今は外。
頑張って凜の家を出て逃げている。
外は大雨だ。
「どこか、どこか雨宿りできるところ…」
近くにあった屋根の下に避難した。
「寒いな…」
誰かに助けを求めたい。
どうすれば、いいだろうか。
何も持っていない。
どうしようか。
「あれ?先輩?」
「ぁ…」
聞いたことのある声、
私の聞きたかった声。
「どうしたんですか?びしょ濡れですよ?!
はい!タオルどうぞ!」
「い、いや…いいよ。大丈夫さ…」
「そんなこと言って…風邪ひいちゃいますよ?」
あぁ。なんと優しいのだろうか。
この優しさに甘えたら、私は…
「……………ねぇ、椛くん。」
「どうしました?」
「良かったら、君の家に行かせてくれないか。」
そう言った瞬間。
降り止まない雨はより一層、雨音を強くした。
拝啓。あの頃の私へ。
これは、君がくれた手紙のお返事だよ。
毎日楽しんでますか?
楽しく毎日過ごしてるよ。
ゆるゆるな友達に。憧れの先輩に。
毎日充実してるよ。
元気に過ごしてますか?
バリバリに元気だよ。
病気になったこともないんだ!
好きな人は見つかりましたか?
うん。見つかったよ。
皐月先輩って言うんだけどね。
かっこいいんだ。
いろんな景色を撮ってください!
もちろん!たくさん撮るよ。
君に届いているといいな。
敬具。
小さかった私へ。
早乙女椛。
裏を見ると、小さく書かれてあった。
もみじまんじゅうのたべすぎはだめだよ!
幼い字で書いてあった。
「ふふっ。もみじ饅頭の食べ過ぎはしてないよ。」
助けて、と言えたらどれほど良かっただろうか。
またここにいる。
また、凛の家に閉じ込められている。
「ね、皐月。」
「な、なんだい…凛…。」
「どうして、私から逃げるの。」
「逃げてなんかないさ…」
逃げるわけが無い。
逃れられないのだから。
もうとっくのとうに諦めているよ。
だけど、
あの甘くて蕩けそうになるくらい気持ちのいい。
アレが欲しいんだ。
「皐月は何をして欲しいの。」
あぁ、分かった。
そう言って凛の手に持っているのはムチ。
痛いことを、されるんだ。
それなのに思考と相反して
私の体はいつの間にか火照っていた。
「悪い子にはお仕置しないとね?」
あぁ、この快楽に逃れられないんだ。
ごめん、椛くん。
私は君のことが好きだよ。
今日は先輩から放課後デートに誘われた。
いつも私から誘っていたからとても嬉しかった。
「え、ほ、本当にいいんですか…?!」
「あぁ。それとも他に先約があったかな?」
「い、いえ!!ありません!!」
嬉しすぎて心臓がバクバクしてる。
この音…バレないといいけど…
「あそこの新作が飲みたくてね。」
一緒に飲まないかい?と聞かれ、
「はい!!!」
「椛くんは元気がいいね。」
「そこが取り柄なんで!」
優しく笑ってくれる先輩。
たわいのない世間話をしながらカフェに向かう。
あぁ、明日もこんな感じでデートに行けたら…
ね、先輩。また今度…
いや、
また明日にでもデートに行きませんか?
「先輩の瞳は硝子みたいに
透き通ってて透明で綺麗。」
先輩の瞳に映る景色が綺麗で。
先輩の横顔ばかり撮ってしまう。
こんなにも景色が綺麗に映るのか。
写真を撮らないと、勿体ない。
ぜひみんなに見せてあげたい。
だけど、この瞳をもう少し独り占めしたい。
そう椛くんは言った。
硝子みたいに透き通ってて綺麗。
なんて。
君にそう見えているならよかった。
本当の私の瞳は、
何も映さない、汚れた瞳だから。
でも、君にそう言って貰えて、
少し瞳の汚れが落ちた気がした。