✳花畑
「なんともまあ、滑稽なものだな」
足元一面に咲くシロツメクサの白い花を一つ引きちぎると、ためらいなく握り潰した。
「こうも弱いと、壊したくなる」
遠くにいた王女を一瞥する。
嬉しそうに花を摘む王女の隣で、護衛騎士がこちらに気づき睨みをきかせていた。
「ただ守られるだけの存在というのは、これほどに愚かでしかない」
護衛騎士に見せつけるように、握り潰した花を散らすと配下に命ずる。
「今宵、王女の命を奪う。王様に気づかれては面倒だ、王には静かに眠れるよう催眠効果のある香を用意しろ」
「ははっ!」
下がる配下を尻目に、今度は優しくシロツメクサの花弁を撫でた。
花が傷つかぬように。
「⋯⋯王女の事は嫌いではなかった。ただ⋯⋯王族が何も知らずのうのうと生きるだけでは、この国は成り立たない」
今だにこちらに気づかぬ王女は、ある意味幸せなのだろう。
王子は小さく嘆息すると、静かにその場を去った。
9/18/2024, 1:33:55 AM