エリィ

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1/9/2025, 5:57:03 PM

青白く輝く、レルム星座の双子星アシルとレシアを、
赤く輝く、ミリアル星座一番の雄々しい星リューナルベルトで身を飾り、
空の頂に灯る、北天のポールステルラを冠に抱き、
南天でただ孤高に輝くフォーマルハウトを、
南の天の仲間の星を裾に散りばめて。

星々を飾る白い衣をまとった
天上の少女ユミルは、
白くまたたき流れるその川に足を浸して歩く。
細い足が歩を進めるたびに
星のかけらは彼女の訪れに
歓喜の声を上げながら足元をころころと流れ、
軽やかな雫はユミルの黄金の鈴をちりちりと鳴らす。

ユミルは創生の詩を歌いながら星の河を渡る。
はるか昔、物心がついた時にいたあの光の中へ向かって。

ユミルの歩いたあとには星々の道が広がり、闇色の空は明かりを得る。
彼女が手に掲げた月鏡の明かりは
星のかけらにまたたきを与え、雲を透かして大地に安らかな光を、東から西へと。

ユミルは目的の場所、太陽の神殿に到着する。
炉の中で灯る太陽のひかりはすっかり弱まり、今にも消えてしまいそう。

ここで一人で生まれ、
親もなく兄弟もなくひとりで育った
天上の少女ユミルは
星々に光を与え、大地に安らかな光を与える。

空での己の使命を成したのち、
最期の使命を果たすためにこの場所に。

星の輝きで身を飾ったユミルは
太陽の炉に身を投じて
新たな太陽になることを全て知りながら。

今にも消えてしまいそうな太陽の炉を見ながら、
ユミルは誰も見ることのない微笑をかすかに浮かべ
ゆっくりと太陽の炉に自ら歩んでいった。
震える足が、足輪の鈴を鳴らし、
シャラシャラ音をたてた。

鈴の音が止まる。
彼女のかすかな呼吸の音が、最期の太陽の光を揺らした。
ユミルは大きく深呼吸をすると数歩。
自ら太陽の炉に身を投じた。
みずからのいのちすべてをかけて。


そして大地は太陽を、太陽の巡りで訪れる月の世界、昼と夜を取り戻した。
太陽という一つの星となったユミルの心は、
救われたのだろうか。
彼女はこの生に満たされていたのだろうか。
それを、この世に生きる大地の民は知る由もない。

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「ねえねえお父さん、どうして太陽はあんなにまぶしいの?」
「それはな……」
父親は子供を膝に抱えると、親から伝え聞いた民話を語り出した。


2025.1.9 お題:星のかけら

テイストを変えてみました。

1/8/2025, 1:34:15 PM

お題:Ring Ring ...

たまたま立ち寄ったあるアジアン雑貨屋さんの一角に、いろいろな色の天然石がついた指輪たちが入ったトレーを見つけた。
どれも同じデザインの、細めのシンプルでどんなファッションにも合わせやすそうなシルバーカラー。主張しすぎない大きさの天然石。
やや色が黒ずんているところを見ると、本物のシルバーではある様子。

くすんているのは磨けば何とかなるか。
お値段を見ると1個500円。
この価格でこのデザインなら幾つも買ってみようかと悩む。
リングも細身なので重ね付けもできそう。

せっかくだから自分の誕生石のものでも買うかと思ったけど真っ先に手に取ったのは、
片想いのあの人の誕生石、ターコイズ。
これなら普段付けしてても誰にも分からない、はず。
自分の誕生石のダイヤ……なんてあるわけないから、透明のキラキラした石のついたものを選んだ。

レジに2個持って行って会計を済ませようとしたときに、スマホが鳴った。
アジアンな音楽の流れる中に響く着信音は、使い方がわからない昭和の黒電話。
実は片想いのあの人からの着信音。
慌てて出ようとしたら切れてしまった。

店の外で数度深呼吸をしたあと、折り返しの電話をする。
呼び出し音が、私のドキドキと重なった。

『あっ、あの、折り返し電話ありがとう』

電話越しの声が、なんとなく嬉しそうに聴こえたのは私の気のせいじゃなければいいのに。

1/6/2025, 4:51:35 AM

「日差しが暖かいな」
今日は風があまり吹かない。ここ2、3日冷たく強い風が吹いていたけど。今日は朝から晴れで、気温も上がるとか。いつもより暖かいとは言え、やはり手は冷える。
俺はダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、カイロを揉みながら近所のコンビニに向かっていた。
「でも寒い」
ブルリと身を震わせ、背中を丸める。
「全く……自分で行けよ」
俺はコンビニまでの道をブツブツと愚痴りながら歩いていった。

こうなったそもそもの流れだが、
暖房の効いた部屋で兄と俺は、買い出しをしようと言う話になった。
「はー。こういうときはあれが欲しいよな」
こたつで丸まって、テーブルに顎を乗せていた俺は思わずつぶやいていた。
「そうだな」
兄も同感だったらしい。
「兄さんもか。じゃあ兄さん買い出しに行って」
俺が頼んだら速攻で断られた。
「何を言ってるんだ。先に言い出したお前が買ってくればいい話だろう」
しばらく俺たちはこたつの中から互いを追い出そうとしていたが、なかなか決着がつかない。
「じゃあ勝負だ、勝ったほうが負けた方の言うことを聞くということで」
そう自分の方から言い出して兄に拳で挑み、平手を出されて負けてしまった俺の自業自得である。

「またこの道帰るのか〜。寒い」
買い物を済ませた俺は、手に目的のものを下げて家に帰る。
冬の晴れた空に、小さな雲がひとつ浮かんでいた。


「やはり暖かいところで食べるアイスは美味い」
兄は少し笑みを浮かべながら、バニラをすくっている。
俺はイチゴ味をスプーンですくって口に入れた。暖かい部屋の中で、口に広がる冷たさが気持ちいい。高級カップアイスは実に美味しかった。

おしまい。




おまけ:
冬晴れに 木枯らし休んで 雲一つ

12/15/2024, 12:23:50 PM

お題 雪を待つ

物心ついた頃から、雪はまるで私に会いに来てくれたのだと嬉しくて、いつも空に手を差し伸べて迎えていました。
2月のある日にはいつもよりもたくさん降って、私の足もとに積もったことが嬉しくて、よく遊んだことを思い出します。
そんな日は、雪だるまを作ったり、雪うさぎなどを作ったりしました。
懐かしいですね。
それから私は冬になると、雪が降るのはいつかと待ちこがれるようになりました。

その後十年がたち、私は大人になりました。
大人になると、子供の時のように何も知らないままでは居られなくなり、寒い日の雪がつらいことも知りました。

さらに十年たちました。
この頃になると、一つ一つが大きくてふんわりと降ってくるぼたん雪は、いつの間に冬風に踊る粉雪に変わりました。

さらに時が過ぎ、私も年を取りました。
年々、体の衰えを感じるようになりました。
歳を重ねることで、見たくないものを見てきました。
雪が降ることによっていろいろと困ったことが起きることも知っています。

それでもなお、子供の頃のように無邪気に雪で遊ぶなどということができるかどうか。もう、心と体もついてこないのに。
それでも冬の時期になると、ついつい雪が降るのを待ってしまうのです。

ここ数年、粉雪が姿を見せることも少なくなりました。
雪そのものに会えることもあるかどうかさえ、わからなくなりました。

それでも待って、待って待ち続けて。
今年の冬も、つもらないのかもしれない。
それでも私は、この冬も待ち続けるのでしょう。

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私が住んでいるところはめったに雪がふりません。

12/13/2024, 12:52:35 PM

愛を注いで

窓の縁に置いてある、ずっと前に買ってきた小さな多肉植物の鉢。
ふと目をやると、ほんの少し葉っぱがしなびていた。

『今お水をあげるからね』

弱った小さな鉢に、たっぷりとあふれんばかりに水を注いだ。
少しやりすぎたかな?
鉢から水があふれている。
私はこれで元気になる、と満足していた。

数日後。
葉はぶよぶよになり、色が変わってしまった。

何がいけなかったのか?
どうして?
いくら考えてもわからなかった。

もっと元気になるように。
そう願って愛を込めて水を注いだのだけど。

私の愛は押し付けだったと知るのは後日のこと。

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多肉植物に水をあげすぎると根腐れすることを知らなかったとはいえ、枯らしてしまうと心苦しいのです。

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