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12/23/2025, 5:40:20 AM

光の回廊 2025.12.22

以前から気になっていた光の回廊という場所に、団体旅行で訪れた。

光の回廊と呼ばれるそこは、とても大きく、高さは10メートル以上、幅は5メートル以上あるようだった。どこを歩いても太陽の光が差し込む作りになっているそうで、くるりと回っても日差しが入ってくるらしいと、観光ガイドにも書いてある。

ガイドさんは、この回廊の入り口の端に、団体さんを集めて、皆に聞こえるように叫んでいた。
同じように、端に集められた団体さん達がいくつもあり、同じようにガイドさんが叫んでいる。

「とても大切なことを今からいいます。いいですか? この回廊のなかで、決して立ち止まっては行けませんよ。危険ですからね。もう一度いいますよ。危険ですから立ち止まらないでくださいね
落とし物は絶対にしないでくださいね。スマホはショルダーバッグかウエストポーチに入れて、決して落とさないように。スマホに出たり、歩きスマホは、絶対にしてはいけません!」

学校の先生が言うようなことだな、と不思議に思った。ガイドさんは、私たち一人一人の鞄やスマホが落ちないようにしているか、チェックをしている。私もチェックされていた。
チェックがすみ、私たちは回廊のなかに入っていった。

異国の町のなか、たくさんの観光客に揉まれて、中に入る寸前、私のスマホが震えた。彼からだ。
私は無意識のうちにスマホを手に取って立ち止まり、メッセージアプリを立ち上げると急いで返事を打ち込み、しばらくそうしていると、いつの間にか人の気配がしなくなった。

「あっ」

気がついたら、誰もいなくなっていた。
あれだけごった返していた観光客も、一緒の団体さんも、ガイドさんの姿さえなくなっていた。

……どういうこと?

私は立ち止まった。
あれだけ濃密だった人の気配が一切しない。

振り返っても、誰もいない。肩越しにしか見えなかったはずの壁面も、今ならしっかり見える。
真っ黒な石で作られたのであろう、艶やかな壁と柱。アーチ上の天井と、傷ひとつない床には、まるでチェス盤のような黒と白のタイルが敷かれている。
柱と柱の間から差し込む白い光があまりにもまぶしすぎて、私は思わずサングラスをかけた。それでも目蓋の裏に焼き付くほどの白い光だった。

この回廊は、こんな作りだっただろうか。
団体で入ったときには、白黒ではなかった。もっと色鮮やかで、壁には鮮やかな模様を描くタイルが貼られていたし、柱からは青空と、強い日光が入って光と影をくっきりと見せていた。
何より、廊下は各国の観光客で混雑していたし、私と一緒に来た団体のメンバーもいたはず。

私は思わず走り出していた。
スニーカーの靴底が鳴らす音が、回廊に響き渡る。しかし、誰の気配もない。誰とも出会わない。
はあはあと息を切らせて立ち止まる。それでも目の前の景色は全く同じだった。
黒い柱に床はモノクロのタイル。柱の間から差し込む光はより明るくなったのか、サングラス越しにさえ差し込むようになった。

どうしようもなくて地面に座り込んだ。
ひんやりとしたタイルの上から、天井を見上げた。黒と白の格子柄のタイルも、今や光で真っ白だ。先ほどよりもまぶしくなっている。
まさか、ここから出られない? 
そう感じた瞬間、私は膝を抱えてすすり泣いた。

どのくらい泣いていただろう。
私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ガイドさんだ!
慌てて立ち上がると、声の方向を探す。
するとガイドさんが、廊下の奥から走ってきた。

「間に合ってよかった!」

ガイドさんは荒い息をついて私の目の前に立つと、いきなり私の手首をつかんだ。

「急いでください! いつまでもここにいると戻れなくなりますよ!」

ガイドさんは異国語で腕輪になにか叫ぶと、そのまま走り出した。慌てて私も走り出す。
スニーカーの音が二つ、廊下にこだまする。
どのくらいの時間走ったのかよく分からないが、もう限界だと感じたそのとき。

「ここだっ!!」

ガイドさんは叫ぶと、私を連れたまま回廊の壁面へ飛び込んだ。

*****

「どんなに注意しても、最低一人はこうして行方不明になるんです……なぜ、観光ルートにこんなところが入るのか」
ガイドさんの代わりに来たらしい別のガイドさんは肩を落として、絶望に満ちた声で団体に言った。
「あの、あの時立ち止まった女性は?」
誰かがそっと手を上げて、ガイドさんに尋ねた。行方不明とは穏やかじゃない。代わりのガイドさんは首を振って、哀しげに眉を寄せた。
「あの人は、時間までにはお戻りになれないので、どうかお気になさらず……ガイドの皆さんが総出で探しております」

総出で!?
グループがざわついた。

「では、あの、スマホを落としたひとは……まさか……迷子になってしまうと」
「はい……この回廊は長さが2キロ程とはいえ、一度置いていかれると観光客に流されてしまうんです」

無理もないよな。あのすごい人じゃあな。
そういった声が飛び交う。

「では、一旦皆様はホテルに戻りましょう。事情はホテルに伝えております」

*****

数時間後。
他の人に心配されていた私は、本当に申し訳ないのと、ここに帰れたという安心感で、涙が止まらなかった。

そして、これからの人生、あのガイドさんは嘘はいっていないけど、なぜこんな大事なことを隠しているのか分からなかった。ただ、
「今度ここに来たら、あなたはもう戻れなくなります。来ないでください。このことを話してもいけません」と、強く口止めされた。

今後、二度と私はあの国に立ち寄ることはないだろう。

12/21/2025, 6:39:01 PM

降り積もる想い 2025.12.21

嬉しいこと、哀しいこと、楽しかったこと、時には怒ったこと。
それらは全て、たくさんの想いが降るように積もっていく。
生まれた頃は私のモノクロからセピア色の写真。その数年後には、たくさんのきょうだいと遠足の時に写った、少し色褪せたカラーの写真。みんな半ズボンに半袖シャツといった格好で、ニカッとした笑顔がまぶしい。

20代には妻と共に取った2L版の写真。緊張と期待で表情が硬い。新婚旅行先で、ラベンダー畑で撮ったときの妻のはにかむ笑顔が、今でも私の胸に残っている。

30代になると子供の写真が増えていく。産湯に浸かった頃の写真。はいはいが出来、立ち上がることが出来たときの写真。小学校に入ったときの、校門の前で桜吹雪と共に立つ、妻と息子の笑顔。

40代になるとビデオテープで運動会を録り、それがいつしかデジカメの画像になった。その頃の息子は荒れていたが、カメラを向けると、『しょーがねぇな』と顔を向けてしっかり画面に入ってくれた。
息子の進路を心配したものの、大学に入り、入社したその日に撮った写真はケータイの写メになって、家族に送られていった。

50代。息子は結婚したい人を連れてきた。初対面の時には緊張してガチガチになっていた。その後、食事会を行い、ウェイターさんに頼んで何枚かスマホで写真を撮ってもらう。
コンビニプリントした写真を配ったら、四人とも顔がひきつっているのを見て、私たちは思わず笑ってしまった。
今はすっかり相手は私たち家族に馴染んでいった。私たちも、相手の家族と馴染めただろうと、そう思っている。

60代を過ぎてからはスマホの動画がメッセージアプリの中に増えていく。孫の6ヶ月の写真。3歳の写真。お嫁さんの実家で預かっていることもあるようで、あまり顔が見れず、少し寂しい。
動画だけではなく、小学校に入ってから夏の休みには直を顔を見ることも増える。
年々成長していく孫の動画。そして、実際に会う度に背が伸び、大人らしくなっていく孫。スマホの中は孫の写真と動画がいっぱいになり、SD カード対応のスマホに換えるようになった。
そのカードも何枚もたまっていく。

70代。孫が息子のところに顔を出したらしい。結婚をしたい人を連れてきたのだとか。時の早さを肌で感じながら、私は昔より細くなった手で、そのときの写真を眺めた。やはり、昔のように顔がこわばって撮れているその写真を見て、自分もそうだったと思い、笑ってしまった。

80代。私は暖かいこたつのなかで足を温め、金の刺繍のはいったはんてんを着て、温もっている。古いアルバムから順番にめくって、懐かしい記憶をたどっていた。
アルバムの1ページ1ページ、ケータイやスマホに入っている写真に動画。降り積もっていく想いが重なって、思わず涙が出た。
隣に座っている妻が、そっと私の手を握る。
「これからも写真も動画も取りましょう。まだまだ子供も孫も成長するのですから」
「そうだな。これからも取らなきゃな」
私は手元に合った一眼レフのデジカメを眺めながら、にっこりと笑った。

12/17/2025, 6:56:19 AM

君が見た夢 2025.12.17

きらきらと輝く
みがきあげられた鏡
外界を照らす その明かりに
身を委ねて
たゆたう この身

ゆったりを流れに乗れば
目覚めよと 呼ぶ声がした

9/4/2025, 9:16:06 AM

secret love

 ざわつく休み時間の教室のなか、男子生徒の声が響き渡る。

「皆さん、聞いてください!」

 クラスの人気者、そのスピーカーが教卓に座って、教室全体に聞こえるように叫ぶ。
 ざわついていた教室が静まり返る。

「……さんの好きな人は! 委員長でっす!」

やめて!
やめて!
私は教室の隅の席で縮こまる。

 昨日、ついに私はクラス委員長に告白をした。今まで、誰も言わず秘密にしていたことに、耐えられなくて。
 勇気を出して告白したけど、返事は『ごめん』だった。
 だから、せめて彼には、私が告白したことを秘密にしてと言ったのに。
 早速スピーカーにしゃべったんだ。
 
 クラス中の視線が、私に突き刺さる。
 やめて!
 お願いだから、みないで!
 
 私は机にうつ伏せ、皆の視線からの逃れる。涙が止まらない。
 そのときだった。

「当校の生徒の安全と精神の保証等に関する校則7の2条」

 凛とした、生徒会副会長の声が聞こえた。
 思わず顔を上げると、全校一人気の女子生徒が立ち上がった。クラスメイトの視線が、今度は副委員長の方に向けられる。
 副委員長は淡々と続けた。

「生徒各人は、安定した学校生活を行う権利を有しており、それを妨害してはならない」

 2項の1には……と、続ける副会長の声を聞き、クラス中は黙る。

 どういうこと?
 私も何が何だかわからず、生徒手帳を開いてみた。確かにこの条文が書かれている。

「この、個人的な情報を皆に吹聴して回ることによって起こりうる結果、……さんが安心して過ごすことは難しいと、予測されます。ですから」

 副会長は、スピーカーに向かって言った。

「コンプライアンス違反が発覚したため、……君のこの行動は、担任に報告させていただき、その後の処分を委ねたいと思います」

 教室が再びどよめいた。
「そ、それは、クラス委員長が言え、って言ったから!」
スピーカーが委員長に向かって怒鳴る。
「こんなことになるなんて、思ってなかったんだ!」
 委員長はスピーカーに言い返し、みにくい争いが始まった。

 そのとき、引戸が開いて担任が入ってきた。
 蜂の巣をつついたような騒ぎに眉をひそめながら、担任は教卓につく。
 すると、副会長が担任にレポート用紙を渡していた。


 後日。
 スピーカーの男子生徒とクラス委員長に、反省文50枚が課されたという噂が、おそらく、もう一人のスピーカー女子生徒から流された。
 証拠はなく、特に取り締まられることはなかった。

 多分、副会長にかばわれたんだと思うんだけど……と、私は不安にになった。
 この事で余計、苛められるんじゃないのではないかと。

*****

 こうして、この事件は学校の伝説となり、いつまでも話題に上った。
 原因についても、当時の私の好きな人が、同じクラス委員長だったということまでも語り継がれている。

「あのとき、同じクラスの委員長が好きだったんだよね」
「あのときに副会長、かっこ良かったよね」
 同窓会で出会う度に、あまり親しくもないかつてのクラスメイトたちに、あのときのことを、いつまでも持ち出される。
 
 あまりにも気まずくて、同窓会にいくのをやめた。

8/31/2025, 11:06:36 AM

8月31日、午後5時

学生の時は殺気立つが
社会人になった今では、

9月1日の方が忙しい。

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