rudy

Open App
9/26/2024, 5:40:58 AM

✳窓から見える景色

田舎の山間部に住む佐藤は、深夜の夜道を車で走っていた。
街灯は少なく、辺りはすっかり真っ暗だ。
今は秋のシーズンというこどで、秋の味覚のキノコ狩りに行っていた。
隣の相席には、袋いっぱいになったキノコを見てほくそ笑む。

どうやって調理をしようか⋯⋯シンプルに焼きキノコや味噌汁は美味い、バター醤油炒めなんかは王道だ。
そんな事を呑気に考えながら走行していると、ふと前方から男女の悲鳴が上がった。

佐藤は、またか⋯⋯と思いつつ、そこにいた男女2人に向かって窓を開けて声をかけてやる。

「おめーら、まーた何やってんだべ!そんな事してっから、幽霊さ怒るだ!」

そう、ここは今流行りの心霊スポットらしい。
そのため他県から若者が後を絶たず、わざわざ田舎の山にやって来るのだ。
そして、突然声をかけられた2人はまたもや悲鳴を上げた。

「「ギャーーーー!出たーーー!」」

なんとも間抜けな声に、佐藤は呆れて言った。

「おめー達の目ん玉は、俺がどんなに写っとるさ?あ?俺はまっこと生きとるわ!」

そうツッコミを入れると、女がガタガタ震えながら佐藤の車の後部座席に指をさす。
そこにはボサボサのカカシが立てかけてあり、気付いた男もヒイッ!と悲鳴を上げる。

「あーー⋯⋯これは、あれさ。畑に刺したやつが古くて取替えてたんだ。大丈夫、ただのカカシだべ」

安心するように言うと、ホッとした表情になる2人。
良かったぁ〜と抱きしめ合う姿に、驚かせたお詫びに
、とっておきの場所を案内しようと声をかけた。

「驚かせて悪かったさ〜お詫びにいいトコ連れてってやるべ!」

「いいトコっすか?もしや新たな心霊スポットなら、もう大丈夫っす!!」

慌てる男に佐藤は、いんやと首を横に振る。

「地元でも知ってるもんがあんまいねぇとこでよ、秋蛍が観れる場所があるだよ。小川に蛍が飛んで、綺麗な場所だべ」

「えっ!この時期に蛍ですか?行きたいです!」

目をキラキラさせた女が行こうよと男を促すと、まあそこなら、と男が頷いた。

「おめーら、車もってるなら俺の車についてこい、車で5分にあるとこさ、安心せぃ」

そして車に乗った2人を確認したあと、先導するように車を走らせていく。
数分でついた先には、蛍が数十匹も舞っていた。

車から降りた2人に、佐藤は窓を開けて聞いた。

「どうさ?綺麗だべ?」

「はい!ありがとうございます!」

「心霊スポットの近くにこんな穴場があるとは、知らなかったっす!」

嬉しそうに言う2人に、うんうんと頷くと、そういえば何か忘れてるような⋯⋯と思いつつも何だったかと思いだそうとする。
2人は少し歩き始めると、暫くして悲鳴が上がった。

「「ヒィッ!!」」

2人が指差し震えている。
その方向には、ボロボロの地蔵が佇んでいた。

「地蔵が!地蔵がっ!!」

「あーーーー!思い出したさ!ここは昔、罪人が首を切られた場所だったべ!安心しんさい、地蔵が守って⋯⋯⋯⋯」

地蔵が守ってると言おうとした時、ドン!と車のボンネットの上にその地蔵の頭だけが落ちてきた。

「「「ギャーーーーーー!!!」」」

3人は叫ぶと、慌ててその場を離れ逃げて行った。

そしてそれ以降、新たな最強心霊スポットとして雑誌に紹介されていたのだった。

9/23/2024, 9:34:42 AM

✳声が聞こえる

パン!という乾いた音と共に、頬に痛みが走る。
平手打ちをされ、口の中で血の味が広がるが、余裕の笑みを崩さず口の端をあげた。

「お前が!お前が王様を誑かしたのよ!!」

「⋯⋯私が誑かしただと?ふっ⋯⋯あははっ!あはっはははっ!」

心底馬鹿にしたように笑うと、再び手を振り上げられるが二度はくらうつもりはない。
王女の手首を掴み止めると、王女にだけ聞こえるように話した。

「私はただ、王様へ“玉座にまだ座りたいのであれば余計な事はしないように”と、お伝えしたまでです」

「なっ⋯⋯!」

「此度の縁談、私を遠方へ飛ばしたかったのは義母上でしょう?」

そっと手首を離し、距離をとると視線を庭園の方へと向ける。
そこには、縁談相手の隣国の姫がお茶会の席に呼ばれ、義兄上である第一王子のユグナーが相手をしていた。
笑談でもしているのだろう、2人は楽しそうでなによりだ。

「ふっ⋯⋯義兄上も、まんざらではない様子」

そう言うと、王女の顔はみるみる歪んでいく。
義兄上が姫を拒絶していれば、まだ王女は怒りを抑えていたかのもしれない。

「では、失礼致します」

さっさと離れようとすると、王女からボソリと声が聞こえた。

「⋯⋯お前も、母親と同じ目にあわせてやるわ」

その言葉に憎悪が沸く。
俺の母親は、この女によって毒殺されたのだ。
王の寵愛により平民から側室になった母は、毎日のようにこの女から嫌がらせをされていた。
そして、母はついに体調を崩し、王の監視の隙をついて毒を盛られたのだ。

ふん、殺れるものならやってみろ。
かつての弱い頃のままではない事を、思い知らせてやる。
聞こえないフリをして自室へと向かう。
一瞬、隣国の姫がこちらを見た気がしたが、あの女もただの駒にすぎない。
義兄上に気付かれる前に、足早にその場を離れた。

9/18/2024, 2:47:47 PM

✳夜景

「なあ、爺さんや」

魔法の修行でコテンパに負かされた俺は、地べたに寝転がりながら、ジジイ⋯⋯いや、師匠の長いローブを掴むと最後の抵抗に転ばせようと、思いっきり引っ張った。

「なんじゃ、己は!」

「いだっ!!」

ガツン!と強く杖で頭を殴られ、ローブを掴んでいた手を蹴り飛ばされた。

「ジジイのクセに動き早えーしっ!」

「はっ!儂に勝とうなんざ500万年早いわ!それにジジイではなく、師匠と言えとあれ程言っとるじゃろが!!」

ガツンと再び頭を杖で殴られると、流石にもう悪あがきはやめて、大の字になって地面に寝転んだ。
だがしかし、稀代の魔道士が魔法を使わず殴るとは魔法使いの名が廃るんじゃなかろうか。

「この小童が、今のお前にはただの杖だけで十分じゃ!」

ドカリと横に師匠が座ると、呆れたように言われた。
修行に明け暮れ、辺りはすっかり真っ暗だった。

「ジっ⋯⋯師匠、俺ほんとに強くなってるんかな?」

ジジイと言おうとしたら、杖を構えた師匠を見て慌てて言い直した。
すると師匠は少し考える素振りをすると、立ち上がり杖を頭上にかざし始める。

「なら、今からする事を真似てみい」

杖の先が青白く光ると、トンと地面を叩く。
すると杖から地面へと魔力が波紋のように広がり、辺り一面の植物が徐々に淡く光始めた。
遠くにある大きな木までもが光りを放ち、目を見張るほど綺麗だった。

「⋯⋯綺麗だな、ジジイにしては⋯⋯いだっ!!」

思わずジジイと言うと再び殴られ、周囲の光が徐々に消えていった。

「ほれ、へばっとらんでさっさと立て!」

杖で足をビシバシ叩かれ、慌てて立ちあがる。

「杖に魔力を貯め、地面に流すイメージじゃ」

言われた通りに、自分の杖を構えて魔力を貯める。
どれくらい貯めれば良いのかさっぱりなのだが、師匠には負けたくない。
さっきコテンパにやられた分の借りは、これで返してやろうと意気込む。
ありったけの魔力を杖に貯めると、トンと地面を勢いよく叩いた。

勢いよく広がる魔力の波紋。
先ほどの師匠よりも、広範囲に植物が光始めた。

「ほおーーー、なかなかやるではないか。じゃが⋯⋯」

師匠が容赦なく杖で俺の足を叩き、地面に倒された。
痛みで師匠を睨み叫ぶ。

「いっだーーー!何すんだ、ジジイ!!」

「お前はアッポか?あ??修行で魔力もあまり無いというに⋯⋯お前のような馬鹿はそこで寝転んどけ!」

そう言うと、師匠は再びドカリと横に座りポツリと呟いた。

「あれは魔力の強さを測る簡単なものじゃ。お前は十分強くなってるさ」

師匠の呟きに嬉しくなり思わず笑みが溢れる。
植物の光が徐々に薄れていく。

「だな。⋯⋯⋯⋯サンキュ、ジジイ⋯⋯ぃっだーーー!」

頭を無言で殴られると、暫く痛みに悶えた。

9/18/2024, 1:33:55 AM

✳花畑

「なんともまあ、滑稽なものだな」

足元一面に咲くシロツメクサの白い花を一つ引きちぎると、ためらいなく握り潰した。

「こうも弱いと、壊したくなる」

遠くにいた王女を一瞥する。
嬉しそうに花を摘む王女の隣で、護衛騎士がこちらに気づき睨みをきかせていた。

「ただ守られるだけの存在というのは、これほどに愚かでしかない」

護衛騎士に見せつけるように、握り潰した花を散らすと配下に命ずる。

「今宵、王女の命を奪う。王様に気づかれては面倒だ、王には静かに眠れるよう催眠効果のある香を用意しろ」

「ははっ!」

下がる配下を尻目に、今度は優しくシロツメクサの花弁を撫でた。
花が傷つかぬように。

「⋯⋯王女の事は嫌いではなかった。ただ⋯⋯王族が何も知らずのうのうと生きるだけでは、この国は成り立たない」

今だにこちらに気づかぬ王女は、ある意味幸せなのだろう。
王子は小さく嘆息すると、静かにその場を去った。

9/17/2024, 9:41:09 AM

✳空が泣く

体を引きずるようにして歩く。
もう、自分の命は長くはない、そう分かっていて傍らに静かに眠る竜の元へ向かう。
この竜もまた、息を引き取っていた。
レビナは竜に覆いかぶさると、静かに撫でた。

「⋯⋯よく⋯⋯頑張ったな⋯⋯」

あたり一面、いく人もの焼け焦げた人の成れの果てが転がっていた。
国と国との醜い戦争、それに狩り出されたのがレビナとこの赤い竜、ランヘルだった。

レビナの腹には剣が深く突き刺され、血が止まらず流れている。
痛みはとうに麻痺し、体の感覚も消えていた。

「そうだな⋯⋯また、あの世で共に空を架けようか」

力なく倒れ込むと、空からポツリポツリと雨が体を濡らす。
レビナは竜にそっと寄り添うと、瞳を閉じた。

Next