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4/9/2026, 12:24:34 PM

 風が優しく吹く丘の情景。それは、昔の記憶を思い出させる。

「ねえねえ王子様!好きだよ!」
「ありがとう。僕も大好きだよ、姫様」
「ほんと?じゃあ、」

「これからも、ずっと一緒だよ!」

僕のことが大好きな彼女。そんな彼女に惚れ込んでいた。優しくて、楽しそうで、見ているだけでも癒やしなその笑顔。
 これからも、ずっと。そう言われたとき、もちろん、とそれから続けてたしかにこう返した。

「僕は君が大好きだから、ね」

―――誰よりも、ずっと。
 でもどうしてだろう。少しずつ少しずつ湧いて出た違和感は、今となっては無視できないものになっていた。昔の優しい笑顔はもうしてくれない。楽しい笑顔はまだ残ってるけど、優しいの代わりに入ったのは狂気的な笑顔。

「一緒。絶対に、貴方と私は一緒なの。これからも、ずっと」

君はいつから変わっちゃったのかな。

4/8/2026, 11:34:27 AM

 美しい瞳、美しい顔、美しい胴体、美しい美しい―――彼の体。

「美しい……私の王子様」

彼の体を抱き上げ、壁を背に座らせる。そのまま頬に私の手を添える。安らかに眠る彼は、とてもとても暖かいぬくもりがあるように感じられる。美しい私の王子様。私だけの王子様。

「大好き、大好きですよ……愛しています、愛しの王子様……」

 彼の体を一度抱きしめて、離れる。見えるものは、全て美しいもの。その涙、その血液、その傷、そのあざ、周りに飛び散る血痕でさえ、彼の美しさを物語る、それはとっても美しい。

「愛してます、愛していますのよ。だから―――私をもう、拒まないで、ね?」

光がなくなる瞳、血だらけの顔、傷だらけの胴体、美しい美しい―――彼の体。

「一緒。絶対に、貴方と私は一緒なの」

―――これからも、ずっと。
 閉鎖的空間に残るは、光がない瞳の血塗れた少女と、光を失った瞳の血だらけ少年。

4/7/2026, 11:08:16 AM

 昇る朝日と沈む夕日。これを繰り返して、時は過ぎていく。何もそれは、言葉通りの意味だけじゃない。人間の感情も、希望と絶望を繰り返して、時は過ぎていく。いつしか寿命が来て、そして死んでいく。

「……」

 とある丘から、悲惨な街を見ていた。とある災害によって荒れ果てたそこは、もう見れたものじゃない。昔は、きれいな草原で、そこに経つ家々と、すごくどでかい酒場があって、昼も夜も、常にお酒を飲む人々の賑やかさがあった。それはとても楽しくて、希望に満ち溢れていて。
 しかし今はどうだろう。建物という建物は倒壊して、きれいな草原ではなくどこまでも荒れた荒野。そして少し海に沈む、もともと家のあった場所。もちろんどでかい酒場のあそこも倒壊してる。生きている人なんていなくて、死体ばっかり。賑やかさも楽しさもない、人間の絶望が溢れ出ていた。

「ちょっと?もう仕事は終わったんだから、」
「―――わかってるよ」
「そう、ならぼーっとしてるのやめなさいよ」

 私が所属する救助隊の先輩が、早くしろという目で見てきた。とある災害のせいで荒れたところはまだまだある。こんなところで、確かに止まるわけにはいかないのかもしれない。

「……沈む夕日」

 今見えるのは、昇る朝日なんかじゃなくって沈む夕日。

「ただいま。……いってきます」

こんなことになる前に、もう一度家族の顔と賑やかで楽しい私の故郷が見たかった。

4/6/2026, 12:23:00 PM


「キャッ、そんな君に見つめられると照れちゃうなっ♡」
「ぅわあ、気色悪……そういうのじゃないよ」

 目の前のバカがふざけたように言う。いつもいつもふざける馬鹿野郎―――本当にそう思うことなんてないくせに、こっちの気も知らず抜かしやがって。

「えーそういうのってどんなの~?教えてよぉ」
「はっ、自分で考えれば?」
「教えてくれてもいーじゃん、けちめ」
「ケチでいい」

ぶーぶー、と拗ねるように言う。大体今勉強中だし、面倒な奴に今構ってる暇なんてない。勉強したら?と聞けば、さらにぶーぶーとこっちを批判してきた。いや批判したいのこっちだっつの。
 ぶーぶーぶーぶー、大分うるさいが慣れれば案外いけるもので、時間が経てばむしろただのBGMだと思えてきた。そのまましばらく時間が経って……いつの間にかその声はやみ、じぃっとこっちを見る鬱陶しい視線を後ろから感じる。

「はぁ……。な、に……!?!?!?」
「あ、びっくりした?したよねえ、こんなに顔近いんだもん♪」

 にこ、と笑うバカ。後ろを振り向けば、こいつがめちゃくちゃ近くにいたのである。正直ぶつかってもおかしくないくらいには、近い。思わずのけぞると、にやにやとした顔面が近づいてくる。ふざけた声色に対して、案外目は真面目だった。じとっとまるでなにかを観察するように目をじっくり見られる。

「―――あーもうばかっ、そんなに見つめないで!!!!」
「え~どうしよっかな~♡」

そんなに君に見つめられると、勘違いしてしまいそうになる。そして、思わずドキッとする。優しくてまるで大切なものを見る目で、その奥には熱がこもってるように見えて。君に見つめられると、本当にそう思ってくれたんじゃないかって、思えてしまう。そんなこと、あるわけないのに。

「んふふ」

 優しく笑ってこっちを見つめる君を、ずっと忘れられないだろう。

4/5/2026, 11:31:33 AM

 星空の下で、いつものように座り込んだ。ただぼーっと何も考えずに。

「まーたそんなところに座ってんの?」
「……また、って……アンタだって座りに来てんじゃない」
「そりゃ~星好きとしてはこんな星空が綺麗な場所見逃せんよ」

 そうしていると、奴が後ろから話しかけてきた。奴は毎日毎日あたしがいるこの時間にここへと足を運ぶ。それが本当に星空を見るためなのか、それとも別の何かを求めているのか……あたしにはわからない。
 奴は後ろから私の隣へと移り、座った。毎度毎度なんでこいつは当然の如くあたしのそばに居座ろうとするんだか。奴は上を見て、私は下を見て。しばらくの間沈黙が続いたあとに、奴は話し出した。

「変わらんねえ」
「?変わらない?」
「おう、全く。この星空の綺麗さも、お前さんも」
「……は?」

奴の言葉に、思わず声をもらす。だって、変わらない、って……あたしとこいつの初対面は同じ星空の下で、それはもう十数年……?下手すれば十五年以上も前の話だ。星空も、なによりあたしは人間、そんな何年も経って変わらないわけがない。

「アンタ、頭大丈夫?悪いんじゃない?」
「ド直球ドストレートだねえ。本当に思ってるんだけどなあ」
「……今すぐ頭の病院に行くことおすすめするわ」
「覚えてないの?これと同じぐらい綺麗な星空の下だったのに」

そんな綺麗だっただろうか。もう、覚えてはいない。いや、はなから見てなどいなかった。見る、理由がないから。だって―――あのバカは、未だにあたしらのもとに現れない。あの時代だけは確かに、ここの星空は綺麗だった。

「―――星空の下で出会い、星空の下で過ごし、星空の下で別れる。次会うときも、きっと星空の下で」
「はあ?ナニソレ」
「どこぞのバカが言っていた言葉さ。……ああ、お前さんのことじゃないよ」
「おいあたしのどこがバカだって?」

 いきなり奴がなにか言い出したと思ったら、ナチュラルに貶してきやがった。あたしに失礼だ、ここの先輩はあたしだというのに。

「……あ、もしかしてアンタが昔言ったの?」
「お前さん、自分には許さないのに僕に対しては言うんだ?」
「事実だからよ。バカだもの」
「ええ~?」

 お前さんのほうがバカだと思うけどねえ、なんて言いながら立ち上がり、こっちに手を振りながら言う。

「それじゃあねえ、また星空の下で」
―――それじゃ、いつか星空の下で。

「……うるさいわ、そんな挨拶こんなあたしにわざわざいらないのよ」

奴の別れの挨拶にあのバカの別れの挨拶を重ねてしまう。奴は、もうここに来れなくなるわけじゃないのに、一度経験した寂しさは忘れられない。―――星空の下で、なんて。もう無理に決まってるのに。
 確かに星空の星から一つなくなってもわからないけど、夜空の月が欠けたらわかってしまうんだから。もう二度と、奴もあたしもこの欠けた穴を埋めることなんてできないし、誤魔化すこともわかりやすすぎて不可能なのだ。いずれ―――星空の下で、あのバカのときのように、奴とあたしも別れるだろう。

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