人には誰しも叶えたい願いがある
だってそれが無ければ、死んでいるのと同じだから。
歌が上手くなりたいから
可愛くなりたいから
モテたいから
みんなそれぞれの願いがある。
とすれば私の願いは、痛い思いをしたくない。
ただそれだけなのだ。
ゴミ溜りの部屋と、怒号が飛び交う家の中で
私はひっそりと息をする。
こうして隠れていれば、痛い思いをしなくてすむから。
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「どうしてここにいるの?」
帰り道から少しそれた神社の境内が私のお気に入りの場所。ここは守られている感じがする。
冬、知らない女の子に声をかけられた。
「家に帰りたくないから」
「私と同じだ」
ヨレヨレの服に、細い腕。
私と同じにおいがした。
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「もうここにいたくないよ」
痛々しい痣と、大粒の涙。
ジメッとした空気の梅雨の時期だった。
いつもの境内で顔をあげない彼女。
「じゃあ、逃げよう」
手を掴んだ。
策はなかった。
咄嗟に出たんだ、その言葉が。
私一人だったら、絶対に願わなかった。
余計なことをするといつだって痛い思いをするから。
それでも彼女がここにいたくないと願うなら、私はどこにだって一緒に行ける。
ひたすら走って、誰もいない場所へ。
楽しかった。まるで檻から開放されたような気分で。
その逃避行の終わりが、どんな凄惨なものでも。
あの時だけが私の生きていた時間だった。
_No.13 祈りの果て
11/13/2025, 1:57:35 PM