エリィ

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ただいま、夏

「あちー」
 ペダルを漕ぐだけで汗がたらたらと流れる。近くだからと日焼け止めを塗らなかったせいで、半袖から延びる腕はじりじりと焼けていた。
「兄さんは鬼だ!」
 この暑さのなか、アイスの買い出しに行かせた兄さんに文句を言う。今回もじゃんけんで負けた。アイス代は負けた方の負担だ。お金ないから、次負けたら安めのカップアイスにしようかと考えてたら、コンビニに着いた。
 中で涼みながら、今日は何にするかとアイスコーナーを眺める。今回はレアな味が置いてあった。コーヒーリキュール味? すごいな。見たことない。
俺は迷わず二つ手に取る。あとは定番のバニラとストロベリーを1個ずつ。
 店員さんの声に見送られて、再び自転車に乗る。急がないと溶けてしまう。

「ただいま」
 俺はダイニングに駆け込んだ。
「お帰り」
 兄さんはダイニングの机にぴったりと上半身を付けて座ったまま、俺の方に顔だけを向ける。
 俺たちは、家に帰ってエアコンを付けたばかりだからまだ効いていない。蒸し暑い。
 既に少し柔らかくなりかけてるアイスを2個冷蔵庫に入れて、兄さんの前にコーヒーリキュール味のアイスを置いた。
 アイスを見ると、シャキッと起き上がった兄は、既に用意してあったスプーンをとって食べ始めた。顔を見るに、ハズレではなかったらしい。しばらく静かだった。ハズレならば口数が多い。
 その間、俺が冷蔵庫から麦茶を出して飲んでいる時にふと兄さんの方を見ると、二つ目のアイスを食べていた。
 俺は奪い返そうとしたが、間に合わなかった。

「名前を書いてなかったからな」
堂々と言う兄さんに、俺は思わず言い返した。
「そんな暇がいつあったと思ってんだよ!」
兄さんはそっと目をそらした。

 悔しかったので、俺も兄さんのアイスを食べようとして、やめた。
いつかの夏も、それがバレてひどい目に遭ったし。
 なんだかんだで、兄さんに勝てたためしはない。後が怖い俺は、今回はおとなしく泣き寝入りした。

8/5/2025, 8:22:51 AM