菓子を用意する。
今年はマカロンだ。
去年より増えたお返しを見て、ため息をつく。
ちくしょう。うらやましいぜ。
俺なんか、俺なんか……! いいんだ別に、悔しくなんかないんだからな! うん、うん……。

ぼんやり考えたてたら、リボンを1センチ短くカットしていた。
ヤバ……!
俺は素知らぬ顔をして、失敗したリボンをさりげなくゴミ箱にいれると、再びカットを始めた。
兄さんがちらっとこっちを見て、また包装に集中し始める。

しばらくして、紙の音が消えた。どうやら包装作業が終わったようだ。他の箱は全て小さな紙袋に入って、段ボールに入れられている。
しかし、一箱だけがテーブルの上に残されていた。

「兄さん、この箱しまわなくていいのか?」
俺はリボンをカットする手を止めた。
集中しすぎて、買って来たリボンを全て切ってしまった。散乱する余ったリボンを、紙袋に入れる。

「ああ、これか。これはお前の分だ」
兄さんはそう言うとテーブルの上を片付け始めた。

「え?俺の分あったの?」
俺は思わず兄さんの方を向いた。

「いらなかったか?」
兄の顔がちょっと悲しそうに見えたので、俺は慌てた。
「いや、予想してなかったから」
俺はそう言いながら箱を手に取る。
ころころしているマカロンたち、実は俺も欲しかったのだ。
兄が、ここで俺に気にかけてくれていたことにびっくりした。
「……ありがと」
俺はぽつりとお礼を言うと、どこか気恥ずかしくなったので、その箱を持って自分の部屋に入って行った。


残された兄はため息をついた。
「まだテーブルの上は片づいていないのに、何故部屋へ行ってしまったのか」
やれやれ。

そう言うと、テーブルの上に散らかったままの包装紙やシール、造花、セロハンテープやはさみなどを片付け始めた。

3/20/2025, 9:02:11 PM

手を繋いで


誰もが通る
昼下がりの光の中で

堂々と
君に咎め立てして

公然と
君と言い争いして

交わした
口論の数を
君は覚えているだろうか



誰にも見えない
夜の静寂の中で

ひっそりと
君と指を絡めて

しっかりと
君と手を繋いで

ゆっくりと
顔を近づけて

交わした
口づけの数を
君は覚えているだろうか

3/15/2025, 1:12:38 PM

その日の朝から、俺はソワソワしていた。
今日は面接に行ってから5日目。
まだ手元に返事が来ない。

俺の兄は、昼食後のコーヒーを飲みながら、優雅に新聞を読んでいる。インスタントコーヒーの香りがふわりと漂った。
今日はリモート出勤なので、昼休みを優雅に楽しんでいる。
羨ましいぜ。

何度も時計を見ては、そわそわする。
郵便配達員のバイクの音がしないかと、何度も耳を澄ませていた。

とにかく嫌な予感がする。
何しろ何の便りもないからだ。
俺の中がざわめいて落ち着かない。

そんなときは深呼吸だ。
あまりそのことばかり考えすぎないようにしなければ。
悪いことは考えない、考えない。
大丈夫。俺はベストを尽くした。
あとはただ、天に任せるのみだ。頼むから採用されてくれ……!

その時だった。

「郵便だ」

新聞を読み終わった兄さんは郵便物をいつの間にか取りに行っていた。
気づかなかった。
そんな俺に、先日面接に行った先の社名が入った封筒を手渡す。
俺はとりあえず開けた。
そのとき、電話がかかってきた!
「はい……! はい、はい、はい……」

俺は込み上げる感情のまま通話を切った。

「おいしいもの食べに行こうか」

兄が、ぽん、と俺の肩に手を置いた。

−−−−−

採否はお任せします


お題 心のざわめき

1/9/2025, 5:57:03 PM

青白く輝く、レルム星座の双子星アシルとレシアを、
赤く輝く、ミリアル星座一番の雄々しい星リューナルベルトで身を飾り、
空の頂に灯る、北天のポールステルラを冠に抱き、
南天でただ孤高に輝くフォーマルハウトを、
南の天の仲間の星を裾に散りばめて。

星々を飾る白い衣をまとった
天上の少女ユミルは、
白くまたたき流れるその川に足を浸して歩く。
細い足が歩を進めるたびに
星のかけらは彼女の訪れに
歓喜の声を上げながら足元をころころと流れ、
軽やかな雫はユミルの黄金の鈴をちりちりと鳴らす。

ユミルは創生の詩を歌いながら星の河を渡る。
はるか昔、物心がついた時にいたあの光の中へ向かって。

ユミルの歩いたあとには星々の道が広がり、闇色の空は明かりを得る。
彼女が手に掲げた月鏡の明かりは
星のかけらにまたたきを与え、雲を透かして大地に安らかな光を、東から西へと。

ユミルは目的の場所、太陽の神殿に到着する。
炉の中で灯る太陽のひかりはすっかり弱まり、今にも消えてしまいそう。

ここで一人で生まれ、
親もなく兄弟もなくひとりで育った
天上の少女ユミルは
星々に光を与え、大地に安らかな光を与える。

空での己の使命を成したのち、
最期の使命を果たすためにこの場所に。

星の輝きで身を飾ったユミルは
太陽の炉に身を投じて
新たな太陽になることを全て知りながら。

今にも消えてしまいそうな太陽の炉を見ながら、
ユミルは誰も見ることのない微笑をかすかに浮かべ
ゆっくりと太陽の炉に自ら歩んでいった。
震える足が、足輪の鈴を鳴らし、
シャラシャラ音をたてた。

鈴の音が止まる。
彼女のかすかな呼吸の音が、最期の太陽の光を揺らした。
ユミルは大きく深呼吸をすると数歩。
自ら太陽の炉に身を投じた。
みずからのいのちすべてをかけて。


そして大地は太陽を、太陽の巡りで訪れる月の世界、昼と夜を取り戻した。
太陽という一つの星となったユミルの心は、
救われたのだろうか。
彼女はこの生に満たされていたのだろうか。
それを、この世に生きる大地の民は知る由もない。

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「ねえねえお父さん、どうして太陽はあんなにまぶしいの?」
「それはな……」
父親は子供を膝に抱えると、親から伝え聞いた民話を語り出した。


2025.1.9 お題:星のかけら

テイストを変えてみました。

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