✳夜景
「なあ、爺さんや」
魔法の修行でコテンパに負かされた俺は、地べたに寝転がりながら、ジジイ⋯⋯いや、師匠の長いローブを掴むと最後の抵抗に転ばせようと、思いっきり引っ張った。
「なんじゃ、己は!」
「いだっ!!」
ガツン!と強く杖で頭を殴られ、ローブを掴んでいた手を蹴り飛ばされた。
「ジジイのクセに動き早えーしっ!」
「はっ!儂に勝とうなんざ500万年早いわ!それにジジイではなく、師匠と言えとあれ程言っとるじゃろが!!」
ガツンと再び頭を杖で殴られると、流石にもう悪あがきはやめて、大の字になって地面に寝転んだ。
だがしかし、稀代の魔道士が魔法を使わず殴るとは魔法使いの名が廃るんじゃなかろうか。
「この小童が、今のお前にはただの杖だけで十分じゃ!」
ドカリと横に師匠が座ると、呆れたように言われた。
修行に明け暮れ、辺りはすっかり真っ暗だった。
「ジっ⋯⋯師匠、俺ほんとに強くなってるんかな?」
ジジイと言おうとしたら、杖を構えた師匠を見て慌てて言い直した。
すると師匠は少し考える素振りをすると、立ち上がり杖を頭上にかざし始める。
「なら、今からする事を真似てみい」
杖の先が青白く光ると、トンと地面を叩く。
すると杖から地面へと魔力が波紋のように広がり、辺り一面の植物が徐々に淡く光始めた。
遠くにある大きな木までもが光りを放ち、目を見張るほど綺麗だった。
「⋯⋯綺麗だな、ジジイにしては⋯⋯いだっ!!」
思わずジジイと言うと再び殴られ、周囲の光が徐々に消えていった。
「ほれ、へばっとらんでさっさと立て!」
杖で足をビシバシ叩かれ、慌てて立ちあがる。
「杖に魔力を貯め、地面に流すイメージじゃ」
言われた通りに、自分の杖を構えて魔力を貯める。
どれくらい貯めれば良いのかさっぱりなのだが、師匠には負けたくない。
さっきコテンパにやられた分の借りは、これで返してやろうと意気込む。
ありったけの魔力を杖に貯めると、トンと地面を勢いよく叩いた。
勢いよく広がる魔力の波紋。
先ほどの師匠よりも、広範囲に植物が光始めた。
「ほおーーー、なかなかやるではないか。じゃが⋯⋯」
師匠が容赦なく杖で俺の足を叩き、地面に倒された。
痛みで師匠を睨み叫ぶ。
「いっだーーー!何すんだ、ジジイ!!」
「お前はアッポか?あ??修行で魔力もあまり無いというに⋯⋯お前のような馬鹿はそこで寝転んどけ!」
そう言うと、師匠は再びドカリと横に座りポツリと呟いた。
「あれは魔力の強さを測る簡単なものじゃ。お前は十分強くなってるさ」
師匠の呟きに嬉しくなり思わず笑みが溢れる。
植物の光が徐々に薄れていく。
「だな。⋯⋯⋯⋯サンキュ、ジジイ⋯⋯ぃっだーーー!」
頭を無言で殴られると、暫く痛みに悶えた。
9/18/2024, 2:47:47 PM