風鈴の音ともに蝉が鳴いている。
私は上京したての若者だ。クーラーは勿体無いからと金遣いの荒い私でもお金の大切さを痛いほど知り節約のため窓を開け、親から送られてきた風鈴をつける。
不思議と風鈴は自分を落ち着かせ気のせいか涼しくしてくれる。
元々は資格のため上京してきたものだから都会の知識などはゼロ、小学生や中学生の時に習ったお決まりの知らない人について行かないなどしか知らない。
勉強やお金、仕事で毎日ぎゅうぎゅう詰だ。
学校では教えてくれなかったぞなんて思い寝転がりながらスマホを見る。
対してオシャレに興味がない自分によくオシャレ動画が流れるのは嫌味だろうか?スクロールしてもスクロールしても、イエベだのブルベ?だのよくわからん単語をつらつらと並べ美人な人たちが喋っている。こんなんだけでこんなにいいねもらえんのかよ。そんな私は非モテ発言しか頭に出てこない。
顔の前に性格だよなーこう言う奴ほど周り見下してんだろ。
素直に美人を褒めればいいのにいらないところで負けず嫌いを発揮して腹を立てる。
そんな思いを打ち消すかのように風鈴が鳴る。
時計を見てみると何かを始めるには丁度いい時間だった。
重たい体を起こしため息をつきながら辺りを見渡す。
「掃除…するか…」
いつぶりだろうか掃除をするなんて、お母さんがいつも掃除をしてくれていたので掃除なんかするはずがないしする時間すらもなかった。
気晴らしには丁度いいかも。
さ、今日も頑張りますか。
「一緒に逃げよっか?」
僕の目の前で口を開き、僕が今一番かけて欲しい言葉を話す君。
こんな理不尽に正解を求められ通り魔のようにくる言葉が普通のこの腐った世界に生きている君と僕。
よくやったよね僕たち。
この子は高校生からの友達で初めて会ったときは君から話しかけてくれた。親のせいで友達ができない僕にとってはとても嬉しかった。この子は完璧を目指して壊れちゃったみたい。
僕と一緒にしていいのかと思うほど僕より大変な人だ。でも君は僕と一緒って言ってくれる。
僕は救いの言葉に答える。
「うん」
君はわかっていたかのような顔をして微笑む。この歳にもなって逃げてもいいのだろうか?周りを裏切ってもいいだろうか?
「冒険だよ、何も悪いことはしてない」
僕の不安の方が大きいのに君の小さな言葉が僕の大きな不安を打ち消してくれる。
そこからはレストラン、公園、他にもいろんなところに行った。いつもより生きているのが楽しかった。そして生きている心地がした。君といると生きている意味がわかる気がする。
そこから僕たちは世界から逃げた。僕たちは冒険をしている。事切れるまで。
「さよなら、理不尽な世界」
「またね、大嫌いな世界」
題名…天才
私は小さい頃からバスケをしてきた。小学校中学校、そして高三の今でもそう、もう高校三年生かーなんて友達と話して部活に向かう今日は新しい一年生が入ってくる日。ずっと続けていたから教えるのは慣れてるし一年生を見た時にそんなずっとやってるていう人はいなかった。
体育館について部活の準備をしていると早速一年生が体育館に入ってくる。一応副部長なため一年生に指示をして並ばせ自己紹介を始める。顧問は今日は予定があってこれないらしい。
だから私達で決めなければならない。
“簡単に基礎練やってミニ試合みたいなのしようかな”
と部長の口から放たれる言葉何年もやってて一番聞き飽きた言葉だ。中学生の時は基礎練なんてつまんないと思っていたがここまでくると慣れてしまった。
適当にドリブルだのなんだのしてる時一年生に教えてやれよーなんて言われたので渋々教えたら1人でできそうなやつを探して話しかける。
「バスケ初めて?」
「はい!」
と元気に返事をしているこいつが私はすごく嫌いになりそうだった。どうせすぐ辞めるでしょ。ていうか高校でやるとか舐めてんの?心の中でイライラを溜め込み口からは甘い言葉を囁く。
「こうするといいよ」
なかなか自分も鬼だと思った。少し難しいよねーなんて煽る言葉を決めている最中私の大嫌いな奴は軽々とこなした。
は?とは思ったけど仕方ないこんなの誰にだってあるしー、
「先輩ありがとうございます!」
他の奴らが寄ってたかって褒める。次第にあいつは天才と呼ばれるようになった。
自分のせいで上手くなるこいつが憎らしかった。
小学生の頃は初めて自分の顔よりもデカくて重いボールを持ち、泣き泣き怒られながらなかなか上達しない自分を恨んだのが思い出だ。だからこそ周りに追いつきたい一心でただボールを触り続けた。周りから上手い、天才!と言われることが日常だった。だからこそ自分より当たり前だか下手なこいつに負けたくない。
時間が経つごとにこいつは上達していった。監督も周りも大人も親も驚いていた。自分でもすごいと思ってしまった悔しくて悔しくて仕方がなかった。
とうとう3年の引退でみんなで記念にゲームをすることになった。一年、2年VS三年だ。
一年に三年のミスで一点取られてしまった。しかも嫌いなあいつに。ミスした奴はヘラヘラ笑っていた。うざかった、お前のせいで取られてるのに笑ってんじゃねぇよ。と言いかけた言葉をどんまいどんまい!次々!という言葉に変え放つ。
ボールを素早くドリブルし、相手を避ける。最後の壁が嫌いなあいつだった。素早くかわし、ダンクしたつもりだった。
横にはあいつの手があった。
「届いて…!」
力を振り絞りボールを押す。床に叩きつけられる音がした、あいつは勿論妨害でアウトだが私はそんなことより、自慢のドリブルを遮られシュートをあいつに蹴散らされた絶望の方が大きかった。私は天才ではなかった、ただ少し天才と言われただけの自分に酔っていただけだった。あいつは天才だ…
私が天才のあいつが嫌だったのは、自分自身が天才ではないことに薄々気づいてたから…
「先輩は天才です。努力の」
あんな奴に気付かされたのが苦しかった。あいつに言われたのが悔しかった。
私は立ち上がり荷物を持って体育館をでた。
あの日見た景色には君がいた。
そんなこと思いながらカメラを構え空の景色を適当に撮る。
小さい頃。やけに大人びていた自分はクリスマスにカメラを頼んだ、それを今も使ってる。周りからは“もうスマホの時代だよ笑?”とか“変なの”としか言われないでも僕はどうでも良かった。小さい子が虫を取って虫籠に入れるのと同じで僕は写真を撮ってカメラの中に閉じ込めるのと同じだ。
唯一君だけが褒めてくれた。人を撮ってみたかった自分は初めて、撮って撮ってとせがまれすごく照れ臭かった。
そんな思い出もあったなぁなんて思うことしかできない。
写真のメモリーには君が閉じ込められている。手慣れた手つきで写真を見ていくと見覚えのある山、空、君、の景色が広がっていた。なぜかどうしても行かなければならないと思った。
山なんて久しぶりだしアウトドア系でもない僕と真反対の君は山が好きだった、だから休みとかは付き添いとかで軽い山にでも登っていた。
山は過酷で嫌になりそうなくらい疲れたけど僕諦めなかったよ。ちょうど写真と同じ時間帯に行こうと思ったけどやっぱり衰えて少し遅くなってしまった。
最後の一歩を登り切った時僕の目の前には山、澄んだ空、が広がっていた。足りないのは君だけ。
せっかくだからと思ってカメラをかざしシャッターを切る。
その時間を閉じ込めることができた。
本当ならここにいたんだろうな。本当ならもっとコレクションはあったんだろうな。妄想だけだけど僕は幸せだった。
また会いにくるよ。
そっと花と君の好きな僕の写真を置いて僕は山を降りた。
私のおねがいごと
なんて、沢山書かれた紙切れが笹に飾られているのを横目に僕はリハビリをする。願い事なんて叶うわけないのに…馬鹿馬鹿しいと思いながら意味のない体操を続けていると後ろから声がした。
「お兄ちゃん大丈夫?」
二つ縛りをし車椅子に乗って笑顔で言ってくる女の子。
病院にいるんだから大丈夫なわけないだろ、って言いたかったけどこの子もそうだろうなんて反省しながら言う。
「うん、大丈夫君は?」
「うーん」
しまった、小さい子で自分の病気もわかってるようでわかってないこの時期が一番心が痛むのではないか?僕のせいでトラウマになって欲しくない。
「私ね死んじゃうんだって」
「えっ」
そうゆう女の子は死ぬと言う言葉を知らないような笑顔で話す。
僕がこの子の歳だったら死ぬと言う言葉も知らないしましてやこんなとこにもいない。むしろ外で元気に走り回ってるところだ。こんな会話は大人でも子供でも気まずい。
咄嗟に無理やり話を変える。
「来週は七夕だね、どんな願い事書くの?」
すると女の子の顔はほんの微かに輝いてるように見えた。
「うーんとね、」
そこで僕は医者に呼ばれた。助かったようで助かってないこの状況で僕は吐きそうだった。
「バイバイまたね」
「お兄ちゃん一緒に星見ようね」
「、うん」
と話して僕は去る。次の日もまたその次の日もその繰り返しだった。
七夕前日、いつしか僕の日常にあの子と話すことが当たり前になっていった。
「お兄ちゃんあのね、私明日までに死んじゃうかもしれないの」
鈍器で殴られた衝撃といつしかこうなるだろうなと思っていた感が当たって気持ちが悪くなった。
僕はそのまま白い天井の下で目を覚ました。
気づけば日付は変わって7日七夕だ。話を聞けばあの後僕は倒れあの子が看護師や医者らを呼んできたらしい。すごい行動力だ。
ベットから起き上がりあの子のところに行く。
もういなかった。忘れてた。どうして忘れていたのだろう。いつかした約束を果たせず、最後は助けられてお礼も言わずに生きた僕が代わりに代わってやりたいと思うほど罪悪感で息が苦しくなってうずくまっていた。もうあの子はいないのだ。正論と僕の病気だけが残る。あの子は残ってくれなかった。
顔を上げると風に揺られている笹を見つける。落ちている短冊を拾い名前を見るとあの子の名前だった。
“お兄ちゃんのが病気治りますように”
あの子は病気がなければ今は2年生らしい。学校に行っていれば綺麗だったろう字が不慣れで不器用な字て書いてある。
死ぬ間際まで僕のことを考え自分のことでなく他人の幸せを願う君が羨ましく思った。でも僕もそう長くないのだ。
今まで逃げできたこの病気に今向き合う決意ができたよ。
僕が生きていても優しい君なら許してくれるだろうか?
僕がそっちに行くまで待っててね、
一年後、七夕の日僕は今もあの子のことを忘れていない。
後ろで聞き慣れ、望んでいた声がする。
「お兄ちゃん」
願い事、叶ったよ