星空の下で、いつものように座り込んだ。ただぼーっと何も考えずに。
「まーたそんなところに座ってんの?」
「……また、って……アンタだって座りに来てんじゃない」
「そりゃ~星好きとしてはこんな星空が綺麗な場所見逃せんよ」
そうしていると、奴が後ろから話しかけてきた。奴は毎日毎日あたしがいるこの時間にここへと足を運ぶ。それが本当に星空を見るためなのか、それとも別の何かを求めているのか……あたしにはわからない。
奴は後ろから私の隣へと移り、座った。毎度毎度なんでこいつは当然の如くあたしのそばに居座ろうとするんだか。奴は上を見て、私は下を見て。しばらくの間沈黙が続いたあとに、奴は話し出した。
「変わらんねえ」
「?変わらない?」
「おう、全く。この星空の綺麗さも、お前さんも」
「……は?」
奴の言葉に、思わず声をもらす。だって、変わらない、って……あたしとこいつの初対面は同じ星空の下で、それはもう十数年……?下手すれば十五年以上も前の話だ。星空も、なによりあたしは人間、そんな何年も経って変わらないわけがない。
「アンタ、頭大丈夫?悪いんじゃない?」
「ド直球ドストレートだねえ。本当に思ってるんだけどなあ」
「……今すぐ頭の病院に行くことおすすめするわ」
「覚えてないの?これと同じぐらい綺麗な星空の下だったのに」
そんな綺麗だっただろうか。もう、覚えてはいない。いや、はなから見てなどいなかった。見る、理由がないから。だって―――あのバカは、未だにあたしらのもとに現れない。あの時代だけは確かに、ここの星空は綺麗だった。
「―――星空の下で出会い、星空の下で過ごし、星空の下で別れる。次会うときも、きっと星空の下で」
「はあ?ナニソレ」
「どこぞのバカが言っていた言葉さ。……ああ、お前さんのことじゃないよ」
「おいあたしのどこがバカだって?」
いきなり奴がなにか言い出したと思ったら、ナチュラルに貶してきやがった。あたしに失礼だ、ここの先輩はあたしだというのに。
「……あ、もしかしてアンタが昔言ったの?」
「お前さん、自分には許さないのに僕に対しては言うんだ?」
「事実だからよ。バカだもの」
「ええ~?」
お前さんのほうがバカだと思うけどねえ、なんて言いながら立ち上がり、こっちに手を振りながら言う。
「それじゃあねえ、また星空の下で」
―――それじゃ、いつか星空の下で。
「……うるさいわ、そんな挨拶こんなあたしにわざわざいらないのよ」
奴の別れの挨拶にあのバカの別れの挨拶を重ねてしまう。奴は、もうここに来れなくなるわけじゃないのに、一度経験した寂しさは忘れられない。―――星空の下で、なんて。もう無理に決まってるのに。
確かに星空の星から一つなくなってもわからないけど、夜空の月が欠けたらわかってしまうんだから。もう二度と、奴もあたしもこの欠けた穴を埋めることなんてできないし、誤魔化すこともわかりやすすぎて不可能なのだ。いずれ―――星空の下で、あのバカのときのように、奴とあたしも別れるだろう。
今日は何もしたくない。勉強も、絵も、動画を見るのも、ゲームも、……この小説を書くことだって。気分が乗らないのだ。でも、したくないんなら―――
「―――それでいい、だったよね」
昔、友人が言っていたことを思い出す。友人は、気分が乗らないなら、したくないならしなければいいと。休めばいいといった。嫌なことをするよりか、いやむしろ休んだほうが、いい方向につながると。
だから、今日の私は休みの日。いい小説を書くのは、明日の自分に任せよう。
「それでいい」
―――無理にする必要なんて、ないのだから。
―――願い事が1つだけ絶対に叶うとしたら、何願う?……あっ、叶えられる願い事増やす系はナシね!?
相棒とも呼べちゃうような仲の親友に昔聞かれた言葉だった。1つだけ、なんて言われるとやっぱり悩むもので、結局俺は決めれなかったし、逆にって聞いたら親友も決めれなかった。まあ一人だけ、答えを出せてたけど。
「……あのときは幸せだったなあ」
津波の防災用に高く高く建てられたビルの屋上に立つ。最近の地震、そしてそれによる津波で、この国は多くの人を失った。今俺の知人で生きているのは、一人だけ。
「あらまたネガティブを含む発言だこと。あなたってば、絶望することしかできないのかしら?そんなんだからどうにも変えられないのよ」
「おいおい人貶しがなんだって?絶望させる側がよく言う。そんなだから誰も変える気にならねぇのさ。俺含めてね」
そう……いわば腐れ縁、宿縁の知人。そして、親友の双子の姉でもある彼女だけが生き残った。
「変えれないのを人のせいにするなんて」
「何も行動してないやつよりマシだと思うけど?」
煽ってくる知人に余裕な表情を作りながらそう返す。するとさらに気に障ったのか、知人のお美しいとされるにっこり笑顔がだんだん崩れてきた。漫画とかなら怒りマークがついてるところだ。
「へぇ~、行動してないやつより、ねぇ?じゃああなたは部下が行動している今、何もしてない様子だったけれど私にわからないだけでそれはそれは有意義なことをしてたんでしょうね?」
「―――願い事が1つだけ絶対に叶うとしたら、何願う?」
「っ!」
弟に関することだと思ってなかったのか、目を丸くして彼女は驚いた。そして、何かを抑えるように口の前に手をおいた。
「1つだけ?」
「そ、1つだけ。……覚えてない?」
あのとき、一人だけ答えを出せていたのは彼女だ。そのときは……もうなんて言っていたか、俺の記憶にはないけども。
「そんな昔のこと、覚えてるわけないじゃない」
「そ?じゃあ、今考えるとするなら?」
「……こんな荒廃した世界前提で考えなきゃいけないの?最悪ね」
「―――1つだけ、なら」
まるで勇気を一歩、振り絞るように震えながらの彼女の言葉は、強い風にさらわれ大事なところは何一つ聞こえなかった。
夜、マンションの庭にて。柵に右腕を置き、左手でお兄様のから少し拝借したワインを入れたグラスを持ちながら、空を見上げる。今日はとてもいい天気で、星々が輝きよく見える。
皆でジュースを飲みながら、夜に家族とピクニックをしていた。
―――ほら、星が綺麗だろう?
「……お父様」
―――ふふ、そうね。お祖父様とお祖母様は、あんなにも遠くから見守ってくれているのよ
「お母様……」
―――え!そーだったの!?おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとー!
「……お姉様……」
星がうっすら輝く夜空で、一等綺麗に流れる光―――流れ星が見えた。
―――あ、流れ星だ~!
―――流れ星といえば、こんなのを知ってる?流れ星が消えるまでに3回願い事を唱えれば叶うという話よ
―――へえ、そんなものがあるのか。
―――うそっ、早く言ってよお母さん!えーっと、えーっと……。
「―――皆と仲良く生きれますように」
お姉様は、ジュースを飲みながらそう3回唱えた。……2回目からはもう流れ星は消えていたけれど。そして悔しがりながら、お姉様はジュースを一気飲みし、お父様とお母様、そして私もそれを笑いながら飲んだ。お父様とお母様は喉が渇いていたようで、一気に飲み干してしまった。対して私は、それほどだったのでちびちびと飲み、一人だけジュースの減り具合が違った。
―――ふふ、お姉様に続かなくていいのかしら?
―――え、そんなこと言われても……じゃあ、
「大切なものの願いが、叶いますように」
―――さすが私の妹!優しい願いだ~。
そんなことを話しながら、お姉様のジュースも徐々に減っていった。イマイチ減らず残っていたのは、私のジュースだけ。
時は3年前。その日、お母様とお父様はお姉様を庇って亡くなり、そしてその2年後、今から1年前にお姉様は私を庇って亡くなった。
「……ん、あれ?」
グラスを持ち、口付けてその中身を飲もうとする。しかし、その中にあるはずのワインはなかった。いつの間にか、この眩しいぐらいに輝く星空を見ているうちに飲み干してしまったらしい。昔の私のジュースとは違って、あっという間に空になってしまった。
空を見上げる。すると、マンションの屋上から落ちる人影が見える。……あれは……。
「―――お義兄、様?」
お義兄様は、お姉様の元婚約者、恋人。看取ることのできなかったお母様とお父様の死をお兄様はその身に刻みながらも乗り越えたし、なんなら私とお姉様を励ましてくれていたものの、お姉様が亡くなってからはなにか事切れたように衰弱していくようになった。そして、数年前はリスカも……。一体、何をして―――いや、わかっているだろう。本当は。
「お兄様、ごめんなさい。私は大切なものに生きていてほしいのです」
お兄様の着地点へ、間に合うように走る。走って、走って、走って―――。
「ッ!!!!」
ゴツン、となにかに上から大きな衝撃を受けた。
「おい、なあ、どうして―――!!」
お兄様の震えるような声はそこで途切れ、私の世界が暗転した。お母様とお父様、それからお姉様も。死んだとき、こういう気持ちだったのだろうか。死ぬのは嫌だけど、それでも。大切なものを守れて、よかったって。そう、思ってたんだろうな。私も置いていかれる側がどんなに辛いか経験しているくせに、それでもこんなことするなんて。―――大切なものには、自分より生きてほしいってまだ思えるなんて。
冷蔵庫にあるお兄様のワインが、寂しそうに残っていたのを思い出した。
久しぶりにみんなで会話できる通話。ここ最近は入試やらなんやらで忙しくしたあと、バカが一発で受からなくて第4とかいったり、生真面目が引っ越しだのなんだのでみんな揃うのは通話でもなかなかなかった。
そんなときだ。そういえば、と通話でバカがみんなに確実に聞こえる声でいった。
「彼女できたんだわ」
「ハイハイハイハイ彼女ね彼女彼女」
「んもー妄想もそこら辺にしときなって」
「そんな嘘ばっかりだからモテないのですよおバカ」
バカの言葉に、俺も自称ギャルも生真面目も無関心で返す。このメンバーに恋人なんてできるわけがないのだから。
「いやマジマジ。今日遅れたじゃん?彼女からメール来てさぁ、それちょっと返すのに時間くってたワケ」
「?」
「……?」
「…………?」
「「「???」」」
「そんなに僕の言葉が信じれないのかお前らは」
バカの言葉にこてんと時間差ありきで全員首を傾げた。いやないないない、ないないない。このバカに恋人、だなんて……。
「そいつは俺より強いんだろうな?」
「うちより金持ってなきゃだめじゃん?」
「私より頭いいのですか?」
「えなに急にそんなモンスターいてたまるか」
ちなみに俺は剣道で何度も世界大会優勝してる。剣なら負け知らずである。そんで自称ギャルは父母の影響でドがつくほどの超人気有名インフルエンサー。スパチャの額はパンドラの箱。そして生真面目は世界で一番IQが高いと言われる大学入学確定で英検と数検どちらも一級。頭が良すぎてテスト時の会話がわけわからん。
「……待って、なんか歩いてない?みんな」
「べぇぇつにぃぃ?今から自転車で最寄りの電車までとかないけどねほんと」
「そーそ今から車出そうとか思ってないよまじまじ」
「ほんとですよまさかそんなバスに乗ろうとしてるわけないじゃないですか」
「ねえ図星じゃん図星じゃんそれは」
「「「いやいやいや全然全然」」」
俺、自称ギャル、生真面目が声を揃えて言う。そうまさかそんな、今からバカの住んでる地域に行こうとか、その彼女のツラ拝んでやろうとか思ってない。彼女がほんとにいいやつなのか見極めようとかもなんも。ただそういえばあそこで買わなきゃいけないものがあった気がする。うんきっと確かそうだそうに違いない。
「ギャルっちもうすぐ電車」
「私はあと20分程度です」
「俺は電車待ち。自称ギャル引っ越してなかったよね最寄り駅同じか?どこ?」
「うちねー」
「待って待って待ってみんな」
「え何が?」
「ちょこっと必要なもの買いに行くだけだようちら」
「そうだよ」
「ちょエイプリルフールエイプリルフール!!嘘嘘嘘!!!僕の真っ赤な嘘!!!!」
……エイプリルフール?バカの一声で俺らが止まる。そして、一斉に喋りだした。
「なぁんだもーエイプリルフールですか」
「エイプリルフールねおっけおっけ把握把握」
「あーエイプリルフールかあそんなのあったねー」
一気にニコニコとした声色になる俺らに、
「こ、怖……怖すぎ、なんで?情緒死んでる?もエイプリルフールやめとこ……」
バカは無自覚にもそう呟いた。
このまま無自覚ではいけない。そう思った俺は、とあること……バカと同じことを言う。
「―――俺に彼女ができたっつったらどう思う?」
「アホってまだあそこの家だよね今会いに行くね」
「来なくていい来なくていいエイプリルフールだっての。だから車出そうとすんなバカ」