作品34 イルミネーション
お隣さんちは毎年、クリスマス付近になるとイルミネーションの飾り付けをしている。庭の木にも、テラスにも、家本体にも。
とっても綺麗だ。ここらへんに住んでる人達では名物となっている。
そんなお隣さんとは家族ぐるみで仲がいい。親が大学からの親友だからだ。
親がいる。それはつまりは子供がいるということだ。
お隣さんは三人家族で子供が一人いる。僕と同級生の息子だ。こいつがとんだ変わり者で。
特徴としてはメガネをかけて、ようわからん本を持って、部屋には漫画とフィギュアがたくさん。いわばヲタクと言うやつだ。かく言う僕もそうだけど。そのくせして頭がいい。ついでに性格もいい。
そこは僕とは正反対。そういうところを含めて、よくわからんやつだ。
前置きが長くなった。ちょっと僕とこいつについての昔話を聞いてほしい。
四年前のクリスマス三日前。ややこしいな。四年前の十二月二十二日。うん、こっちのほうがしっくりくる。多分だけど。
いいからさっさと続けよう。とにかくその日、僕は好きな人に、クリスマスの日一緒にイルミを見に行こうよと誘った。二人だけでというのも勿論付け足した。要は告白だ。
その人と出会いは席替えで、たまたま隣になった。その人は休み時間のたびに僕に話しかけてくれた。
その人のもう片方の隣の席には、クラス一のイケメンがいるのに!つまりこれは、……そういうことだな!てな感じで好きになった。
そしてあっけなく振られた。恋人がいるからと。相手はあのイケメン野郎で、学校で話しかけるのは恥ずかしいから喋らなかったらしい。
まあ、当然傷つくよな。だから僕は隣の家のあいつに、ゲームしながら愚痴った。
聞いてくれよーあの子僕のこと何とも思ってないってーこんなに頑張って誘ったのにー。という僕に対して、はいはいそうだな可哀想に。くらいしかあいつは言わなかった。
「あーあ。今年もクリぼっちかー。」
「そうだな。」
「一度でいいから好きな人と過ごしてみたいよ……」
「可哀想に。そこ罠仕掛けた。」
「おい!話もちゃんと聞いてくれないくせになんてことすんだよ!」
「ポテチやるから許せ。」
「許す。」
「はい勝ったー。」
「おい!あーくそ!クリスマスも告白もゲームも、全部うまく行かない!もうやだ!」
「そうだな。はい、ポテチ」
「あー。もーやだー。」
「喋りながら食うな。」
「あの公園のイルミ、綺麗って話で有名だから一緒に見に行きたかったのに……」
「……どれもそんな変わらないよ。」
「変わるよ!」
「俺んちよりも?」
「なんて答えづらい問いをするんだ」
「冗談だよ。」
「分かりづれーよ。」
とまあ、ここまでは普通の会話だ。こいつのやばいのはこのあとだよ。
「でもまあ実際、メガネを外すか泣くかすれば、全部同じに見えるけどな。」
「へー。」
「なあ。」
「何?」
「ちゃらけようとしなくていいんだよ。」
「……へ」
「泣いていいんだよ。」
「何言って」
「泣きなよ。」
「いや何が」
「そんな顔してるのに。」
「……」
「今からメガネ外すから、なんも見えないよ。好きにしな。ただし、無理はすんな。」
なんて言ったのですよ!イケメンすぎない!?
哀れんでくれたのか、その年から一緒にクリスマスを過ごすことになったんよ。
というのが昔話です。そしてここからは愚痴です。
そいつ、今年は彼女と一緒にクリスマス過ごすってよ。ふざけんな。
作品33 愛を注いで
親に愛され過ごしてきた。血は繋がっていないけど、本当のわが子のように愛されていた。幸せだった。だけど、妹が生まれた途端愛されなくなった。
異性に愛され過ごしてきた。容姿が整っているからだ。どいつもこいつも体目当てだった。後々聞いた話だと、賭けの対象にされていたらしい。
友人に愛され過ごしてきた。お小遣いをたくさんもらえていたからだ。たくさんプレゼントを送った。友人が私の悪口を言っているところを見るまでは。
後輩に愛され過ごしてきた。部活のお別れ会では呼ばれなかったけど。
先輩に愛され過ごしてきた。そのはずだ。だから大学は親愛なる先輩についていった。再会したとき、まじでついてきたのかよと、引かれた。
みんなに愛され過ごしてきたはずだ。それは私の勘違いなのかもしれない。
誰か、私に本物の愛を注いでください。
作品32 心と心
身震いがした。鳥肌が立った。感動とも嫌悪ともとれる、そんな興奮。心を鷲掴みされただけでなく、揺さぶられたような感覚。それらがどっと、押し寄せてくる。
彼が書いた作品は、そんな物だった。
設定はすごくありきたりな内容。
主人公がただただ不幸な話で、最後は何も報われず、ひとり寂しく死ぬというバットエンド。
ありきたりすぎて、オチが弱い。まあ、素人にしてはいいほうだと思う
ただ一つずば抜けている点は、文章力だ。
嫌に粘りっこいのに、読む手は止まらない。胃もたれしそうなのに、これまでにないほど爽やかな読み心地。幼児でも読めそうだけど、とてつもなく重い文章。客観的なのに感情的。
それはまるで、心と心が紙越しに繋がったような感覚。
こんなの初めてだ。この人がいい。この人に、私の人生を書いてもらいたい。
そう思ったから彼に取材をしてもらった。
出身地、育った場所、好きな食べ物に嫌いな食べ物、恋愛経験、嫌いな人、学歴、習い事、部活、家庭環境、思い出、辛かったこと、楽しかったこと。それ以外にもたくさん聞かれた。
全ては、私の人生の小説を書いてもらうため。これからの人生の台本のため。
私は機械だ。他の機械と違うのは、元人間だったということ。そのため、僅かに感情がある。
機械が人間に逆らうことがないように、我々は人生の台本を人間に作ってもらう義務がある。普通なら主人が作ってくれるのだが、私は特別に、自分の好みで選べることになった。
そうして私だけの台本が渡される。読んでみる。つまらない内容だけど、楽しそうに見えてきた。
これからの人生が楽しみだ。
作品31 何でもないフリ
風の強い秋の日。祖母のお葬式にでた。
そんなに会ったことがなかったからあまり悲しくなかった。泣けなかった。
そしたら親戚のおばさんに、無理に何でもないフリしなくていいと言われた。
だから悲しそうなふりをした。泣くことはやっぱりできなかった。棺にお花を入れるときだけ、ちょっとだけ怖かった。
葬式のあと、叔父が一人一人に手紙を渡していった。名前が書かれているのを読むと祖母の字だった。叔父曰く、祖母がみんなに向けて書いたらしかった。
家に帰ってから、自分の部屋に篭もる。
そっと便箋をあけ、丁寧に四つ折りされた手紙を取り出す。ふわっと金木犀の香りがした。祖母の、大好きな匂い。
手紙を開くと、イチョウの絵があった。祖母と祖父の、大事な想い出らしい。昔、一緒に寝たときに教えてもらった。祖父は、生まれるずっと昔に死んでるから面識はない。
縦書きで書かれたそれを読みはじめる。
まず最初に、
『無理に悲しいフリしなくていいよ』
そう書かれていた。少ししか会ってない孫のことをよく知っているもんだ。
その先には、生まれた時のこと、小学校に入学した時のこと、ある年の正月、昔はよく遊びに行った夏休み、最後にあった冬休みの思い出が、たくさん書かれていた。
読み終えてから、大事にされていたんだなと気づく。
それでもやっぱり泣けない。悲しくなったけど、泣けない。もっと。もっと泣けるようになるまで、たくさん会えばよかったな。
そうしてやっと涙がこぼれた。
それは後悔の涙だった。
ここは、天国?川の向こうにあの人が見える。
待っていてくれたんだ。約束を、守っていてくれたんだ。
もうちょっと待ってて。すぐそっちに渡るから。
ほら。両手いっぱいにイチョウを持ってきたよ。わたしも約束、忘れてなかったからね。
⸺⸺⸺
作品4 秋風 と
作品8 たくさんの想い出 の
二人が夫婦だったバージョン
最後の謎の行は、亡くなった祖母(またはわたし)のシーンです
作品30 仲間
「ゲームセット」
「「ありがとうございました!ありがとうございました!ありがとうございました!」」
一つ目は相手に、二つ目は審判に、三つ目は観客方に。何度繰り返したかわからない連続感謝。
こんなに連続で言うことは多分もうないんだろうな。だってさっきのが最後の試合だったから。
高校生になったら勉強に専念するという家の決まり。けど、それまでならなんでも自由にしていていい。
特にやりたいことのない私は、なんとなく兄弟みんながやっていた卓球を選んだ。
そしてハマった。
全然強くないけど、ドライブが上手く行ったときとか回転をかけたサーブが効いたとき、スマッシュを思いっきり決めたとき。全部がすごい楽しかった。
楽しかったせいで思う。やめたくなかったなと。
敗者は審判をやる。他のスポーツもそうなのかは、よく知らない。椅子に腰掛け、得点板をゼロにあわせる。
ダブルスの審判になってしまった。
ダブルスは正直苦手だ。自分の思い通りに動けないし、相手のことまで考えられないから。だから、できる人はすごいと思う。
練習を少しだけさせ、先攻後攻を決めさせる。先攻のチームにボールを渡し、試合を開始させる。
「第1セットラブオールプレイ。」
「「お願いします!お願いします!お願いします!」」
「デュースです。」
第5セット。このセットを取った方が勝ちだ。どちらも強い。それでいてどちらも同じ強さ。
正直見ていてすごい面白い。
左利きと右利きのチームに、二人とも両利きのチーム。どちらかといえば、前者が勝ちそうだ。けど、わからない。それが面白い。
左利きがサーブを出す。横回転のように見える。そしてそれに引っかかる。
終わっちゃったか。
「ゲームセット。」
「「ありがとうございました!ありがとうございました!ありがとうございました!」」
最後にいいものを見させてもらった。
結果を書いた紙を、負けたチームに持っていく。これで私の仕事は終わりだ。
未来ある若者よ。これからも私の分も頑張ってくれたまえ。
ベンチに戻る途中にふと考える。もし私にダブルスをやる意志があったら、今ごろ違ってたのかな。
勝っても負けても互いに慰めあえて。悔しさは倍増しそうだけど、楽しさも倍増しそう。
いいな。
もっとやりたかった。
⸺⸺⸺
ダブルス=仲間ってことです。
締め方がわからない。