私は彼女の墓に花を捧げ、お供え物を添える。
「……私のせいで……ごめん、なさい……ごめんなさい……」
あのとき私が躓かなければ、彼女はまだ生きていたはずなのに。私が彼女の逃げる足を引っ張った。だから、彼女はこの災いで死んでしまった。
そして私は、彼女と会えなくなることを実感していくうちに、彼女との大切な思い出が確かに消えるうちに―――どんどん汚れてしまった。盗みも殺しも、たしかに彼女の尊き命で助けられたもので、確かにしてしまった。
「……」
―――もしも未来を見れるなら。私はあの日現れなかった。私はあの日、彼女の足を引っ張らず唯一人死んだのに。
私は、この未来を見た王様のことも、その末路も。未来を見たところで変わりないことを、まだ知らない。
ずっとずっと白と黒しか私の目には映らない。あの時、色を失った。
「……どこにいるの……」
その答えがもうないことなんて、わかっているのに。それでもずっと私は、色を―――彼を、探している。
君がいない―――無色の世界でもう一度、色を見たい。
「ごめんなさい、私はもう生きれないですね」
彼が安心できるように、にこり笑いながら話した。けど彼の表情は、ずっと暗いまま。……それでも私は、もう生きられない。
病気に負けてごめん、いつも来てくれたのに。一人にさせてごめん、いつもそばにいてくれたのに。私の手に、彼の涙が落ちた。―――ごめん。私はこんなことしかできないから。そばにいてあげられないから。
「もう、そーんな怖い顔しないでください。私が泣かせてるみたいでしょう?」
私の後ろで―――桜散る。
昔の憧れは、今となってはただの夢物語。でも確かに、その夢を見る方が今の現実しか見えない時期よりも楽しかった。
もう私は、夢を見れないけど。
―――夢見る心を持ちなさい。きっと、未来に希望が持てるから。
「……どうやって夢見る心を手に入れればいいのかな」
あなたが死んだその先で、夢なんて。
「時を奪われた、だなんて……」
神様は、今日も届いた紙をどこか苦しそうに破り捨てた。
ここは、雲より高き場所。ヒトが踏みしめる大地よりも、遥か高き天の上。清々しい水色に、清い白色。聖なる力が宿りし美しき場所。そうここはまさしく、神々が住みし天空の世界―――では、ない。聖なる力は淀んで、気づけば邪悪な力に。清い白色は濁った黒色に、清々しい水色は重苦しい赤色に。ヒトが見通す空よりも、遥か低い地の底。ここは、大地より低き場所―――神に合わぬ、地獄。神様である彼は確かに、そこにいた。
「先に奪ったのは君の方だっていうのに」
神様は目を伏せる。それは、先程破り捨てた紙を見ていた。破り捨てた紙とは、神様に向けたとある女の手紙である。未来をください、なんて書いたであろう彼女は、たしかに本当に未来を返してほしいのだろう。―――だが神様に、それをしてやる義理も理由も何もない。むしろ、邪魔をする理由だけはある。
「―――本当に望むなら、いい加減僕を離せよ」
右手と左手。右足と左足。片方動かせばジャラジャラとするそれは、たしかに手錠らしき鎖があった。彼は、閉じ込められている。ほかでもない、時を奪われたなどと言う彼女に。
片方の目は刺され開けられない、手も足も動かせない、耳も片方の聴力は奪われた。そして、心臓も―――あの女は、それこそ時を奪わなかったものの……ほか全てを神様から奪ったのだ。その理由は、恋人を奪われた復讐。
「どれだけ僕を苦しめても、あいつはもう帰ってこれないのに。あいつが君を、僕に託したのに」
あいつの心配は、きっとあの愛し合った女にはもう……復讐しかない女にはもう、届かぬ想いとなってしまったのだろう。