作品30 仲間
「ゲームセット」
「「ありがとうございました!ありがとうございました!ありがとうございました!」」
一つ目は相手に、二つ目は審判に、三つ目は観客方に。何度繰り返したかわからない連続感謝。
こんなに連続で言うことは多分もうないんだろうな。だってさっきのが最後の試合だったから。
高校生になったら勉強に専念するという家の決まり。けど、それまでならなんでも自由にしていていい。
特にやりたいことのない私は、なんとなく兄弟みんながやっていた卓球を選んだ。
そしてハマった。
全然強くないけど、ドライブが上手く行ったときとか回転をかけたサーブが効いたとき、スマッシュを思いっきり決めたとき。全部がすごい楽しかった。
楽しかったせいで思う。やめたくなかったなと。
敗者は審判をやる。他のスポーツもそうなのかは、よく知らない。椅子に腰掛け、得点板をゼロにあわせる。
ダブルスの審判になってしまった。
ダブルスは正直苦手だ。自分の思い通りに動けないし、相手のことまで考えられないから。だから、できる人はすごいと思う。
練習を少しだけさせ、先攻後攻を決めさせる。先攻のチームにボールを渡し、試合を開始させる。
「第1セットラブオールプレイ。」
「「お願いします!お願いします!お願いします!」」
「デュースです。」
第5セット。このセットを取った方が勝ちだ。どちらも強い。それでいてどちらも同じ強さ。
正直見ていてすごい面白い。
左利きと右利きのチームに、二人とも両利きのチーム。どちらかといえば、前者が勝ちそうだ。けど、わからない。それが面白い。
左利きがサーブを出す。横回転のように見える。そしてそれに引っかかる。
終わっちゃったか。
「ゲームセット。」
「「ありがとうございました!ありがとうございました!ありがとうございました!」」
最後にいいものを見させてもらった。
結果を書いた紙を、負けたチームに持っていく。これで私の仕事は終わりだ。
未来ある若者よ。これからも私の分も頑張ってくれたまえ。
ベンチに戻る途中にふと考える。もし私にダブルスをやる意志があったら、今ごろ違ってたのかな。
勝っても負けても互いに慰めあえて。悔しさは倍増しそうだけど、楽しさも倍増しそう。
いいな。
もっとやりたかった。
⸺⸺⸺
ダブルス=仲間ってことです。
締め方がわからない。
12/10/2024, 1:50:22 PM