「星が綺麗ですね。主様。」
「そうだね、ラムリ。」
ボクは星が好きだ。
でも大好きな人と見る星はもっと好きだ。
「あ、あれ、水瓶座じゃないですか?」
「え、どこ?」
「ほら、あそこですよ。」
「こっからじゃわかんない。」
ボクの近くに来る主様。
ふわっと香ってくるシャンプーの匂い。
「あそこです。あそこ。」
「あ、本当だ。じゃあ次は水瓶座の物語作ろっか」
「はい。主様。」
色々語り合って、メモ帳に書く。
時々絵も描いたりして、物語を紡いでいく。
「水瓶座はね、私の星座。」
「そうなんだ!ボク、メモしておきます。」
「ふふ、次はどんな物語作ろうか。」
そう言って、また星空を見る主様。
その横顔が綺麗で、また、瞳に映る星も綺麗で。
「ね、主様。」
「ん?」
「1年後…いや、10年、100年後も一緒にこうやって星を見ましょうね。」
「うん。もちろん。一緒に見ようね。」
微笑む主様は星より綺麗で。
ボクの目を奪っていく。
「これからも一緒です。主様。
ボクはずっと、ここにいますからね。」
初恋の日。
それは今日だと思う。
オレの主様に出会った日。
「初めまして。アモン…さん。」
背丈が小さくて、すぐにでも壊れそうなくらい脆く儚い主様。
「初めましてっす。主様。」
「これからよろしくお願いします。」
優しい声色で微笑む。
その瞬間、恋に落ちる音がした。
「えっと…顔赤いけど大丈夫ですか…?」
敬語で話す主様。
なんて礼儀正しい方なのだろうか。
「あ、だ、大丈夫っす!
ありがとうございますっす。」
「ふふ、アモンさんは庭師と聞いたのですが、良ければアモンさんの育てているお花を見てもいいでしょうか?」
控えめに聞いてくる主様。
少し頬を染めて見てくる。
なんと愛らしいのだろうか。
「もちろんっす。案内するっすね。」
この方に贈りたい。
この方に見てもらうために、オレは育てたんだ。
「主様。」
「なんでしょうか…?」
「良ければ、受け取って欲しいっす。」
秋の夕焼けに煌めく金木犀。
オレの初恋の日。
それは金木犀のよく香る秋の日だった。
明日世界が終わるなら、なんてよくあるけど。
本当にそうなったら私はどうするのだろう。
いや、答えなんて1つ。
「ラトと一緒に死ぬ!」
「おや、どうされましたか?
いきなりそんなことを言って。」
ラトは紅茶を注ぎながら言う。
「んーとね、今日友達に明日世界が終わるならどうする?って聞かれたの。それの答えをずっと考えててね。」
友達なんていないけど、ラトに心配されないように友達がいるってことにしてる。
「それで…私と一緒に死ぬ。って言ったのですね」
「そう!」
だって私の人生の全部はラトだもん。
私の全部をラトに注いできた。
出会った日から、ずっと。
私にはラトしかいないって思ってる。
「くふふ、それはそれは。とても嬉しいです。」
ラトはニコニコ微笑んでいる。
そんな彼を見て私も笑う。
「ずーっと一緒って約束したもんね。ラト。」
「ええ。約束しましたね。私は嘘をつきません。」
「ふふ、わかってる。嘘つかないもんね。」
ラト以外何もいらない。
ラトがいれば私は生きれる。
「ね、ラト。」
私は彼が大好きだ。
それも依存形で。
ラトもそうだ。私に依存してる。
「はい。あるじさま。」
私の耳に彼の吐息がかかる。
「すきっていって?」
「ふふ…すきですよ。あるじさま。」
彼の声と体温に包まれて。
私は死にたい。
「わたしもだいすき。ラト。」
一生、死ぬまで離さない。
「君と出逢って私は変われたよ。」
そうベリアンに伝えた。
そうしたらベリアンはびっくりしたように
目を開いて涙を零していた。
「え、え?!ベリアン?」
どうしたの?と声をかけると
「嬉しいんです…そう言って貰えて…」
「そう…なの?」
本当のこと言っただけだよ。
私はあなた達に出逢えて本当に良かったと思った。
「私はベリアン達にあってなかったら死んでたと思うの。」
私は話を続ける。
ベリアンは静かに泣きながら聞いた。
「だからね、出逢ってくれてありがとう。」
「私も…主様に出逢えて良かったです。本当に…」
ベリアンはどの執事よりも長くいるから、
色々な死を見ているから。
「それは良かった。」
だから、泣かないで。ベリアン。
どうか笑って。一緒に紅茶を飲もう?
そう言って微笑むとベリアンは少し目を見開いて、にっこりと笑った。
「はい。主様。」
これからも色々な別れと出逢いが来るだろう。
でも彼らがいれば私は怖くないと思う。
変わらず私を受け入れてくれると思うから。
大丈夫。ずっと一緒にいるよ。
「ねぇ、ラト。」
「はい、なんでしょう。主様。」
今日の主様はかまって欲しいようです。
私に抱きついて離れない。
「私だけのラトだよね?」
「はい。もちろんです。」
目の周りが赤い。
泣いていたのでしょうか。
「じゃあなんでミヤジの方優先したの。」
私もラトのこと呼んだでしょ。
と怒る主様。
「それはそれは、すいません。
ミヤジ先生の方は何か急ぎのようだったので…
でもそのあとちゃんと主様のとこ行きましたよ。」
「後じゃダメなの。私が呼んだらすぐ来てよ。」
「ふふ、分かりました。」
すぐに情緒不安定になる。
耳を澄ませば、
少し早くなった主様の鼓動がよく聞こえる。
「笑わないでよ。」
あぁ、泣き出してしまった。
可愛いですね。
「すいません。主様。」
主様が可愛くて。
と言うと顔を胸に擦り付けてきた。
「らときらい。」
「おや、私は主様のこと好きですよ。」
「きらいだもん。」
「では離れますか?」
そう言って抱きしめている腕を少し緩める。
「いやだ…なんで…。」
「では、嫌いなんて、言わないでください。」
「うん…わかった…らとすき、すき。」
「はい。主様。私も好きですよ。」
甘く囁くと主様は安心した顔で笑う。
「らとはわたしだけのもの。」
さらに抱きついてくる主様。
「そうです。私は主様のものですよ。」
「うん…ずっとわたしの、わたしのもの。」
「くふふ…。」
こんな小さくてか弱い主様。
目を真っ赤に腫らして見てくる顔も、
目を潤めて私を見る顔も、
光を宿さない目で私を見る顔も、
どれも全部愛おしい。
少しして、頭を撫でていると主様は寝てしまった。
「あぁ、寝てしまいましたか…」
では、私もここで寝てしまいましょう。
誰にも邪魔されない。
この愛おしい寝息を聴きながら。
私は主様が居なくならないように、
強く抱きしめて、眠りについた。