rudy

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11/1/2024, 8:47:01 AM

✳理想郷




保守

10/11/2024, 9:38:57 AM

✳涙の理由

「ああ、どうしていつもこうなの!」

手元のまな板には、玉ねぎの微塵切り。
カレーに使う食材で、欠かせないものである。
そして玉ねぎを切ったが最後、止まらない涙と格闘しながら切っていかなければならない。
カレーの難所である。

「あと、少し!あと少しなのよぉぉーー!」

ボロボロと涙を流し、手を止めずに包丁で微塵切りにしていく。
しっかり切り終わると、ふうっと一息。
さあ、これで難所は終わった!と思いつつ鍋に玉ねぎを入れていく。
他の野菜もさっさと切り終えるとコンロに火をつけ炒め始める。
ジュウッという焼ける音に立ち込める野菜の蒸気。
その蒸気が再び自身を襲う。

「いやーーーーー!!目がああああーーー!」

叫びながら炒めお肉もぶち込み、軽く焼色がついたら水とルーを入れていく。
そして、サッ!と封印するように蓋をして、ようやく一安心した。
暫く煮込んで出来たカレーはとても美味しく出来たのであった。

10/9/2024, 8:18:15 AM

✳束の間の休息

「なんです?」

執務室に戻ると、弟のシャロが神妙な面持ちで銀の茶器と茶葉を見比べていた。
眉間には皺が寄り、こちらに気づくと口を開いた。

「姉上、実はこの銀の茶器と茶葉は、王女から姉上にと頂いたものでして」

「王女が?ふっ、珍しい事もあるものだな。で、シャロは何を惑っているのです?」

弟から茶器と茶葉を取り上げると、気にせず部下にお湯を持ってくるよう指示を出した。

「姉上、あの王女ですよ?毒でも盛られてるかもしれないものを口に⋯⋯ましてや、敵の施しほど屈辱なものはありません」

苦渋を噛みつぶしつつも、茶葉を取り返そうと手を伸ばす弟に、ミンシャは深くため息をつき、弟の手を軽く叩いた。

「王女がわざわざ銀の器を用意しているのですよ?その意味をお前は少し考えたらどうです?」

ミンシャは呆れたように言うと、部下が用意したお湯と茶葉を茶器に入れていく。
熱いお湯を注いだ茶葉からは、爽やかな香りが漂った。

「銀の器を用意したからといって何です?姉上は少し王女に肩入れしているのでは?」

弟の言葉に、そういえばそうかもしれないと、ふと思う。
もともと王女は嫌いではないのだ。
こうして、敵である自分にも気を効かせることが出来る器量を持っている。

それにこの銀の器は、毒に触れると変色するのだ。
それを堂々と弟のシャロに渡すということは、もし万が一毒があったとしたら、その矛先は王女に向かうのである。
それは王女を貶めるのに好機となりうる。
だが、今までの王女を見てきた私はある意味で、王女に信頼をも寄せていた。

そう、王女がこんなくだらない方法で私を貶めるはずがないと。

「お前は今まで何を見てきたのだ?私はただ、王女を信頼しているだけです」

「信頼⋯⋯ですか?」

銀の茶器にお茶を注ぐと、躊躇いなくお茶を飲んだ。

「ええ、この私に唯一立ち向かう勇姿にです。そして、最後まで見届けるのはシャロ、お前の役目ですよ」

弟の分のお茶も注ぐと、笑顔で手渡す。
戸惑いつつも受け取る弟は、覚悟を決めたように一気に飲み干した。

「俺が見届けるのは、姉上が勝つ所です」

先ほどとは一変して、殊勝な顔つきになった弟に感心する。

「それでこそ、私の弟です」

弟に足りないものは、覚悟だ。
命をかけるという。

ミンシャは再びお茶を茶器に注ぐと、今度はゆっくり味わうように飲み干した。

10/6/2024, 9:43:32 AM

✳星座

右肩の傷から、ポタリと赤い雫が指先を伝い落ちる。
降り積もる雪に染みをつくりながら、足を引きずるようにして歩く。
背中の黒い翼は同族の烏天狗にやられてボロボロになり、使い物にはならなかった。

「クソがっ」

傍に生えていた大きな木の下に倒れるようにして座ると、ハラリと黒い羽が抜け落ちた。
腹の底から煮えたぎるような怒りと悔しさが出てくる。
このどうしようも出来ない己の黒い翼は、同族から忌み嫌われていた。

黒は災厄。
同族達は皆、茶色い翼だった。

生まれた時から冷遇はされてはいたが、長が代わった途端に襲われ、命からがら逃げてきたのだ。

八雲は肩の傷を抑え、冷たい息を小さく吐いた。
肩の傷は深く、血がなかなか止まらない。
ハラハラと降る雪が身体の感覚を無くしていく。
くだらない人生だった、そう思い目を瞑ろうとした時だった。

「妖怪であるお前がこの木に近寄れるとは、可笑しなものだ」

凛とした声が近づき、身構える。
そこにいたのは、妖怪達の天敵である巫女がいた。
痛む身体で無理やり立とうとして、力が入らず舌打ちをする。

「チッ、殺したけりゃ殺せ⋯⋯どうせ長くはもたん」

忌々しく睨みながら言うと、巫女は薄く笑った。

「私はお前達とは違う」

巫女は木に近づくと、幹に触れた。

「この木は邪な心を持つ者を近寄らせない。ましてや妖怪は近寄りたがらない。だが、お前は違った」

巫女はこちらを向き近寄ると、躊躇いなく巫女装束の袖を引きちぎり、その布で八雲の肩の止血をはじめた。

「くっ⋯⋯人間風情が⋯⋯何のつもりだ?」

「この木がお前を許しているのなら、私はただ従うだけだ」

巫女は長い髪を結んでいた元結を解くと、布を傷口からずれないように肩に巻き付けた。
止血が終わると、巫女は訊ねてきた。

「お前は死にたいのか?それとも生きたいのか?」

「⋯⋯⋯⋯」

まさかの問いに思わず息が詰まる。

同族に裏切られ、奴らは俺を殺そうとしていたのだ。
何度、己の翼が憎いと思っただろう、同族に嫌われそれと同時に味わう、苦痛と孤独。
動揺を隠すように何も応えずにいると、巫女は静かに瞳を見て小さく息をつき、傷がない方の肩へ手を回し腰を支えてボソリと呟いた。

「立て」

一瞬惑いつつも、巫女に寄りかかるようにしてゆっくりと立ち上がる。
自力では立ち上がれない己のなんとも無様な姿に、思わず自嘲が漏れた。

「ふっ⋯⋯無様にも程がある」

込み上げる感情が、卑下なのか怒りなのか分からず、口の端を強く噛むと、鉄の味が口の中に拡がった。

すると巫女は、真っ直ぐ見据えて言う。

「生にしがみつく事の何が無様だ?無様というのは、己を顧みることの出来ぬ愚か者の事。お前は自身を侮りすぎだ」

「⋯⋯⋯⋯」

そう言うと、ゆっくりと歩み始める。
いつしか雪は止み、日が沈んでいく。
空に浮かぶ雲の隙間から覗く星が、普段よりも綺麗に見えた。

9/27/2024, 9:41:29 AM

✳秋🍁

新月の暗闇の中、ヴァンパイアであるノヴェは困っていた。
足元にまとわりつく子犬、そして何故か小さな人間の少女がマントの端をずっと掴んで離さないからだ。

よく見ると少女はボロボロの衣服に異臭を放ち、ガリガリに痩せていた。
そして、子犬も同様ガリガリだ。
おおかた親に捨てられたのだろう、子犬は子供が寂しくないようにと一緒に。

ヴァンパイアは人間と対する存在であるが、流石に子供や子犬までは手を出さない。
というか、出してもメリットが無いので見つけた時はそのまま去ろうとしたのだが、1人と一匹はノヴェを見て嬉しそうに駆け寄ってきたのだ。

そして現在の状況である。

「⋯⋯離せ」

マントを引っ張ると、少女が転けそうになり仕方なく抱きとめる。
少女は悲鳴をあげるどころか、ニコニコとしていた。

「ちっ⋯⋯お前、俺がヴァンパイアだって事分からないのか?」

鋭い牙を見せるが、少女は怯えるどころか首を横に振った。

「はぁ⋯⋯にしても、お前話せないのか?」

少女がこくりと頷くと同時に、ぐぅ~っという音まで聞こえてしまう。
この様子だと何日も食べてないのだろう、足元の子犬も元気がなかった。

今だに握りしめているマントの端は、離すまいと強く握られていて、よく見ると手が少し震えていた。
まあ、無理もない。
人間の、それもか弱い子供だ。

親に捨てられた恐怖や、暗闇にいつ襲われるか分からない状況。
今まで生きてこれたのが不思議なくらいだ。

いっそこのまま生涯を終わらせて、楽にしてあげれば良いかとも頭をよぎるが、子供に手を出すのは少々気が触る。

ノヴェは逡巡したのち、少女を無言で抱き上げると、足元の子犬の首根っこを掴む。
目を見開く少女に子犬を渡して、離すなよと言うと足早に自分の屋敷へと掛けた。

屋敷に着くと、さっそく執事のセバスが出迎えた。
隣にはメイドのリズが、一瞬片眉をあげる。

「ノヴェ様、お帰りをお待ちしておりました。さて、貴方様は人間の幼女と子犬を誘拐したのでございますか?」

表情一つ変えずに訊ねるセバスに、即切り替えした。

「するか!いきなり寄って来たと思ったら、マントを掴んで離さなかったんだよ!」

少女を下ろすと、マントを握ったまま自分の後ろにサッと隠れた。
ほれ見ろ、と目線で訴える。

「ほう。ノヴェ様にしては事実のようですね」

なんか含みのある言い方だ。
セバスはほっといて、リズに声をかけた。

「リズ、こいつらが食べれるもん出してやってくれ」

「嫌です」

即答で言われ、流石にイラッとする。

「おい、お前ここの主が俺だってこと分かってるよな?」

少しドスの効いた声で言うと、リズは泣き崩れてしまい、出てもない涙を手で拭い始めた。

「ノヴェ様が浮気を、この私という者がありながらっ!」

「⋯⋯お前はいつから俺の女になったんだよ。いいからさっさと用意しろっ!あと、風呂の用意もな」

するとリズの顔が赤く染まる。
うん、もうコイツ面倒くさい。

ノヴェは嘆息すると、後ろの少女を再び抱き上げ自室へと運び、ベッドの上におろした。
不安に見上げる少女、腕の中の子犬はいつの間にか寝ていた。

「とりあえず、いい加減マントを離せ。あと、お前も横になって休んでろ」

そう言うが、少女は首を横に振りマントを離さない。
まあ、そのままでも脱げるため、マントを脱ぐと少女がマントと俺を交互に見て手を離し、子犬をそっとベッドに寝かせたかと思うと、今度は服の袖を握りしめられた。

うん、もう何も言うまい。
少女の隣に座り、そのまま寝転がる。
少々寝にくいが、これでも俺は疲れてる。
ふわーっと欠伸をしていると、不意に少女が突然胸に飛び込んできた。
一瞬、引き剥がそうとしたが、少女の肩が少し揺れている事に気づき諦めた。

無理もないか、今まで色々なものを溜め込んでいたのだろう。
ノヴェは仕方なく、ぶっきらぼうに少女の頭を撫でた。
暫く無言で撫でていると、部屋のドアからノックと共にリズが入ってきた。

「お食事を⋯⋯⋯⋯⋯⋯お持ちしました」

リズの突き刺さるような視線、瞳孔を開きこちらを睨むがこれは不可抗力だ。
ガチャンと少し乱暴に置かれた食器の音で子犬が起きだす。
自分も体を起こし、少女に食べろと促すと、膝に座ったままスプーンを持つと食べ始める。
おい、降りないのかよと内心思うが、もう勝手にしろと諦めた。

ふわりと広がるミルクの匂いに、焼いた芳ばしい香り、魚のリゾットか?

「これは?」

「秋鮭のミルクリゾットでございます」

リズはそう言うと、子犬の前に大量のお肉を置いた。
子犬はがっつき嬉しそうに食べ始める。
食事を出し終えるとリズは、じっとこちらを見て口を開いた。

「お風呂の準備が出来ましたら、お声掛け致しますね」

何故かモジモジとし始める姿に鳥肌が立つ。
さっきから冗談なのは分かっているが、何がしたいんだお前は。

「⋯⋯ああ、入るのは俺じゃないからな」

一応言っておく。
すると、リズは頬を染めこうのたまった。

「もう、ノヴェ様ったら恥ずかしがり屋さんっ」

もう、どついて良いだろうか?
軽く殺意が湧く。
魚を切り分けるために側にあったナイフに無言で手を伸ばそうとすると、少女にギュッと抱きしめられた。

「ノヴェ様って、罪な男ね」

リズはニヤニヤ顔で言ってきた。
よし、殺ろう。
そう決意をして、少女を下ろそうとするが離れない。

「おりろ、俺はこいつを抹殺しなきゃいけない」

少女が首をいやいやと横に振る。
リズはずっとニヤニヤとこちらを見ていて気に食わない。
俺はチッと小さく舌打ちすると、腹いせにリズに見せつけるように少女を抱きしめこう言った。

「はっ、俺が抱くのはこいつだけだ」

すると部屋のドアが開き、ノックもなしにセバスが入ってきた。

「ノヴェ様、貴方様はいつ幼女に手を出そうと言うのです?このセバスがこの幼女を守ってみせます」

悪ノリにも程があるセバスの言葉に、おい!っとツッコむ。

そして、少女が顔を赤くしている事など気付かないノヴェに向かってリズは小さく呟いた。

「⋯⋯ほんと、ノヴェ様は罪な男ね」

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