人には誰しも叶えたい願いがある
だってそれが無ければ、死んでいるのと同じだから。
歌が上手くなりたいから
可愛くなりたいから
モテたいから
みんなそれぞれの願いがある。
とすれば私の願いは、痛い思いをしたくない。
ただそれだけなのだ。
ゴミ溜りの部屋と、怒号が飛び交う家の中で
私はひっそりと息をする。
こうして隠れていれば、痛い思いをしなくてすむから。
_
「どうしてここにいるの?」
帰り道から少しそれた神社の境内が私のお気に入りの場所。ここは守られている感じがする。
冬、知らない女の子に声をかけられた。
「家に帰りたくないから」
「私と同じだ」
ヨレヨレの服に、細い腕。
私と同じにおいがした。
_
「もうここにいたくないよ」
痛々しい痣と、大粒の涙。
ジメッとした空気の梅雨の時期だった。
いつもの境内で顔をあげない彼女。
「じゃあ、逃げよう」
手を掴んだ。
策はなかった。
咄嗟に出たんだ、その言葉が。
私一人だったら、絶対に願わなかった。
余計なことをするといつだって痛い思いをするから。
それでも彼女がここにいたくないと願うなら、私はどこにだって一緒に行ける。
ひたすら走って、誰もいない場所へ。
楽しかった。まるで檻から開放されたような気分で。
その逃避行の終わりが、どんな凄惨なものでも。
あの時だけが私の生きていた時間だった。
_No.13 祈りの果て
切り離された世界
はあっ…はあっ…
こんなにも人がいるのに、音だけが聞こえない。
私は渋谷のスクランブル交差点を早足で駆けている。
冷や汗と、バクバクと鳴る心臓と自分の息づかいだけが耳に届く。
異様だ。
機械の音はする。人の発する音だけが聞こえない。
怖い。
前から人の大群が押し寄せてくるが私はそれを避けることは無い。透けるのだ。
皆私が見えていないし、ぶつかることもない。
私はいったいいつからここにいるのだろう。
友達と渋谷で遊んで
流行りのスイーツとか、持ってるお金分だけ全部使って
それで…
そうだ、屋上だ。
嫌に空を飛ぶ時の感覚が残っている。
認めたくないが、確かめに行く他ない。
最後の記憶をたどってビルの合間を抜けるとそこには、
手向けられた素朴な花と、
頭に包帯を巻いて、痛々しいほどの傷がある
世界でたった1人だけの私の友達が泣きながらうずくまっていた。
_No.12 誰か
永遠だと思った
寝て、起きて
また変わらない日常が続いて。
この世界には私たちしかいなくて、
あとは敵だらけ。
終わらせたかった。
心の底で、終わることなんかないって思ってたから。
だから、あの時間。
あの雲が分厚くて生ぬるい空気の中、空を飛ぶ時間が
どうしても長くて
ゆっくりで
永遠に思えた。
隣には唯一の味方。
あぁ、私はなんてことを
_No.11 永遠なんて、ないけれど
晴れなかったから
「こういうのは晴れか雨が相場じゃない?」
「あはは、最後まで私たちらしいね」
屋上。
裸足と、遠くに見える地上。
2人は吹き抜ける風にも臆せず、笑いあう。
隣に立つ貴方の涙の跡はもう見えない。
手をぎゅっと握って、縁に立つ。
やっと、やっと
終わる
隣にあなたがいる
一緒にいてくれる
飛ぶのも怖くない
最後の記憶は、分厚い雲が遠ざかっていく景色と
あたたかい貴方の手の温もり
これは、最後まで不幸だった2人のおはなし
_No.10 cloudy
きみにあいたい
風が桜の葉をさらさらと揺らす
ふわりと舞う君の髪を思い出した。
「卒業おめでとう!」
はれてきみは、私の生徒ではなくなった。
春、夏、秋、冬。
ずっとずっと君が舞う姿が目に焼き付いて離れない。
友人に囲まれて涙目の君を遠くから見ることしか出来ない。
私はずるい大人なのだ。
卒業式前日。君が何を言おうとしてたかわかってしまった。だから、最後に教師として君の未来を潰さないように、と。自ら突き放した。
翌日
君の髪は、短くなっていた。
もう、舞うことはない。
桜も散ってしまった。
そうして、君のいない春が過ぎていく。
_No.9 さらさら