「一緒に旅しよ。」
「え…?」
「これから2人でさ。」
君は訳も分からず困惑していた。
「僕ね、疲れちゃった。」
「そ、そう…なの…?」
「うん。だからね、旅しようと思う。」
「なるほど…?」
「で、その旅についてきてくれない?」
「なんでよ?!」
「だって僕1人じゃ寂しいもん。」
旅なんてのはただの言い換え。
本当は君と一緒にいなくなりたいだけ。
「はーぁ。分かったよ。」
「え…」
「僕一人で行ってくる。」
そう言うと君は僕の服の裾を握ってきた。
「一緒にいくよ。」
「…ふふ、椿ならそう言ってくれると思ってた。」
「まぁ、雪のわがままには慣れてるからね。」
これから一緒にしよう。
終わりなき旅を。
「ごめんね」
紙に一言、そう書いてあった。
僕の彼氏は、人気者だった。
「優太!」
「あ、遥斗…」
いつも元気で明るい遥斗に、僕は惹かれていった。
「一緒にキャッチボールしよーぜ!優太!」
「あ、うん…」
こんな暗い僕にも明るく接してくれる。
唯一の友達だ。
そんな彼に、言った。
ある冬の日。
「僕、遥斗のこと好きかもしれない。」
雪に紛れて落ちていく僕の言葉。
「え…」
遥斗は顔を真っ赤にして、僕を見ていた。
「ま、マジ…で…?」
「うん。」
大きく頷くと、遥斗は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃ、俺たち両思いってことだな!」
「!」
遥斗も、僕のこと…
嬉しかった。
なんでも出来そうなくらい、体が軽かった。
でも、ここから苦しくなった。
「遥斗…怪我してる、大丈夫…?」
「ん?あぁ、大丈夫!」
日に日に怪我が増えていく遥斗。
明るく笑う彼だけど、僕は知ってる。
「そ…っか、これ、絆創膏。」
「ありがとな!」
これくらいしかできない。
こんなことしかできなかった僕は自分を恨んだ。
「なんで…」
そんなやり取りがあった数日後。
遥斗は、自殺した。
もう最愛の人はいない。
「ごめんね、なんて…」
僕はこれからどうやって生きていけばいいんだ。
「置いていかないでよ。」
僕は目から涙がこぼれ落ちた。
「今日もまた暑くなりそう。」
そう言った君は長袖。
僕は半袖なのに。
「長袖…暑くないんですか?」
「暑くないよ。」
「でも…」
「大丈夫。」
先輩は綺麗な人だ。
黒の長い髪に黒曜石みたいに綺麗な瞳。
まるで雪なのかと思うくらい白い肌。
どれをとっても、綺麗だ。
「僕が見てて暑くなりそうです…」
「ふふ、後輩くんもまだまだだね。」
「僕がおかしいんですか?!」
この人はどこか抜けてる。
「ふふふ、ごめんね。」
「もう、ほら、先輩。」
「ん?」
「アイス、一緒に食べませんか。」
長くなったけど、僕が言いたかったのはこれだ。
「今日も迷える子羊たちに救いを…」
そう祈ってる時に、声をかけられた。
「あの、シスター。」
「どうされたのですか。迷える子羊。」
こんな古びた教会にやってくるくらいだから、
さぞ懺悔したいことがあるのでしょう。
「僕、死後の世界を考えてしまうんです。」
「死後の世界。」
死んだらどこに行くのか。
不安は多いでしょう。
そう言うと彼は口を開いて言った。
「はい。僕、天国と地獄について、
考えてしまうのです。」
「天国と地獄…」
こんなパッとしない悩みだとは思ってなかった。
天国も地獄もどちらも何も無いのだから。
そう私は考えている。
「では、貴方には私の考えをお送りしましょう。」
私はそういい、あることを言った。
「天国も地獄も人が作った空想です。」
夢のない答えだが、これが私に出せる答えだ。
私の崇拝していた神も何も無い。
ただ、
何も無い私に出せる答えがこれでしか無かった。
「どうか、迷える子羊たちが救われますように。」
そう、月に願いを送る。
この子羊の中には私も入るだろう。
「私が分からないばかりに。」
人を傷つけてしまった。
その度に謝っても、受け入れられない。
謝罪は重ねれば重ねるほど、薄くなる。
「ごめん。」
何度そう言ったことだろうか。
私は、よく分からないから。
全部教えてもらわないといけない。
でも、教えてくれなかったのは貴方達だ。
それなのに。
いや、やめておきましょう。
こんなことを思っても、意味は無いのだから。
だって、もう謝る人もいない。
「あぁ。なんて私は愚かなのでしょうか…」
だから、私は少しでも救われるように。
この罪は消えないだろう。
でも、罪を軽くすることはできるかもしれない。
どうか、お許しください。
神様。
そんな叶わぬ願いを月に送る。