「時を奪われた、だなんて……」
神様は、今日も届いた紙をどこか苦しそうに破り捨てた。
ここは、雲より高き場所。ヒトが踏みしめる大地よりも、遥か高き天の上。清々しい水色に、清い白色。聖なる力が宿りし美しき場所。そうここはまさしく、神々が住みし天空の世界―――では、ない。聖なる力は淀んで、気づけば邪悪な力に。清い白色は濁った黒色に、清々しい水色は重苦しい赤色に。ヒトが見通す空よりも、遥か低い地の底。ここは、大地より低き場所―――神に合わぬ、地獄。神様である彼は確かに、そこにいた。
「先に奪ったのは君の方だっていうのに」
神様は目を伏せる。それは、先程破り捨てた紙を見ていた。破り捨てた紙とは、神様に向けたとある女の手紙である。未来をください、なんて書いたであろう彼女は、たしかに本当に未来を返してほしいのだろう。―――だが神様に、それをしてやる義理も理由も何もない。むしろ、邪魔をする理由だけはある。
「―――本当に望むなら、いい加減僕を離せよ」
右手と左手。右足と左足。片方動かせばジャラジャラとするそれは、たしかに手錠らしき鎖があった。彼は、閉じ込められている。ほかでもない、時を奪われたなどと言う彼女に。
片方の目は刺され開けられない、手も足も動かせない、耳も片方の聴力は奪われた。そして、心臓も―――あの女は、それこそ時を奪わなかったものの……ほか全てを神様から奪ったのだ。その理由は、恋人を奪われた復讐。
「どれだけ僕を苦しめても、あいつはもう帰ってこれないのに。あいつが君を、僕に託したのに」
あいつの心配は、きっとあの愛し合った女にはもう……復讐しかない女にはもう、届かぬ想いとなってしまったのだろう。
4/15/2026, 1:24:31 PM