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 春が終わる前、それは見惚れるほどの満開な桜が咲いていた。窓から覗き見るそれは、とても幻想的で、幻のようだった。―――彼女みたいに。

「もう、そーんな怖い顔しないでください。私が泣かせてるみたいでしょう?」

 にこり、少し桜の花びらの色に頬を染める彼女は、この世で一番綺麗で、幻想的で……儚くて。桜は夏に向かえば散りゆく。彼女も同じように、毎日毎日確かに桜の花びらのように頬を染めて、しかし段々とその回数は減っていって、まるで笑顔なんてなかったように―――彼女は桜と共に散った。今日のように、窓から桜を覗き込む日だった。満開の桜を、これでもかというほどきらびやかな春を背景に、彼女は病室のベッドで倒れ込み、桜が散るとともに……死が、決定した。
 家の中から見る満開の桜。昔はこの一本がとてもとても、美しいと、そう思って……だけど、今となってはどこかさみしい。満ちる桜のはずなのに、どこか欠けているように思えてしまうのだ。

「……」

 こんなにも春爛漫と、去年と同じ美しさがあるというのに―――君だけがどこにもいない。

4/10/2026, 11:25:46 AM