air

Open App
11/13/2025, 1:57:35 PM


人には誰しも叶えたい願いがある
だってそれが無ければ、死んでいるのと同じだから。

歌が上手くなりたいから
可愛くなりたいから
モテたいから

みんなそれぞれの願いがある。

とすれば私の願いは、痛い思いをしたくない。
ただそれだけなのだ。

ゴミ溜りの部屋と、怒号が飛び交う家の中で
私はひっそりと息をする。
こうして隠れていれば、痛い思いをしなくてすむから。
_

「どうしてここにいるの?」
帰り道から少しそれた神社の境内が私のお気に入りの場所。ここは守られている感じがする。

冬、知らない女の子に声をかけられた。

「家に帰りたくないから」
「私と同じだ」

ヨレヨレの服に、細い腕。
私と同じにおいがした。
_

「もうここにいたくないよ」

痛々しい痣と、大粒の涙。
ジメッとした空気の梅雨の時期だった。
いつもの境内で顔をあげない彼女。

「じゃあ、逃げよう」

手を掴んだ。
策はなかった。
咄嗟に出たんだ、その言葉が。

私一人だったら、絶対に願わなかった。
余計なことをするといつだって痛い思いをするから。
それでも彼女がここにいたくないと願うなら、私はどこにだって一緒に行ける。

ひたすら走って、誰もいない場所へ。
楽しかった。まるで檻から開放されたような気分で。

その逃避行の終わりが、どんな凄惨なものでも。
あの時だけが私の生きていた時間だった。


_No.13 祈りの果て

10/3/2025, 11:19:10 AM

切り離された世界


はあっ…はあっ…
こんなにも人がいるのに、音だけが聞こえない。
私は渋谷のスクランブル交差点を早足で駆けている。
冷や汗と、バクバクと鳴る心臓と自分の息づかいだけが耳に届く。

異様だ。
機械の音はする。人の発する音だけが聞こえない。

怖い。

前から人の大群が押し寄せてくるが私はそれを避けることは無い。透けるのだ。
皆私が見えていないし、ぶつかることもない。

私はいったいいつからここにいるのだろう。

友達と渋谷で遊んで
流行りのスイーツとか、持ってるお金分だけ全部使って
それで…

そうだ、屋上だ。
嫌に空を飛ぶ時の感覚が残っている。
認めたくないが、確かめに行く他ない。
最後の記憶をたどってビルの合間を抜けるとそこには、

手向けられた素朴な花と、
頭に包帯を巻いて、痛々しいほどの傷がある
世界でたった1人だけの私の友達が泣きながらうずくまっていた。


_No.12 誰か

9/28/2025, 3:21:51 PM

永遠だと思った

寝て、起きて
また変わらない日常が続いて。

この世界には私たちしかいなくて、
あとは敵だらけ。

終わらせたかった。
心の底で、終わることなんかないって思ってたから。

だから、あの時間。
あの雲が分厚くて生ぬるい空気の中、空を飛ぶ時間が
どうしても長くて
ゆっくりで

永遠に思えた。

隣には唯一の味方。


あぁ、私はなんてことを



_No.11 永遠なんて、ないけれど

9/23/2025, 9:31:05 AM

晴れなかったから


「こういうのは晴れか雨が相場じゃない?」
「あはは、最後まで私たちらしいね」
屋上。
裸足と、遠くに見える地上。
2人は吹き抜ける風にも臆せず、笑いあう。

隣に立つ貴方の涙の跡はもう見えない。
手をぎゅっと握って、縁に立つ。

やっと、やっと
終わる

隣にあなたがいる
一緒にいてくれる

飛ぶのも怖くない

最後の記憶は、分厚い雲が遠ざかっていく景色と
あたたかい貴方の手の温もり



これは、最後まで不幸だった2人のおはなし

_No.10 cloudy

5/28/2025, 1:31:16 PM

きみにあいたい


風が桜の葉をさらさらと揺らす
ふわりと舞う君の髪を思い出した。


「卒業おめでとう!」
はれてきみは、私の生徒ではなくなった。

春、夏、秋、冬。
ずっとずっと君が舞う姿が目に焼き付いて離れない。

友人に囲まれて涙目の君を遠くから見ることしか出来ない。
私はずるい大人なのだ。

卒業式前日。君が何を言おうとしてたかわかってしまった。だから、最後に教師として君の未来を潰さないように、と。自ら突き放した。

翌日
君の髪は、短くなっていた。

もう、舞うことはない。
桜も散ってしまった。

そうして、君のいない春が過ぎていく。


_No.9 さらさら

Next