神様へ
どうか、未来をください。
―――時を奪われた女より。
「こんなにも空は綺麗なのに」
私は、醜い。あの人たちがいなくなってから、何もなくなってから変わってしまった。どうしてか、それは空っぽでもとても綺麗なのに、私は空っぽになればとても惨めで醜い。
「……快晴って、なんで綺麗に見えるんだろ」
快い晴れ、か。雲を失ったこの天気は、とても綺麗に見える。まるで、邪魔者がいなくなったみたいに。私の心も、そうだったら良かったのになあ……。
今日も、ただ生きる。快晴の下を、歩く。
「いつか、夢を叶えるために―――遠くの空へ、僕は目指すよ」
そう君は私の前で宣言して笑ったのに。私の前に、夢を叶える前に。叶えられるようになる前に、遠くの空へ、星になってどうするの。君がなりたいのは太陽だったくせに。
「私をおいていかないで……」
彼に手を伸ばしても、それは届かない。……なぜなら彼はもう、遠くの空へと行ったから。
私達民は、いきなり国王に全員呼び出された。誰も彼もが不思議に思っていたそのとき―――それは、突如として脳に流された。流れた理由は、国王が能力を、メモリーを使ったから。
「……ッ」
見たものに、言葉に詰まる。こんなにも、私達は愚かだったのか。苦しい、吐きそうだ。これが私達の末路だなんて―――信じたくない。
「これが儂らの今の未来。災いにて、なにもかも……心までも滅ぶ、未来じゃ」
末路を見せてきた国王様は言う。見せられたのは、今騒がれているとある災いのあとの人々。この国の民が、取る行動。生きるために盗み、生きるために殺し、生きるためにどんな嘘をもつく。プライドも何もない。この国は確かに、世界で一番経済力のある―――素晴らしい、国なのに。
言葉にできない状態とはこういうことだったのか。
*****
「私―――ホント愚かね」
今更、あの頃を思い出しても仕方ない。もうやってしまったのだ。盗みも殺しも嘘も。生きるためならば、やってしまった。一番栄光のある国は、一番栄光と真反対の国民を生み出してしまった。もう誰も、恋も幸せも考えている暇なんてない。
「―――言葉に、できないわ」
だけどたしかに今、私達人間は愚かだった。
春が終わる前、それは見惚れるほどの満開な桜が咲いていた。窓から覗き見るそれは、とても幻想的で、幻のようだった。―――彼女みたいに。
「もう、そーんな怖い顔しないでください。私が泣かせてるみたいでしょう?」
にこり、少し桜の花びらの色に頬を染める彼女は、この世で一番綺麗で、幻想的で……儚くて。桜は夏に向かえば散りゆく。彼女も同じように、毎日毎日確かに桜の花びらのように頬を染めて、しかし段々とその回数は減っていって、まるで笑顔なんてなかったように―――彼女は桜と共に散った。今日のように、窓から桜を覗き込む日だった。満開の桜を、これでもかというほどきらびやかな春を背景に、彼女は病室のベッドで倒れ込み、桜が散るとともに……死が、決定した。
家の中から見る満開の桜。昔はこの一本がとてもとても、美しいと、そう思って……だけど、今となってはどこかさみしい。満ちる桜のはずなのに、どこか欠けているように思えてしまうのだ。
「……」
こんなにも春爛漫と、去年と同じ美しさがあるというのに―――君だけがどこにもいない。