✳声が聞こえる
パン!という乾いた音と共に、頬に痛みが走る。
平手打ちをされ、口の中で血の味が広がるが、余裕の笑みを崩さず口の端をあげた。
「お前が!お前が王様を誑かしたのよ!!」
「⋯⋯私が誑かしただと?ふっ⋯⋯あははっ!あはっはははっ!」
心底馬鹿にしたように笑うと、再び手を振り上げられるが二度はくらうつもりはない。
王女の手首を掴み止めると、王女にだけ聞こえるように話した。
「私はただ、王様へ“玉座にまだ座りたいのであれば余計な事はしないように”と、お伝えしたまでです」
「なっ⋯⋯!」
「此度の縁談、私を遠方へ飛ばしたかったのは義母上でしょう?」
そっと手首を離し、距離をとると視線を庭園の方へと向ける。
そこには、縁談相手の隣国の姫がお茶会の席に呼ばれ、義兄上である第一王子のユグナーが相手をしていた。
笑談でもしているのだろう、2人は楽しそうでなによりだ。
「ふっ⋯⋯義兄上も、まんざらではない様子」
そう言うと、王女の顔はみるみる歪んでいく。
義兄上が姫を拒絶していれば、まだ王女は怒りを抑えていたかのもしれない。
「では、失礼致します」
さっさと離れようとすると、王女からボソリと声が聞こえた。
「⋯⋯お前も、母親と同じ目にあわせてやるわ」
その言葉に憎悪が沸く。
俺の母親は、この女によって毒殺されたのだ。
王の寵愛により平民から側室になった母は、毎日のようにこの女から嫌がらせをされていた。
そして、母はついに体調を崩し、王の監視の隙をついて毒を盛られたのだ。
ふん、殺れるものならやってみろ。
かつての弱い頃のままではない事を、思い知らせてやる。
聞こえないフリをして自室へと向かう。
一瞬、隣国の姫がこちらを見た気がしたが、あの女もただの駒にすぎない。
義兄上に気付かれる前に、足早にその場を離れた。
9/23/2024, 9:34:42 AM